唐突な後輩の言うことにゃ。(NL)
「先輩のこと苦手なんですよね」
太陽が真上から少しずれた頃、体育館の裏で。唐突に後輩が言った。
「は?」
その言葉にストローで吸っていたオレンジジュースを押し戻せずに吹き出す。そんな俺の様子を見ながら汚いなぁなんて元凶はけらけらと笑っていた。
「そんなに動揺します?」
「そりゃするだろ」
いつだって唐突な後輩。今までの唐突が通常攻撃なら今日は必殺技とでもいうのだろうか。生憎俺はゲームのキャラクターほどタフではないから、すぐに動揺して口内の飲み物は吹っ飛んでいくわけで。
「もしかして先輩って私のこと好きだったりします?」
「そういうことじゃない!」
にやけ顔でこちらの顔を覗き込んでくる後輩が酷く憎たらしい。しかしいつも手玉に取られてばかりの俺が出来る抵抗と言えば即否定くらいだった。
「ふーん、こんな美少女を捕まえといて好きじゃないと」
少し不服そうに頬を膨らませて後輩は視線を雲一つない快晴に移す。悔しいがその表情は校内でも上位を争えてしまうほど綺麗だ。
「けど…自分を嫌っている人間と毎日昼飯食べてたんだなって思って」
無意識に優越に浸っていたんだろうか。虚勢とは裏腹に素直に落ち込んだ心が、俺の許可なく弱弱しく言葉を吐き出す。必殺技どころかスマッシュ攻撃だ。言葉にしてしまうと自覚してしまう。快晴すらも俺を馬鹿にしているみたいに見えた。
「勘違いしないでほしいんですけど」
これまた唐突に、後輩の声が鼓膜を揺さぶる。これ以上ダメージを負いたくなくて咄嗟に耳を塞ごうとしたが、その手は後輩の手に絡めとられる形で制圧された。吐息を感じれるほど、顔の距離が近い。
「苦手と嫌いは違いますからね?」
「は?」
本日二回目の唐突は通常攻撃よりも弱いものだった。否、弱いというよりは理解が追い付かないが故に攻撃を喰らったと感じないんだろう。所謂ケンシロウタイプのやつ。くだらないと馬鹿にしたっていい。それでも俺は止めない。だって意識を視界に移すとただの顔のよさでやられてしまいそうだから。
「先輩はイナゴの佃煮なんですよね」
「あ?」
聴覚が受け取った情報が脳信号を突き抜けて冷静さを取り戻した。そりゃあ自分を茶色のゲテモノ料理と一緒にされてしまえば寝耳に水以上の効果があるだろう。
「なんというか…見た目は苦手なんですけど食べたら美味しい的な」
「俺食べられんの?」
「たとえじゃないですかぁ…まぁ食べてもいいですけど」
「冗談に聞こえないトーンでいうの止めろ」
じゅるりと聞こえてきそうな表情に貞操の危険を感じて後ずさると、また同じようにけらけらと笑われた。本当によく笑う奴だ。その笑い声と言葉の羅列は他の参入を許さない。
そして結局苦手と嫌いの違いは何なのか、それを聞けそうになった頃には、ひと時の終わりを告げる鐘が鳴って言葉ごとかき消されたのだった。
(暗転)
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