ねつにうかされて。(BL)※少しだけ性描写有

「…っは…あ…」


エアコンなんてものは生憎設置されていない安アパートの生ぬるい部屋。息を忘れるほど深い口づけの最中、頬を伝う汗を気まぐれに舐めとると「きたねぇ!」なんて掠れた声が届いた。


「汚くないだろ」

「お前に汚いところなんてないよってか」

「いや、風呂入ったじゃん」

「あー…っそ…うぶっ!」


不満げな声でそっぽを向かれたので、頬を思いっきり潰して顔をこちらに向かせもう一度無防備な口にかぶりつく。少しだけ抗議の声が聞こえた気もしたが、不満ごとデロデロに溶かしてしまえばもう奴は俺のなすがまま。腕にあった手のひらの感覚がなくなった頃瞼を持ち上げれば、瞳を隠したままふるふると震える瞼。そして上気した紅い肌と汗に塗れてぺたりとへばりついた前髪が見えた。


「汗凄いな」


どちらとも分からない唾液を僅かに滴らせたまま口をぽかりと開いている。


「ぶっさ」


唇を離して笑ってやる。当たり前だが反応は返ってこない。こうも無反応ではつまらないので、今度は僅かにシャンプーの匂いが残る汗まみれの前髪をかき上げて額をべろりと舐めあげる。するとようやく、先ほどよりは小さいが抵抗という名の抗議の声が上がった。


「やめ…ろよ」

「お前、今までで一番ブサイク…うわっ」


突然目の前の奴は俺の胸に飛び込んできた。一気に体の熱が伝わって暑くなる。


「そんなぶさいくをだきたいのは…だれ…だよ」


息継ぎの間に紡がれるとぎれとぎれの声。トロンとした瞳に上目遣い。これに部屋の暑さがプラスされればもう脳みそが沸騰する理由には十分すぎるくらいだった。


「はっ…いうようになったじゃん」


余裕なんて本当はない。だがそれを悟られるのも癪だから何とか余裕そうに笑みを浮かべて見せる。


「わざわざ煽るってことは覚悟できてるってことでいいんだよな?」

「ぇ?」


きょとんとした表情。あ、さてはこいつもう何も考えられないな。


「今のお前には言葉で伝えるよりも体で教えた方がいいか」


一度体を離してそのままベッドに押し倒す。全身で奴を被うと俺の頬からも汗が一滴、零れた。あぁ、冷たさに身をよじる姿すらも愛おしい。今度は優しく唇に触れる。離れてもう一度奴の顔を見ると今度は何故か笑みを浮かべていた。


「なんだよ?」

「ん…これからいっぱいあいしてくれるってことでいいんだろぉ…だからうれしいなって」


前言撤回。何も考えてられなくなんてなかった。熱に浮かされながらも俺の言葉をしっかり理解しようとしてくれていたんだ。

深く息を吐き出しそうなところをぐっと抑えて息を吸い込む。


「…すきだ」

「しってる」


短い会話。もう余裕そうに見せる余裕もない。俺は今出来る全ての配慮を総動員させて、いまだゆるく笑みを浮かべる奴の頬にやさしく触れて唇を重ねた。



(暗転)

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