マジで軽蔑した五分後

 部屋に閉じこもり。

 俺は先ほど遭遇した、胃が痙攣しそうなシーンを思い出す。


 正直に言おう。

 軽蔑しながらも、俺は半勃ちだった。心と身体は別腹だからな。世の中には鬱勃起という言葉があるくらいなんだから。


 いやそりゃそうもなりますお。いくら現実では到底お目にかかれない狂った状況だとしても、女子の全裸がたっくさん広がっていたんだからさあ。俺が変態なわけじゃない。

 なんというか、宴会でお色気コンパニオンを多数呼んで集団ストリップさせてる光景ですらあそこまでいやらしくないよね、予想で言ってるけど。

 だってみんな交尾してたんだよ? ランチキランチキ楽しい乱痴気ユカイな乱痴気、某キャバレーグループも太刀打ちできない大惨事世界性戦だいさんじせかいせいせんの勃発だ。ひょっとするとメンバー内に武丸とかいたかもしれない。


 ──武丸とかリューヤとかマー坊君とかいなかったか調べるため、あとで坂本先生にお願いして、撮影した乱痴気画像を譲ってもらおうっと。


 かといって、興奮と現実の七難八苦もまた別腹だ。乱痴気で一発やっちゃったのがバレたから一発逆転も不可能という、山中鹿之助ですら願わない状況。


 まあ、常識的に考えて、こんなうわさが広まってしまっては、あの高校も終わりだと思うから、学校側は全力で隠蔽しようとするだろうな。

 乱痴気に参加していた生徒の退学は避けられないだろうけど。


 そうなるとどうだろう、自習時間を悪用してあのとき乱交していたやつらは十数名程度みたいだが、違う時に参加していた奴らにも同様の処分が下される可能性が大だ。

 そうすれば話は大きくなって、きっと隠そうとしても隠し切れない。来年になったら生徒が入学してくれなくて廃校処分もありうる。まともな親だったら、乱痴気パーティーが開かれていた学校に大事な子供を進学させたくないだろ。


 …………


 ひょっとすると、坂本先生、職を失ったりして。いいとばっちりだな。


 そんなことを考えていたら、何か飲みたくなってきた。いろいろとグレン○ガンレベルで天元突破したせいで極度の興奮状態、そりゃ喉も渇こうというもの。

 仕方なく部屋を出て階段を降り、ダイニング兼リビングへ向かうと、すでに美々の姿はなく、義母さんのすすり泣きが響くのみ。


「美々は?」


 横で背中をさすりながら義母さんを必死でなだめているオヤジに、俺は訊いた。


「……ああ、まあ憔悴していたし。とりあえず風呂を沸かしたから入らせてる」


「ふー……ん?」


 俺は、美々が座っていた椅子の上を見て、そこが濡れてるのに気づいた。

 なんだこれ、と思ってそれを指で拭う。


 ねちょ。


「!?!?!??!」


 やめときゃよかった。やっててよかったのはラマーズ法と公文式だけだ。やっちまった感が強すぎて、途中で思わず感嘆符逆転しちゃったじゃねえか。

 指先を離すと、椅子と指の間に粘った糸が引かれ、すぐ切れる。なんとなくだけどやや白がかってる液体のような気もする。ニオイ嗅いで確認したいような嗅ぎたくないような。


「あのさ、今こんなこと言うのもなんだけど。美々ってアフターピルとか飲んでたんかな?」


「……なんだと?」


「多分避妊してなかったんじゃない? この痕跡からさ。多分これ、美々のアソコから垂れてきたものだよ」


 美々が座っていた椅子についていた液体を指して、俺はそう言った。両親固まる。


「ついでに言うと、俺は今後一切、美々にかかわりたくないんだわ。なんなの? いままでもさ、『キモイ』とか『近寄んな臭いから』とかさんざん言われてたんだけど、俺はいちおう義理の妹だから、なんとか仲良くしたいとは思っていたから、我慢してたんだよ?」


 そこで義母さんが真顔になった。俺の苦悩、見て見ないふりしてたの知ってたからね。悪いけど。

 ホント、清純な美少女の誘惑ならいくらでもバッチコイだけど、世紀末覇王もひるむほどの肉便器女なんか『ばっちい、くんな』と拒否するよな。拒否する権利くらい俺にもあるよな。


「だけど、もうさすがに限界。美々が存在するってだけで、気持ち悪くて仕方ないんだ。この家が」


「……言いすぎだ、卓也たくや


 ああ、やっとここで俺の名前が出てきた。俺の名前は藤川卓也だ。球児って名前じゃないから、そのあたり認識しておくようにお願いしたい。


「どこが言いすぎだよ。不特定多数におっぴろげアタックかましただけじゃなく、いろんな男から中出しアタックまでされてんだよ? けっこう仮面ですらあの世で嘆くっての」


「……けっこう仮面はまだ死んでないと思うぞ」


 ツッコむとこそこかい、オヤジよ。


 まあいいや。

 俺は指を洗うために洗面所へ向かった。あれほどまでにいろんな男に裸を晒していた女だ、今更俺に見られてもどうってことないだろうから、美々が風呂に入ってようが気にしない。

 そこで指を洗ったついでにちょっと洗濯機をさぐり、中に脱ぎ捨てられた美々が今まで履いていたぱんつらしきものを拾い上げ、リビングに持っていった。そこまでの余裕がなかったのか、ぱんつは下洗いされず直で脱ぎ捨てられてる。


「……みてくれよ、これ。こんな下着と一緒に、俺のパンツを洗われたくねえし」


 美々の下着の、ぐっちょりと他の男の体液がついた部分を強調すると、オヤジと義母さんが絶句していた。言葉で聞くのと、生々しい痕跡を目の当たりにするのとでは、衝撃の度合いが違うだろう。

 きっとオヤジと義母さんにも、この光景はトラウマになるに違いない。


 しかし、この俺が思春期の女子みたいなセリフを言う羽目になるとはね。

 今までは逆で、美々が俺のパンツと一緒に洗濯するな、というほうだった。あれ本当に傷つくからな、いくら思春期でもお父さんに言っちゃいけないセリフナンバーワンだ、心せよ思春期女子。


 まあ、さっき言ったことはまぎれもない本心。

 俺のパンツに俺以外の精子がくっつくことは、たとえ洗濯の結果でも許さん。俺のパンツが俺以外の種で妊娠したらどうすんだ。

 今の俺が信じられるのは、俺が寝てるときにうっかり夢精しちゃっても中できっちり受け止めてくれる、俺自身のパンツだけだよ。

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