朝の挨拶

「おはようございます」

「「「おはようございます!」」」

 出勤して最初の仕事は朝礼だ。まずは元気よく挨拶をということで、課長の音頭で声を出している。

「もう一度、元気よく。おはようございます」

「「「おはようございます!」」」

 これが長い。朝っぱらから疲れる。本当、必要かこれ。

「先日越してきたばかりの隣の奥さんと出会った時のように、おはようございます」

「「「おはようございます!」」」

「その時、奥さんを追いかけて飛び出してきた旦那さんに向けて、おはようございます」

「「「おはようございます!」」」

「何かあったのか、微妙な距離感の二人に向けて、おはようございます」

「「「おはようございます!」」」

 そういう時は触れてやるなよ。っていうかなんで何度も挨拶してんだよ。

「通勤途中、バス停でいつも一緒になる女子高生に出会って、おはようございます」

「「「おはようございます!」」」

 ……おい。犯罪の香りがするぞ。

「バスに定期で乗車し、車掌に向けて、おはようございます」

「「「おはようございます!」」」

「見事女子高生の横のポジションにつけて、おはようございます」

「「「おは、ようございます!」」」

 犯罪臭しかしねえよ。みろよ、みんな戸惑ってるじゃねえか。

「赤信号で停止して、バランスを崩した女子高生が私にぶつかってきて、心の中で?」

「「「おはようございまーす」」」

 寝起きどっきりか。なんで声を潜めるんだ。っていうかなんで今ので伝わるんだ。

「バスを降りて、女子高生が通う女子高へ入っていったのを見送り」

「「「おはようございます」」」

 アウトだ。それは犯罪だろ!

「女子高を後にして当店に到着し、開店前にパートの沖津城さんといちゃついていた上司に」

「「「おはようございます!」」」

 いちゃついてるところに挨拶すんなよ。っていうか上司が隣にいるのによく出来るな、その朝礼。

「上司へ『本部へ報告しますね』というと、やめてくれ。俺には家族がいるんだ。と返されました。そこで『わかりました』と答えました。後日、店舗視察に来た本部の役員へ」

「「「おはようございます!」」」

「せっかくなのでこの間あったことを役員のかたに報告した私へ」

「「「おはようございます」」」

 そこで報告してんのかよ。

 っていうかどうしてこの状況であいさつが続けられるのだろうか。怖いんだけど。ここ、サイコパスだらけかよ。

「えぇ、本部へは報告していません。役員に報告しました。約束はきっちり守っております。しかしその結果、上司から賄賂を受け取っていたことが分かり、本日めでたく異動となりました、私に?」

「「「さよーなら!」」」

 息ぴったりじゃねえか。っていうかなんだ。仕込みか。

「では、私からは以上です。それでは部長、よろしくお願いします」

 ……首にすべきだよな、こいつ。

「はいそれでは報告があった通り、課長は異動となります。決して私の件が関わってのことではありません。単純に昇進ということになります。そして私が課長に降格し、この店の店長をすることになりました。よろしくお願いします」

 なんで降格させられた上にこんな弁解せにゃならんのだ。まったく。世の中間違っている。

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