痛み。(BL)
「っ…」
乾いた音が部屋に響いた。頬を針を刺されたような鋭い痛みが襲う。しかしその痛みは持続せずにじんわりと頬全体を伝った。
「なんで嘘ついたの?」
頭上にやさしい声が降り注ぐ。ほんの数秒前に人を叩いたとは思えないような声だ。顔を上げると異常なまでに吊り上がった口角が目に入る。一般的な人間ならばこれは満面の笑みと思うだろう。しかし俺は知っている。この笑顔は人を追い詰める時のものだ。
もう一度、今度は鈍い音がはじける。下腹部に入った拳の重みになすすべもなく俺はベッドに倒れ込んだ。
「嘘だけはつくなって言ってるよね?」
「嘘…ついてない」
「じゃあなんで今日一人でいるって嘘ついたの?」
「それは…」
トーンが下がった声に言い淀む。確かに今日、こいつには自分が一人でいると嘘をついて元彼と会っていた。しかしそれはこいつの為で。
元彼は、誰にでも金をせびる奴だった。それこそ俺が紹介した友人やましてや親にまでたかるような奴で。こいつに相談すればきっと解決はしてくれるだろう。でも。
ーあいつとの問題は自分で解決するって決めたんだ
言葉を奥底にしまい込んでぐっと唇を噛み締める。
「なんで隠すの?」
「…」
「無視するなって!」
勢いよく上に乗られて髪をひっつかまれた。首にびきりと衝撃が走って思わず目を瞑る。
「喋ってくれないならお仕置きだね」
無邪気な言葉に目を開く。視界に映ったのは今までで一番の笑みだった。
(暗転)
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