同僚。(BL)

人の迷惑を被るなんて日常茶飯事な人生だった。

集合時間にはチームのみんな遅れてくるし、貸したものは返されない。挙句の果てに小学校の頃、掃除当番を一か月間連続で変わってほしいと言われ続けたこともあった。まぁそれでも学生時代は決していじめられていたわけではないし、社会人になっても多少ブラック味があっても給料の良い会社に勤務が出来ている。それに親友と呼べる人物も有難いことに不幸体質な僕を心配してくれる可愛い可愛い彼女だっていたから不満は特になかった。


「…うーん」


彼女と同棲していた部屋を追い出されるまでは。


「こればっかりは…流石に」


話は数分前に遡る。

僕は頼まれた仕事を終わらせて5年付き合っている彼女が待つマンションの一室に帰った。今日は遅くなるかも…とLINEで送ったらしゅんとしたワンちゃんのスタンプが返ってきたので、彼女が大好きなハーゲンダッツのイチゴ味が入ったレジ袋を手に。


「ただいまぁ!」


鍵を開けて玄関に滑り込む。いつもならおかえりと声が返ってくるのに今日は返ってこないのが少し心配にはなったが寝ているのかもしれないとリビングに続く扉をいつも通り開けた。


「っあ」

「え?」


部屋の眩しさに目を瞑る。その直後に目に入ったのは、部屋で待っていたはずの彼女が親友と熱烈なキスをしている光景だった。


「でも…追い出されるのは違くない?」


大変衝撃的な光景を見てぽかんと口を開いてただ突っ立っていた僕を見つけた二人は何故か慌てた様子は一切見せずむしろ開き直ったように僕を罵倒してきた…ところまではなんとなく覚えている。けれどなんて罵倒されたか、どういう理屈で僕がこんな寒空の中に放り投げられたかは覚えていない。でも明らかにこのまま家にもう一度帰ったら今度こそぼこぼこに殴られそうな気がする。

さてどうしたものだろうか。不幸中の幸いか肩掛け鞄の中にはお財布と携帯、そして仕事道具ぐらいは入っている。


「しょうがない…どこか泊まれそうなところ」


どこか今からでも行ける場所はないだろうかとスマホで調べようとしたその時。スマホが急に振動して驚いた僕の手を離れてしまった。


「あっぶ!」


何とか反射でキャッチして画面を見ると同僚からのLINE通知が見える。確か彼は僕の家の近くに住んでいて一人暮らしだったはず。

僕の頭にはある一つの考えが浮かんだ。



ーーーーー



「はぁーそれは災難だったな」

「ほんと…でもお前から連絡来て助かったよ」


自宅からほど近いが、僕の帰路とはまた違う道をコンビニの袋を持って同僚と歩く。中には値引きシールが貼られた弁当とつまみのチータラ、それに酒缶。もちろん発泡酒。


「タイミングに感謝してくれよ?」


ー仕事ようやく終わったんだけど、お前まだ会社近くいる?もしどっかでご飯食べてんなら飲みに付き合ってくんねぇ?


まさに渡りに船と言える飲み誘いのLINEに乗っかって同僚に泊めてほしいと懇願したのが僅か数十分前のこと。「家に帰る必要がないんだったら家飲みでもよくね?」と同僚が言ったのが僅か数分前、合流した直後のこと。直前の言葉で分かるように同僚は僕からの頼みを二つ返事で了承してくれた。


「ほんと奇跡的なタイミングだった…スマホ取り出した直後だもん」

「まじか」


僕の何一つ偽ってない出来事に笑う同僚に、ここまで笑い飛ばしてくれるなら本望だとすら思う。


「それにしても二つ返事で了承してくれたのはほんとにありがとぉ」


夜道でありながらもう一度同僚を崇める。泊まるための条件も「晩酌に付き合う」程度で高い金額を請求されないのも有難いし、何ならしばらくほとぼりが冷めるまで泊ってってもいいと言ってまでくれた。


「いいって別に」

「でもなんでそんな至れり尽くせりなの?」


当然の疑問が頭を駆け抜けて口から溢れ出る。そりゃそうだろう。成人男性が一人増えるのはなかなか経済的にも部屋的にも大変なことだろう。それは同じ給料をもらっているからこそ分かる。


「んー…一人暮らしが寂しくなっちゃってさぁ」


少し考えるようなそぶりを見せて同僚は答えた。


「それだったら可愛い女の子とかの方がいいんじゃないの?」

「それだったらお前路頭に迷うんじゃね?」

「あ、そっか」


速攻で返されて確かにと納得…出来るのかこれ?


「あ、ここ曲がったらもう家だから」

「あ…あぁ」


もう一度問いただそうと思ったがタイムオーバーになってしまった。仕方がない家に入ってから改めて聞いてみるか。



その後、また質問をしてみて何があったのかは…また別の話にしようと思う。もう夜も遅いから…ね。



(暗転)

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