ハッピーにならない話。(BL)※R18注意

はだけた服の裾から覗く、うっすらと汗が浮かぶ肌に自らの武骨な手を這わせる。僅かに皮膚が波打ち、荒い息遣いが鼓膜を揺さぶった。


「まってダメですって…っ!」


焦る声と共に、俺の手を払おうと汗ばんだ丸っこい手が迫ってくる。その手を取ってそのまま指を絡ませると、俺と違って柔らかい手がピクリと動揺を見せた。掌にジワリと嫌な汗が滲んでつるりと滑り落ちそうになる手をさらに強く絡めると、互いの薬指に填まる銀がぶつかる。火照る思考に左脳が一筋の水を差して欲の滅却を試みるものの、恋心と呼ぶには毒々しいそれは。心の奥底で我慢という言葉を知らずに育ちあがってしまった。


「嫌なら抵抗してくださいよ、俺もう止められないんで」


ベッドからの逃げ道を塞いでいた片膝を閉じかけている股の間に差し込むとぎしりとベッドが軋む音と共に重心が揺らぐ。一般的な成人男性であればここを抵抗する隙と見定めて繋がれた手を押し出して俺をベッド外に押し出すことも可能なはず。でもそれを目の前の男はしない。それは何故か。


「落ち着いてくださいよ、おかしいですって」


短くもない付き合いだ。理由は分かってはいる。でも俺はあえて目の前にあった答えを欲望が有利になるような文面で塗りつぶした。抵抗”出来ない”を塗りつぶして抵抗”しない”の文字を追加させる。


「っ!?」


褐色と白肌の境界線をなぞると声にならない驚嘆。気が付かないふりをしてみると流石に抵抗を見せたのか服に進行を阻まれる。しかし…


「っあ…そこやめっ」


膝を前に押し進めればわずかに硬くなったものにたどり着いて、抵抗の勢いを削ぐ。


「結局期待してるんじゃないですか」


言葉でダメ押しすると優しい彼はすぐに押し黙ってしまう。



こんな戯言、普段のあんたなら一掃してしまえるというのに。



「面白いな…ほんと」

「んっ…え?」


視界にちらちらと煩い髪をかき上げる。そして流れるようにその手を困惑の色を浮かべる彼の露わになったわき腹に手を這わせると明らかな嬌声が脊髄から俺を震わせた。


「そういうとこ…大っ嫌いですよ」


もごもごと何か言いたげに動く唇を塞ぐ。ウブなわけでもないのに目を閉じるのは罪の意識からか。今まで経験したものよりは薄い肉を食んでもう一度重ねる。生理的に分泌される唾液は重力に従って目の前の彼の頬に滴っていく。その感触に思わず瞼の圧を強めたが、いくら不快であっても拭わせない。


「っん…は…」


息継ぎと共に開いた瞼の奥にある瞳と数秒ぶりに視線がかち合う。塩分濃度の高い水に沈むガラス玉には醜くくも本能に生きる自分が映って。


息が上がる。目の前が霞む。左脳も右脳も、ぱんぱんに詰めたはずの言語が全てが溶けていく。


あえて誠実を誓った指輪は外さない。僅かに冷たいそれは唯一俺たちの罪の証なのだから。彼のなかに入り込んでしまってもそれは一興かもしれない。そんなことを言い出したら流石に彼も怒って俺を蹴り飛ばすかもしれないが…。


紅く染まった頬と荒い息を整える暇も与えずにすっかりと無防備になった秘所に手を伸ばす。

もう、戻れない。



(暗転)

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