味。(NL)

「禁煙辞めたの?」


濡れた髪を結わいてベッドに腰かけ、白い煙を燻らせている背中に声をかけると大きく息をついてから彼女は振り返った。


「続ける意味がなかったから」

「その口でそのままキスされるこっちの身にもなってくれない?」

「なんでなんなきゃいけないの?」

「なんでって言われると…」


言い淀んでいる間に彼女は指先までの長さになっていた煙草を銀の灰皿に押し付けてベッドから立ち上がる。重みがなくなったベッドがきしりと音が響く。彼女の気配と煙草独特の匂いが目の前に迫る。


「っ…!」


何をする間もなく顎を白く細い指で掬われた。ゆるく弧を描いた瞼から覗く瞳。視線がかち合って息をのむ。

瞬きをする間に唇が重なった。抵抗なんて出来ずに煙草を吸った直後の舌で絡めとられる。いつもより苦い味が広がって思わず口を開けばさらに深く唇で繋がって、どちらかも分からない涎が口の端から零れた。


「好きなくせに」


口元に残った涎を親指で掬いながら彼女は微笑みかける。ふわりとした雰囲気とは裏腹に有無も言わさないような表情。長く苦く、少し甘い口づけに痺れた脳では返事も出来ぬまま。


「ハハッ…返事も出来ないくらい好き?」


手を引かれてそのままベッドになだれ込む。


「正直、私も好きなんだよね…煙草吸ってないあんたのあっまい舌」

「…え?」


再び視線がかち合う。先ほどとは違い少し恥じらいを含んだ視線に胸が高鳴って、今度は自分から彼女の唇を奪った。



(暗転)

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