キャンプファイヤー


「『我が眼前の敵を焼き尽くせ、ファイヤストーム!』」

 呪文っぽいセリフと共にスイッチを押すと、格子状に組まれた木々の中央から炎が出た。

「おー」

「イケルな!」

 中央からメラメラと炎が立ち上る様はまさに炎の呪文!

「絶対先生に怒られる奴な!」

「黙っておこうな!」

 文化祭の最後にキャンプファイヤーをやるというので、俺たち二人が手伝いを申し出た。

 もちろんこの仕掛けを突っ込むために。

 燃焼工学を必死で学び、最小で最大の効率が得られるよう研究し尽くしたキャンプファイヤーの威力を、みんなに見せてやるためだ。

 普通に燃やしただけじゃつまらないし、中途半端な勢いでちょっとずつ燃えるのも味気ない。

 しっかりと立ち上がった炎を囲み、みんなで踊る。これがいいのだ。

「悪魔召喚の儀式っぽいな!」

「モンスター2体をいけにえに捧げて召喚しそうだな!」

 田中が何か言い出した。何かのアニメだろうか。

「……何の話だ?」

「気にするな!」

「お、おう」

 気にするなというならまぁ。

 ともかく、これで明日の文化祭が楽しみだ。


「失敗した!」

 結論から言うと爆発した。

 掛け声とともに炎が立ち上がり、喝さいが起きた。と同時に、異変に気付いた教師に止められ、消化することになったのだが。

「まさか爆発するなんてな!」

「あぁ!」

 どんなに炎が渦を巻こうが、爆発なんてするはずがなかった。せいぜい木材が爆ぜるくらいのはずだ。

 爆発はとても多くのけが人を出したものの、重傷者はゼロ。でも、これで俺たちは卒業を待たずして退学だろうなと思っていたら。

「よーばれて飛び出てじゃじゃじゃ……あー、これ古いか。まぁいいや、とう!」

 炎の中から何か出て来たけどそれどころじゃない。

「田中。毒島。俺言ったよな。無茶はするなって」

「はい」

「すんません」

 爆発させてしまったので、教師からおしかりを受けている。

 炎は少しずつ収まってきているので、あとはもう普通の焚火。危険性はない。

「なんでキャンプファイヤーが爆発するのかな」

「よくわかんないです」

「勉強不足っした」

 誰かが燃料とか入れてたとしか思えない。

 俺たちが研究したのは効率よく燃やして、炎を立ち昇らせる方法だからだ。

 だけど調べてみなければどういう状況だったかはわからないので、とにかく平謝りだ。

 というかどう考えても原因なのだけど。

「おーい。こっちこっちー」

「なぁ、田中。毒島。何も俺は派手にやるなとは言ってない。危険を出来るだけ排除し、トラブルがあっても被害を最小に抑える。その研究をしろと言ってるんだ」

「はい」

「申し訳ないっす」

「今回の問題は『被害者を多く出してしまった』ことだ。これが終わったらちゃんと研究して発表するように。いいね!」

「「はい」」

 おぉ、退学はなさそうだ。なんて寛容な学校だ。素晴らしきかな我が母校。

「聞けって! 全裸の美少女が立ってるんだぞ!」

「「「なんだって!」」」

 声のしたほうを振り向くと、炎をバックに全裸の女の子が立ってた。

 ただし、炎を服のようにまとっているので、大事なところは見えないし、むしろ炎の服のほうが興味あるんだけどあれすごいどうやってるんだろう。

「よーやくあたしのことを見たな。聞いて驚け。あたしは炎の魔人、イフリー」

「その服、どういう構造?」

「ギャー!」

 炎の服を調べたくて近寄ったら避けられた。傷つく。

「急に近寄ってくるなよー! えっち、変態!」

「あ、本体に興味はないんだ。その服が見たい」

「え、さらに変態……」

 なんで引く。どうして後ずさりするんだ。

「炎の服なんて珍しいだろ。どうやって肌を焼かずに全身にまとうことが出来るのか、興味があるんだ」

「俺も」

「先生もだ」

「ギャー!」

 三人で近寄ったら少女に蹴り飛ばされた。

 なかなか強烈な蹴りだ。そしてどこも燃えていない。少女の足は炎をまとっていたはずなのに。

「先生……これは!?」

「うーむ。どうやって燃焼を防いでいるのか。低温なのかそれとも何かの薬品なのか」

「もしかして肌の呼吸に合わせて変化する性質を持った炎を生み出しているのかも」

「皮膚呼吸かぁ? 田中の視点もいいと思うが、すべての皮膚が正常に呼吸を続ける前提が無ければ成立しないだろ」

「じゃあ……」

 三人で膝を突き合わせて話し合っていると。

「ねぇ。あんたたちは起こった事象をとりあえず『そういうもの』として認識するって、出来ないの?」

 少女がすごーく憐れんだ目をしている。

「……まぁ、与えられた課題に挑みたくなるので」

「右に同じ」

「少女の裸に興味を持つ教師は捕まるので、服に興味を持っています」

 一部ヤバイ発言があったけど、まぁ化学的興味が尽きないということで。

「あ、そう……」

 少女がいじけてしまった。なんか申し訳ないことをしているような気が……あれ。

「そういえば君はなんでここにいるんだ?」

 俺の問いに少女が元気を取り戻した。

「よーくぞ聞いてくれた! あたしこそ炎の精霊にしてその頂点、イフリー」

「早くおうちに帰らないと、親御さん心配するぞ?」

「炎の精霊イフリートだっつってんだろ!」

 イフリートちゃんが怒って手から炎を出した。闇夜に打ち上げられた炎は空でパァンとはじけると小さな火の粉となって消えた。

 花火だ。

「おー」

「すごいなー」

「いったいどういう仕組みで」

「もーお前らがそういう奴らだってのはわかったから! さっさと破壊したいのを言えよ! そしたら破壊して帰るから!」

「ん? どういうことだ?」

「あんたらのキャンプファイヤー? であたしが呼び出されちゃったわけ。で、呼び出したやつの願いを叶えないと帰れないの。そんであたしは破壊をつかさどるから何かを破壊したら帰れるの。わかった!?」

「「「わかった」」」

「そ、そう。じゃあ破壊したいものを言って!」

「そこで質問なんだが」

「な、なに?」

「誰が願えばいいんだ? キャンプファイヤーを組んだのは俺と田中だが」

「どっちでもいいわよ?」

 俺は田中と目を合わせると『どうする?』と視線を送った。

 回答は『面白そうな方』と来た。よし。

「なら、俺の願いだ」

「そう。わかったわ。あなたの願いを言いなさい!」

「物理法則という概念を破壊したい」

「……概、念?」

 少女が首をひねっている。

「そう。具体的にはUFOの開発やワープ出来る宇宙船を作るとかだ。もちろん第三宇宙速度を簡単に振り切る装置でもいい。この世界の物理法則を破壊する、そういう偉業を成したい」

「え、えぇー……?」

「まさか出来ないのか?」

 ちょっとだけイフリートちゃんをあおってみた。すると。

「で、できらぁ!」

 なぜか江戸っ子っぽい返答が来た。

「よし、お願いする」

 しかし、イフリートちゃんは腕を組んだままどうしようかと悩んでいるようだった。

 そして。

「……炎で壊せる?」

 と聞いてきた。なので。

「一部可」

 と回答しておいた。

「よしならそれで——」

「しかし、研究結果を出すまでに時間がかかる」

 俺の答えに、イフリートちゃんがすごく嫌そうな顔をした。そうだよね。帰りたがってたもんね。

「に、人間時間で言うとどれくらい?」

「長ければ100年とか1000年とかかなぁ……」

 だって過去の偉人たちですら発明出来なかったんだもの。

「やーだー! もっと簡単なのにしてぇ!」

「無理」

 ちょっと意地悪が過ぎたかもしれないが、ぶっちゃけ破壊したいものなんてこれ以外にないんだからしょうがない。

 俺たちが生きている間に解決出来たら、御の字だぜ!

「おうちかえるー!」

「すまん」

 この後、駄々をこねるイフリートちゃんをなだめ、誰のおうちに居候するかを決めるので小一時間揉めた。

                        

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