これがのちの夫婦である。(NL)
「あっ!」
叫んだ時にはもう遅かった。柑橘のしぶきと共に爽やかな匂いが辺りに広がって雫が零れ落ちる。そしてその雫は重力に従い、無情にも大皿に載ったから揚げに落ちた。
「なんで聞かずにレモン絞っちゃうんですか!」
「え、嫌だった?」
「嫌…ではないですけど、普通聞くじゃないですか」
悪びれる素振りもなく先輩はから揚げを人数分の小皿に取り分けていく。気遣いが出来るんだか出来ないんだか分からない人だ。
「でも元々ついてるんだからかけてくださいってことじゃないの?」
「かけてくださいだったらそもそも最初からかけてあるでしょ!」
「はいはい、痴話喧嘩は余所でやって」
「痴話喧嘩なんかじゃ」と言いかけたところでグっと頬を押しつぶされる。白くて細い美しい手なのにも関わらずこんなに力強いのが不思議だ。
「突っかかられてるだけなんだけど」
「はーいから揚げありがとうね!」
自分の手のひらからひょいっと取り上げられた先輩も顔をふくれっ面にさせている。押されて頬が抉れている俺と対照的に膨らませている先輩を見てサークルのみんなが笑う。笑い声の中で誰かがこんなことを言った。
「恋人通り越してもはや夫婦だろ」
「「そもそも付き合ってないから!!」」
(暗転)
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