第3話

ここは綺朧の執務室。少佐であり、第二分隊の隊長の部屋としては少し質素であるがよく整理されていた。その部屋のソファでは頭を抱えた男が二人とニコニコしてる少女が一人というカオスな空間になっていた。

ことの経緯は少女八重が襲われたことを父に根掘り葉掘り聞かれて、父である十文字中将が怒り八重の姉たちを叱責しようとした事で八重に居場所がなくなるのでやめてくれと諭されるも怒り心頭のまま叱ろうとすると、八重が一言爆弾を投じた。


「それならば、綺朧様に嫁いで家を出ます!」


「……というわけだから、八重のこと、頼めないだろうか?」


「待ってください!どうしてそれで了承されるんですか!桜庭家当主には了承を得られたのですか?」


「まだだが、八重は一度言ったことを曲げないからなぁ、俺としては良縁だと思ってるから否は無い。」


「あら、私に不満があるのならはっきりとおっしゃってください。全部直して貴方好みの女になって見せます。それに、今の家に私の居場所などありはしません。追い出されるのも時間の問題です。」


「そうじゃなくてだな、八重殿に不満はないが、話が早急に過ぎるというのです。中将殿、明日は非番でしたよね?まだ本家の方に連絡を入れてないのであれば明日御同行頂けますか?事情を説明してうちで預かることは可能でしょうが、婚約のお話は当主の権限です。俺に決定権はあって無いものですから。」


「良いだろう。まぁ、桜庭は俺の昔馴染みだから二つ返事な気もするがな。」


「今日は遅いので、客間に泊まって行ってください。明日は直接桜庭家本邸に行きますのでお願いします。」


「綺朧様はどちらでお休みになられるのですか?」


「そこのソファだが、寝る分には問題ない。仕事が溜まってる時は泊まり込みになるからな。良くそのソファで仮眠を取っている。」



「それはいけません、疲れが溜まってしまいます。聞いてしまってはのうのうと布団で眠ることは出来ません!」


「いいから客間の方で睡眠を取って下さい。私には玉藻がいますから大丈夫です。玉藻!」


ポンッ!綺朧の真横に降り立つは九本の狐の尾を持った絶世の美女 玉藻。


「お呼びですか、綺朧様。お仕事ですか、それとも夜伽でございますか?ポッ!」


玉藻が頬を赤らめてこちらを見てくるが無視を決め込む。


「今日はここで寝る。客間とこの部屋に狐火を出して温めてくれ。それと、駐屯地に張ってある結界を抜けてくる妖は捕らえておいてくれ。あと夜伽は要らんからな」


「あら、いけずやわ〜って、そこの小娘は昼間の子猫ちゃんじゃない。そう言うことね。分かったわ、昼間の奴らみたいなのが来たらお仕置きしておくわね♪」


コンコン♪と楽しげにしなをつくりながら綺朧にもたれかかる。


「ああ、よろしく頼む。あと、そちらの八重嬢は客人だ。無礼はするなよ。」


「承りました。」


「えっと、玉藻様でよろしかったでしょうか。昼間は助けて頂きありがとうございました。これより綺朧様の婚約者としてお側に控えさせて頂く事もあるでしょうから、お見知り置き下さいませ。」


綺朧はギョッとして目を見開きやっちまったと顔を顰める。

八重はそう言って深くお辞儀をするが、玉藻は唖然として硬直していた。そして、言葉を脳が理解すると周囲に狐火をいくつも漂わせて九本の尻尾は瞬時に閃くと、綺朧に巻き付き拘束する。


「ご主人様、これはどう言う事でございましょう?言い訳は聞きとう無いですが、私は貴方をお慕いして幾久しく仕えてきました。ですが、これはあんまりではありませんか!私と言う者がありながら!」


完全に玉藻は切れていた。

「玉藻、聞いてくれ!まだ決まってないし、俺は受け入れた訳じゃない!」


「この浮気者!女誑し!いつもいつも女子を助けては惚れられて!私には手を出さないくせに、他の女には手をだすんですか!」


玉藻は錯乱して狐火を周囲に飛ばして九本の尻尾は綺朧を万力で締め付ける。それは喉も。


「たま…も!はな…しを…き、い…て……くれ!」


八重は綺朧の状態に気づき、慌てて玉藻を止めに入ろうとするが、狐火が邪魔をする。

「玉藻様!それ以上は綺朧様の命に関わります!お止め下さい!」

朦朧とし始める意識の中、もう一匹の使い魔を呼び出す。

「こ…い!八咫烏!」


「主人よこれはどう言う……っ⁉︎止めんか!玉藻!主人様が死んでしまうぞ!」


八咫烏は玉藻に突撃して強烈な嘴の一撃をお見舞いする。たまらず玉藻の拘束が解けて綺朧を放すと、玉藻は涙を流して地面に泣き崩れた。


八咫烏が玉藻の前に降り立つと烈火の如く怒り始める。

「いかなる理由があろうと主人様を害そうとするなど言語道断!それでも綺朧様に仕える使い魔か!我らの誇りを穢すことは断じて許されんぞ!信頼を失ったものに待つは消失のみだ!第一、お前は……!」


「その辺にしてやれ、ッゴホ!ぜー、ぜーっ。そもそもの原因は俺だ。それ以上は玉藻を責めるな。責任は俺にある。八咫烏、呼びつけて悪かったな。


「主人よ、ご無事で何より。我らの忠誠は貴方にありますが、最近の玉藻は少し目の余る行動に出がちです。ここで叱っておかねばなりますまい。」


「いや、いいんだ。俺に非のあることだから俺が償わねばなるまいよ。玉藻を傷つけたのは事実だからな。それと、本家に伝令してくれ。明日十文字中将以下三名、本邸へ訪問、準備されたし。なお、当主に重要案件あり。復唱せよ!」


「明日十文字中将以下三名、本邸へ訪問、準備されたし。なお、当主に重要案件あり。これより伝令任務を遂行します。」


「よろしく頼む」


「と言うわけで、八重嬢は客間ですお休み下さい。玉藻は少し話そうか。」


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