好きな人。(BL)
自分が普通じゃないことには何となく気が付いていた。
普通年頃の男子校の生徒ってのはフェンス越しの女子を覗いては誰が一番可愛いかとか抱けるかとか、男子校唯一のオアシスである女教師に欲情するもんだろう。異論は受け付けない。
しかし俺と言ったら。
つい最近転校してきた柏木っていう奴にあろうことか恋をしてしまったのだ。
「はぁ…」
思わずため息が漏れる。視線の先には同級生とけらけら笑いながら話す柏木。うーん、やっぱり可愛いな。清潔に切りそろえられた黒髪から覗く肌は健康的な褐色。ワイシャツの中にタンクトップが僅かに透けているのがなんかもう…え…エロいな。肌が透けるのよりエロイかもしれない。あいつら気付いてんだろうか?目の前の男がまぁまぁエロイ感じになってるの。別に可愛い顔立ちをしているわけじゃない。むしろ少女漫画でモブとして出てくるタイプの顔をしている…別に馬鹿にはしてないぞ。まぁそれなのにこんなに魅力というか色気が溢れているのはいかがなものなんだろうか。
「花山!」
「…ん!?」
ぼーっと眺めていると突然柏木が俺を呼んだ。澄んだ瞳で射抜かれてやり場に困る視線を下げれば赤くプルッとした唇が、さらに下げれば少し汗ばんだ首筋…あぁぁ目のやり場がねぇ!
「お前さぁ!女の先生の中だと誰がいい?」
そんな葛藤を繰り広げているなんてつゆ知らず、柏木の隣にいた根本が声をかけてくる。なんだその締まりのない顔は。お前、俺の姉ちゃん好きっつってただろうがよ毎回家に来るたびに鼻の下伸ばしやがって。
「先公なんかに興味ねーよ」
「えーじゃあ誰が好きなの?」
嬉々として聞いてくる柏木に「お前だよ!」と言いたい気持ちをぐっとこらえて「いねぇよ別に」と窓の外を見ることで平静を装う。しかし柏木はずいっと俺の方に向かってきて視界の端の方でキラキラなオーラを放ってくる。あーやめろ理性がなくなる。
「絶対いるでしょ!年頃の男子なんだからさ!」
「別にそうとは限らないだろ」
「えー恥ずかしいの?」
恥ずかしいんじゃなくて困らせたくないんだよ!
心の中で叫ぶ。あー可愛い。もし柏木が女の子だったらそっこーで告るのになぁ。
「まぁまぁ柏木、そこまで詰め寄るなって」
「ん?」
「げ」
後ろの方から声が聞こえて一気に萎えかえる。
「花山も困ってるだろ?」
「あーそっかぁ」
俺の背後に現れたのはこの学校の王子と言われている春田。こいつはことあるごとに俺のプリンスを自称してくる奴で、今もほらなんかウインクしてきてる。気持ち悪。
「ごめんね」
「いいんだよ別に…ね、かおる?」
「お前が答えるな、っていうか名前で呼ぶな」
こういうのを経験しているから軽々しく好きだなんて言えないんだ。もし柏木に告白なんてして気持ち悪いと思われたらたまったもんじゃない。
…とここで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「はいはい自分の席に帰った帰った」
担任の梨川が入って来るや否やだるそうにそう言うと渋々という感じでみんなそれぞれ席に帰っていく。今日はもうHRと現文だけだしわりかしだらだらとできそうだ。そう考えながら一番前の席に座る柏木をちらりと見る。
ーそういえば柏木の好きな奴って誰なんだろうな…ていうか好きな人いるんだろうか…?
そう思考してしまったのが最後、俺は授業に一切集中できずにたまたま当てられためちゃくちゃ簡単な問題に答えられず、クラス中の笑いものにされたのはまた別の話。
(暗転)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます