魔法少女

「僕とけいやむぎゅぅ」

「そのセリフは駄目よ」

 窓をコンコンと叩く音がしたのでカーテンを開けてみると、真っ暗闇に溶け込むような黒猫さんがいた。

「まだ言い切ってないんだけど」

「とにかく駄目よ。それ以上は口が裂けるわ」

「裂けるの!? 裂けても言っちゃダメじゃなくて!?」

 猫さんが人間の言葉をしゃべるというだけでも驚きなのに、何を契約させようというのかしら。

 宅配かしら?

 えぇ、そうね宅配ねそういうことにしておきましょう。

「とにかく家では猫は飼えないから、帰って」

「ち、違うよ! 僕とけいやむぎゅう」

「その単語を言わないように、でもストレートに言ってごらんなさい?」

 口から手を離すと、黒猫さんが考え始める。首をかしげてる。かわいい。

「魔法少女になってほしいんだ!」

「断るわ」

「……だろうね」

 がっくりとうなだれた黒猫さんもかわいいわ。

「それに荷物も運ばないわ」

「……どっちのネタかわからないけど、魔法のほうだと仮定してしゃべるね。戦ってほしかったから、荷物は運ばないよ」

「そう」

 興味がないから、とりあえず窓を閉めましょう。

「危ないから、手を放して」

 けど、猫さんに抵抗されてしまった。どうしよう、耐えてる姿もかわいい。

「お、お願いだよ。君しか、魔法少女になれる子がいないんだ!」

「そういわれても興味が無いんだもの」

「嘘だ!」

「……人の部屋に来て、いきなり嘘だっていうのはないんじゃないかしら?」

「いや、明らかに嘘でしょ! だって部屋中魔法少女グッズだらけじゃないか!」

 あらいやだ。乙女の部屋を覗くだなんていけない猫さんだわ。

「でも、自分が魔法少女になるっていうこととは別よ」

「ぬぐ……。でも!」

「それに、命の保証がないじゃない。戦うってことは、殺されるかもしれないってことでしょう? いくら何でも、高校生にすらなってないのに、この年で死にたくはないわ」

「死にはしないよ、大丈夫! 魔法の力で何度でも生き返れるから!」

「……それ大丈夫じゃないわよね。目的果たすまで何度も復活させられるってことよね」

「何度でも立ち上がり、君だけの栄光を掴むのさ!」

「残念だけど、リスクやマイナスは僕にとって起爆剤じゃないのよ」

 というか、魂をすり減らして得られるのが栄光だけってどうなのかしら?

「とりあえず帰ってくれる? 夜更かしはお肌の敵なの」

「そうもいかないんだ! 敵がそこまで迫ってるんだよ!」

 猫さんが手を空に向ける。けど、猫さんも空も真っ黒で何も見えやしないわね。

「……どこかしら?」

「……魔法少女になると見えるんだけどね」

「……それ、新手の詐欺よね」

 自分が言っていることが詐欺っぽいことがわかっているのでしょうね。ちっちゃな顔を背けて黙り込んでしまった。かわいいわ。

「お願いだよ……。このままでは地球が滅びちゃうんだよ」

「それなんだけど。地球規模なら私じゃなくてもほかにいるんじゃないの?」

「ううん。駄目なんだ。僕の『魔法少女コネクター』は、君にしか反応しないんだ」

 猫さんが取り出したのは、黒猫のチャームが付いた丸いコンパクト。ちっちゃな黒猫がとてもかわいい。欲しいわ。

「これは?」

「魔法少女コネクター。変身するときのアイテムさ」

「……でもコンパクトって古くない?」

「……様式美って言ってほしいな」

 まあ、かわいいからいいけど。

「お願いだよ。君しかいないんだ。僕のコネクターで魔法少女になれるのは『魔法少女が好きで、かわいいを愛する心を持った男の娘』だけなんだ!」

「まぁ、うん」

 いろいろ言いたいことはあるけれど、僕しか駄目な理由は分かった。

「それじゃ!」

「お肌に悪いから断るわ」

「そんな!」

 ピシャリ! と、窓とカーテンを閉める。さぁ寝ましょう。

 明かりを消してベッドに潜り、目を瞑ったのだけれど。

「きゅーん……きゅーん……」

 窓をカリカリしながら黒猫さんが鳴いている。はぁ、しょうがないわね。

「一回だけよ?」

 嘘。きっと何度も戦うことになるわ。

「わぁ!」

 だって、この猫さんがあまりにもかわいいんだもの。願いを聞いてあげたくなるじゃない?

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