第2章 神秘なる存在
第15話 プロローグ2:何も無い平原で
心地良い風が吹いた。
現実世界ではおよそ味わえない排気ガスの混じり気無し、清涼な風だ。
加えて穏やかな陽気を皮膚に感じる反面、俺の内心はイラついていた。
もっと言うと暇。
「あいつら何やってんの?」
「ん?」
俺からの質問にアルチョムがこちらを向く。
相変わらず凶悪な様相を呈す奴の顔だが、流石に見慣れた。
やはり人は何事にも慣れるものだなぁ、などと感慨深く思う。
で、そんな奴の返答は
「何って、見りゃあ分かるだろ。寄り道だよ寄り道」
「こんな場所で?」
寄り道するならもうちょい何かある場所でやってほしい。
それぐらいここには何も無い。
空気はただ爽やかで、青々とした草むらがどこまでもどこまでも広がる。
まあ、好きなやつはこういう風景が好きかもしれないが、こちとら現代っ子だ。
この趣味は理解できない。
ただつまらないだけ。
◆◆◆◆
少し時間を遡り事の経緯を話す。
ヴィルマの街を後にした俺達はいくつかの宿場町や大きめの都市を経由して、ある目的地を目指していた。
エトセラムが言うには
「豪邸だよ。私のね」
つまりこいつらの根城へ帰るわけだ。
エトセラムはそれを豪邸と呼んでいるが、奴のことだ。
どこまで本当か分からない。
しかし、成り行きに任せ俺も着いて行くだけだ。
もとよりそう決めたのだから。
で、その旅の行程の後半に差し掛かった頃、エトセラムが急にこんなことを言い出した。
「少し寄り道して行こう」
で、その寄り道先がこの場所というわけ。
回想終了。
◆◆◆◆
道の途中で急に止まったかと思うとエトセラムはクサカベを引き連れ膝ぐらいの高さの草むらへと分入ってしまった。
その間、アルチョムと俺の2人が残された馬車と馬のお守りを任され、既に30分程が経過している。
馬車の御者を含めれば厳密には2人だけじゃ無いが、俺は虚ろな目のあいつらを人間と認めていない。
多分、何か別の生き物だ。
『魔術』なんてのがあるぐらいだし、それぐらい居てもおかしくないだろ。
と、それはさておき、アルチョムとの会話に戻る。
俺の「なんでこんな場所に寄り道したのか」
という発言に対し奴の答えはこう。
「そうか。よくよく考えればお前は知らないか。初心者だし」
俺が知らない?
「何を?」
「あー……諸々の経緯を省いて話すと、ここにはでかい街があったんだよ」
「街?」
それは変な話だ。
なぜならここには本当に草むら以外何も無い。
……いや、違うか。
「大昔の話とか、そういうこと?」
仮に瓦礫も朽ち果て、跡が無くなるほど昔に街があったとすれば全ての辻褄が合う。
そして、エトセラムは知的好奇心からその跡を見に来たとか。
そんなとこだろうか?
この意見を大真面目に話すと奴はどこか影の差す表情を一瞬見せた。
(?)
ほんの一瞬だ。
だが、そのすぐ後「ブフッ」と、わざとらしく吹き出し、いつも通りの態度で笑い始めた。
「……何だよ」
「ははっ、いや、そう気を悪くすんな。そうか。お前はそう考えるんだな」
「俺なんか変なこと言ったか?」
「いやいや、別にそうじゃない。ただちょっと予想外だっただけだ。ちゃんと話すさ。ここで何があったか」
「?」
なんだ話してくれるのか。
また勿体ぶられるかと。
「で、ここに街があったって話だが、それは大昔の話じゃなくてだな。つい数年前までの話。それこそ『G.O.R.E』の正式サービスが始まってから現実時間換算で1年半ぐらいまではあったか」
いや、それはおかしい。
どんな物理エンジンを使っているのか知らないが、建築物の風化はそんなに早く無かった筈だ。
「釈然としねぇって顔してるな。ま、この話はここからが面白い。ここにあった街、『ドンビア』って言うんだが、それがある日パッと消えちまったんだ」
「……は?」
なんじゃそりゃ。
「ちなみに消えた瞬間そこにいたプレイヤーによると、突然街が白い光に包まれたとか何とか」
「いや、おかしいだろ」
「だろ?そんでもちろん批判が殺到したが、『G.O.R.E』の運営はこれを仕様上起こりうる現象って突っぱねたって話だ。どうだ面白いだろ」
「面白いって言うか……大丈夫なのか? このゲーム」
そんなあからさまな不具合を放置して。
「さてな。だが、あれと同じ現象は2度と起こっちゃいないし、まだこのゲームが有名になる前の話だったしで、今となっちゃこの話も嘘だと思ってる奴が増えてきてるって始末だ」
「……」
俺が思うに、このゲームの運営が情報交換を行えるサイトを片っ端から規制してるのも、そうした現状の一因となっているのだろう。
で、エトセラムはその不可解な現象を調べに来たってわけか?
(いや?)
あの女に限っては違う気がした。
あの何を考えているのか分からない女に限っては。
何か、もっと別の理由が……
「どうした? 急に黙りこくって」
「ああ、ただの考えごと……あ」
やや離れた位置でこちらに戻ってくるエトセラムとクサカベの2人が見えた。
「戻ってきたみたいだな」
アルチョムが言う。
そうして俺たち2人は出発の準備に取り掛かった。
と言っても休ませていた馬に再び馬具を着けるだけの簡単な作業だったが。
そして、俺は再び馬車に乗り込むと、丁度帰り着いたエトセラムも続けて乗り込み、
「ただいま」
一言それだけ言って俺の向かいの席に座る。
ここで1つ、先ほど抱いた疑問をぶつけてみた。
「なあ、結局何で寄り道したんだ?」
すると何か考える様にエトセラムは自身の顎をさすった。
このパターンは見覚えがある。
「んー……内緒」
どこか楽しげでからかう表情。
やはり秘密はもったいぶる様だ。
性格の悪い女め。
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