サバイバル

「そっち行ったぞ!」

 狩人に狙われたウサギが、必死に山を駆け回る。

 あたりをジグザグに走り、狙いを付けられないように小回りを利かせて。

「撃て!」

 狩人は弓を引き絞り、必死に動きまわる獲物に狙いを定める。

 魔法も剣も無い、トラップはスルーされてしまった狩人には、もう弓しか残されていない。

 この獲物を逃せば、次に取れるのはいつになるのか。

 おなかが減って力が出なくなる前に、飢えてしまう前に獲物を捉えねば、死んでしまう。

「やった!」

 放たれた矢が、ウサギに命中する。狩人はウサギをさばこうとナイフを取り出し近づく。

「おい、捕まえたぞ!」

 仲間を呼ぶが、返事はない。ほかに獲物を見つけたのかもしれない。

 狩人は、射抜いたウサギが倒れているであろう場所へ足を運ぶと。

「ヒィ」

 自身の三倍はあろうかという熊が現れた。狩人の脳裏に、ウサギを横取りするためだろうかという考えがよぎった。しかし、ウサギは見当たらず、熊がその腕に矢を持っているのを見て違うと悟った。

「貴様……何故、我らの仲間を狩る」

「しゃべったぁぁぁぁぁぁ!」

 熊がしゃべった。狩人はとても怖かった。

 二足歩行で矢を素手(?)でつかみ、しゃべる熊。モンスター以外の何物でもない。

 だが、まんま熊の姿をしたモンスターなんて聞いたことが無い。

「た、たすけ」

「そういって命乞いするウサギを、貴様らは助けたか?」

 あ、これは食われる奴だな。と、狩人は悟った。

 そっと地面に寝転ぶと、胸の前で手を組んで。

「出来れば一思いに食べて」

 とつぶやいた。

「……いや、人間マズいから食わないし」

 狩人はちょっと傷ついた。

「マズいかどうかわかんないじゃないですか!」

「いや、本当にマズいんで。脂身多すぎるし。筋肉固いし。臓物臭いし」

「食ったことあるんですか、私を!」

 狩人は自分でも「何言ってんだろう」と思わずにはいられなかったが、変な意地が出てきてしまった。

「お前は食ったことないがな。ほかの人間は食った」

「えぇー引くわー」

 熊のリアルすぎる告白に、狩人は青ざめていた。

「引くわー。人間食うとか怖いわー」

「仕方があるまい。武装して襲ってきたうえ、我の子供を連れて行こうとしたのだ」

「なら仕方がないね」

「そうだな」

 狩人は熊と意気投合していた。弱肉強食の自然界で生きるからかもしれないが、狩人は熊の考えがよくわかった。

 自分たちを害する敵がいて、おとなしく狩られるだけの動物など居ない。

 皆一様に抵抗するし、逃げる。それを「抵抗するとは何事だ」という人間の考えに疑問を持ってもいた。

 だが、しゃべる熊と出会ったら、怯えるのが普通だろう。だから出来る限り命を繋ぎ止められる方法を模索するし、助けてといって助かるならもうけもんだ。

「ということで食わぬが殺す」

 あ、無理だなと思った。

 狩人の脳裏にこれまでの人生がよみがえる。

 生まれて初めて弓を持った日。父親から冗談半分で剣を向けられ、弓で射殺したあの日。

 国から追われることになり、それまでの人生を捨て、他の国でやり直そうと走り回った日々。

 安住の地を見つけて、嫁と子供を得て、これからという矢先の出来事だった。

 ここで死ぬわけにはいかない。なんとしても生きて帰らなければ。家には嫁と子供が待っているのだから!

「嫁と子供のためにも、ここで殺されるわけにはいかげふぅ」

 狩人は立ち上がろうとした瞬間にボディーブローを受け、その場に倒れた。

 そして気を失っている間に熊によって『見せられないよ!』な現場を作られた。

「ふぅ。埋めておかねば」

 熊は狩人を入れる穴を掘ると、そこに放り込んだ。弓矢は奪っておいた。

「たしか、嫁と子供がいるという話だったな。狩りに来ていたということは近くに集落があるのだな。ふむ」

 熊は思案すると。

「なるほど。捜索にくるな。大規模だな。駆除されるか。したがって——」

 覚悟を決めた。

「滅ぼさねばならぬ」

 先ほど埋めた狩人の、仲間から奪っておいた弓矢を手に、森の仲間たちと人間を襲撃する覚悟を。

 こうして森のくまさんたちは人間の集落を急襲し壊滅させた。

 熊さんを筆頭に猛獣たちが連携を組み人間を森の周辺から追い出した。

 そして周辺国からの攻撃を受ける前に「森のくまさん国」として独立を宣言。

 誰もまともに取り合ってくれなかったが、たまたま森に狩りをしに来た貴族が、どこかの国の王様だったため、これを撃退。

 王様を捕虜とした熊さんは、相手の国と交渉することで独立国の地位を築いていった。

 群雄割拠の戦国時代を、森のくまさんたちは駆け抜けていくのだった。

 

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