夏休み×幼馴染でよくある事象。(GL)
「いい加減遊びにいこーよー!」
「やだ!」
夏休みに入ってから一週間、幼馴染との窓越しの攻防が続いている。これで幼馴染が少女漫画で出てくるようなイケメン君だったら少しでも外に出ようかななんて思えるんだけど…。
「とりあえず毎日私の部屋の窓の前に来て叫ぶの止めてくれる?」
「サヤが出てきてくれるまで止めない!」
「近所迷惑だから止めてって言ってるの!」
ガラガラと窓を開けると、華の女子高生とは思えないようなダサTシャツとホットパンツ…とはお世辞にも言えないハーフパンツで身を包んだ幼馴染…ミナがゼロ距離で出迎えた。少し茶色がかったベリーショートの髪先から少しだけ汗が滴っている。この炎天下の中わざわざ徒歩20分の私の家まで来たのだから当然の結果ではあるんだが、何故そこまでの熱量を夏休みの宿題に向けることが出来ないんだろう。
「じゃあ部屋に入れてくれるの?」
「それは…」
汗だくの状態でしゅんとした顔をするミナに良心を揺さぶられる。しかし、私には彼女と遊びに行けないどころか、部屋にすら入れることが出来ない理由があった。
ー正直ミナを襲ってしまう気しかしない…!
私、サヤは彼女にひそかな恋心を抱いていた。いつ頃からだったかは正直覚えていないけれど。中学の夏、はじめて学校以外のプールに行ったとき。スクール水着じゃないミナを見て卒倒してしまったことはいまだ黒歴史として残っている。そして時は過ぎ、高校生。普段は女子らしさの欠片もない彼女ではあるもののその…発育はするもので。正直、夏服になられた時は2秒以上彼女を直視が出来ない。
私は自分の学校が女子校なことを心底感謝した。こんなに可愛らしいミナが獣たちの目に晒されてしまうと思うと、私は入学式の段階で血の雨を降らせていたと思う。
「サヤ?」
「ひぁい!?」
不意に名前を呼ばれて、奥に引っ込んでいた思考を表に戻すと、そこにはいつの間にかサンダルの片方を手に持って窓枠に足をかけて乗り込もうとしているミナがそこにいた。
「ミっミナ何やってんの!?」
「沈黙は肯定と見た!」
「そこじゃな…いやそこでもあるけど!」
ミナは勉強しか取り柄がない私と違って底抜けに運動神経がいい。部屋の体積に見合わない私の部屋の大きめな窓くらいならば入ってこれてしまうのだ。
「せめて玄関から入ろうとしなさいよ!」
「玄関から入っても部屋に入れてくれないかもしれないでしょ?それだったら直接部屋に入った方がいいと思って!」
「危ないから!」
「大丈夫大丈夫!」
押し返すこともできずにわたついている間にミナは体の半分を私の部屋に押し込んだ。前かがみになったせいで出来た隙間から褐色の肌とふんわりと出来た谷間が覗く。なんだか見ちゃいけないような気がして必死に視線を泳がせた。
「入っちゃえばこっちのもんだよねぇ」
その時。
「なんか騒がしいけどどうしたの?」
木製のドアを叩く音と共に母親の声。おそらく言い合いしている声が聞こえて心配して声をかけてくれたんだろう。しかしその心配は最愛の娘をさらに窮地に立たせることになった。
「あっ」
突然の声に驚いたミナが窓枠から足を滑らせてしまったのだ。地球上にいる全ての物体は重力に従順だ。さぁこうなってしまうとどうなるか。
「うわぁ!?」
私の元に降ってくるミナを受け止めきれずに背中とお腹をいっぺんに打ちつける。胸辺りを襲ったふにゃっとした感触は私の鼻の奥を当たり前のように刺激した。僅かに鉄分の匂いがする。
「いてて…」
「サヤ!?」
起き上がる暇もなく母親が部屋に乗り込んでくる。
「あ」
視線がかち合って、流石親子というべきか。揃って母音の一文字目を発した。そして私が分かるくらいには驚いた顔をにんまりとした表情に変えて開け放った扉のドアノブに手をかける。
「…あんまりうるさくしすぎるんじゃないわよ?」
「違うから!?」
明らかな誤解を抱えたまま、母は私の部屋の扉を閉めた。ぱたりと小さな音があまりにも無情に聞こえた気がしたのは私の絶望を表しているんだろうか。
「ごめん大丈夫!?」
上から降りかかるのは心底心配そうなミナの声。
さて、一気に降りかかった問題たちをどうやって解決しよう。
ある意味夏休みの宿題よりも面倒臭い課題がいきなり私の視界の前で山積みになってしまった。
(暗転)
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