第6話

闇の軍勢は帝都を目指して一直線に進んでいた。邪魔するものは薙ぎ倒し、立ち塞がる者は容赦なく蹴散らされた。その頃、佐野の惣宗寺にいる特異異能部隊の僧兵は非常呼集され、侵攻ルート上にある椎名山に布陣していた。伊香保神社からも応援の霊媒師、僧侶などが合流し、百鬼夜行を迎え撃つ算段であった。ここを越えれば人々の街が広がっている為、一歩も引けぬ背水の陣でもあった。


「あれが闇の巫女率いる百鬼夜行か。禍々しく、ここまで瘴気が伝わってくる。こちらの総力は三百人。帝都からの応援が到着するまで耐えられれば我々の勝利だ。あの桜庭家が出てきてくれるようだからな。よし、五芒星を刻め!清浄なる地にて結界を張り、闇の巫女を止める!ここから後ろには一匹たりとも通すな!」


僧兵のリーダーである佐野 扇舟は周りに準備を指示しながら桜庭家が間に合うことを祈った。


綺朧は自分の小隊のみを連れて前橋までやってきていた。天皇より勅命が正式に発布され、十文字家が帝都の護りに就いて桜庭家は殲滅の任を受けた。異能を今も受け継ぐ家は二十八家あり、全てに出撃命令が出た。現役の異能者は軍人が多かったが、寺社に勤める者や市井で暮らす者もあった。そんな彼らが動員され、時間が掛かり過ぎる為、綺朧は僅か三十名の小隊のみで構成した騎兵となり先行してきていた。


「どうやら左野大師の扇舟は椎名山に布陣しているらしい。」


「桜庭隊長、地獄谷周辺の異能部隊は全滅です。夜間瀬、延徳、上条にいた隊士は高天原に旅立ったようです。浅間山からの観測班は今のところ無事ですが、地獄谷の鬼門が開きっぱなしとの報告もあります。草津にいた第二十三小隊は椎名山の僧兵と合流した模様。我々も向かいましょう。」


「状況は最悪だな。椎名山を突破される前に行くぞ」


「「「おう!」」」


綺朧の呼びかけに全員が呼応する。頼もしいと前を進みながら微笑む堅物の顔は玉藻だけが見ていた。




「妾に生肝を捧げ、妾の半身である光の巫女を我が手元に連れて参れ!邪魔する者は魂を奪え!」


闇の瘴気を振り撒きながら帝都へ向かう闇の巫女は己に呼応する光の巫女のいる方向へと向かっていた。特異異能部隊の者たちは全て倒してきたが、大したことはなかった。怨嗟の塊の彼女はふと、正面に神性の結界が貼られたことを確認した。


「餓者髑髏、あの邪魔な結界を退けろ。牛鬼、土蜘蛛邪鬼を率いて結界の内にいる者どもを討て。さぁ、妖の時代の始まりだ!人間どもよ精々踊り狂え!」


「姫の仰せのままに」 「御意」 「楽勝だな」

それぞれ返事をすると命令通りに動き始めた。自らの主人の願いの為に、妖達は面白おかしく不気味に笑った。



ここに長い夜の幕が上がった。

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恋桜〜ハナノマイ〜 雪カメ @yukisil

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