酢豚。(NL)
「酢豚にパイナップルはアリだと思うか?」
二人しかいない生徒会室で、我が校の生徒会長は唐突に言い放った。
「はい?」
「だから、酢豚にパイナップルはアリだと思うか?」
まるで学校の重要事項を決めようとしているレベルの真剣な顔で生徒会長は続ける。俺は彼が疲れているのかと疑った。そういえば最近定期考査と球技大会が続いた後に三年生は進路関係でかなり忙しかったはず。そうだ、だから生徒会長のねじが若干外れてしまったのだ。そう言い聞かせる間にも彼の真剣すぎる視線が刺さる。
「えーっと…」
俺は時間を稼ぐように視線を宙に浮かせた。正直どうだっていいことである。パイナップルが入っていようがなかろうが、美味しい酢豚は美味しいし。ただの友人ならそう適当に返せただろう。しかし相手は尊敬する先輩であり生徒会長。多分適当でも許されるとは思うんだけど、俺のなんというか…良心?が許さなかった。
「そうですね…アリだと思います…よ?」
彼の顔色を伺いながら恐る恐る答える。これでもし断固拒否派だったらという考えが一瞬頭をよぎったが、もう言ってしまったのだから仕方がない。
「そうか…」
一言先輩が呟いてそのまま瞼を閉じる。
生徒会室に訪れる静寂。時計の秒針の音と外のサッカー部の音がやけにうるさく聞こえる空間に居心地の悪さを感じながらも俺は目の前の仕事に戻った。
「…?」
しばらく経ったころ。作業が一段落して生徒会長の方を見てみた。しかし彼は一言呟いた時と全く同じ体勢から動いていなかった。いつまでたっても彼が口を開く気配がしないのに若干の心配を覚える。もしかして…。
「先輩?」
声をかける。しかし俺の声が聞こえている気配がない。俺は静かに席を立つと彼の方に歩み寄った。
「…寝てる」
隣についたところで彼から小さな寝息が聞こえるのに気が付いた。まさかあのまま寝てしまうとは…しかも全く微動だにせずに。
「まっじか…」
結局酢豚の質問の真相は分からない。思っている以上に彼は自由な人間なのだ。俺がため息をついた時、誰かがゴールを決めた歓声が小さく聞こえた。
(暗転)
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