導入には程遠い。(BL)

「ここまでしておいて手出さないとかないだろ」

「え…だって…」

「とりあえずこれだけは外せよ」


そう言っているであろう方向に向けて必死にアピールをするが、気配が動く様子がない。


「…たく」


俺が素っ裸の状態で縛られているのに気が付いたのはほんの数十分前。起きたのに気が付いた恋人に目隠しという名のホットアイマスクをつけられたのは数分前。あたたかな目の周りのせいで訪れる眠気を室温の影響をもろに受ける肌がぶっ飛ばしている状態。基本的に頭がおかしいと言われるエロ漫画の導入よりも頭がおかしい光景に頭がくらりとした。


「出来ないことしようとしなくていいから、別にセックスがマンネリ化してきたとか思ってねぇし」

「うん」

「十分気持ちいいから」

「うん」

「なんか最近やたらとお前が下ネタ言うようになったなとか思ったし、やたらとちんこ連発するなとは思ってたけど」

「うん」

「正直何がしたいのかが分からなかった」

「うん」

「せめて縛るならいいかどうか聞いてくれ、あとアイマスク選びで目への配慮は要らない」

「そうだね」

「とりあえずホットアイマスクは外せ」

「でもまだ時間が…」

「いいから」


弱弱しい言葉と共に視界が数分ぶりに開かれる。溢れんばかりの光に目が慣れていくと映るのは泣きそうな恋人の顔。どうやら相当俺の言葉が応えたらしい。


「言いすぎ…てはないわ。抱き締められないから解いて」


笑ってから自然な流れで拘束を解くように声をかける。しかし恋人が縄をほどこうとする気配は一切なかった。


「聞いて…っ!」


大丈夫かと問いかけようとしたときだった。再び視界が真っ暗になる。唇に這う舌が今自分がキスされたことを教えてくれた。優しく上唇を噛まれて、ぴりりと甘い痺れが走る。熱い吐息を飲み込むようにもう一度唇を重ねられる。どうやら今日の主導権だけは渡さないつもりのようだ。俺は半ば諦めた状態でひりひりとしてきた手首に明日出来るであろう痣を心配しながら、厚い舌に自分の舌を絡めた。



(暗転)

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