ぼくの楽園の定義。(NL)
この世に楽園があるとしたら
ぼくにはきっと縁のない場所だ
「何言ってんの?」
物思いにふけっていると背中をバシンと力任せに叩かれる。
「いっだ!」
「相変わらず大げさだなぁ」
「本当に痛いんですよ!」
ぼくの言葉を受け流して先輩は隣の手すりによりかかる。
先輩はぼくの二つ上で三年生…と言いたいところだが実は先輩はぼくと同じ一年生。いわゆる留年生。先輩自身はとても明るくていい人なんだけれど、彼女がいると教室の空気が少しだけピりつく。同級生も少しだけ先輩を避けているようにも感じた。でもぼくは先輩のことは邪険に出来なかった。何故ならぼくもこの高校に入るために一度浪人をしているから。
一年前、ぼくは家業を手伝っていた。中学生の時から学業の傍ら手伝っていたが卒業してから一年は本腰を入れて手伝っていた。毎日とても楽しかったし、ずっと続けていたかった。だけれど。
ある冬の日。
不幸な交通事故だった。
父は即死。母は今も寝たきりの状態。加害者側から謝罪と慰謝料は払われたが、こんな状態で家業を続けられるわけもなく。ぼくは寝たきりの母と共に親戚の家に引き取られた。
そして親戚の意向により今年の春からこの高校に来ることになったのだ。
親戚からしたら良かれと思って進めたんだろう。でもやっぱり一年の壁は大きくて。ぼくは同級生に馴染むことが出来なかった。
この半年間、教室にいるよりも屋上にいる時間がだんだんと増えていった。
「それより君、先生に呼ばれてなかった?」
「先輩が思ってるような用事じゃないですよ」
「え、分かったの!?」
「先輩がぼくのことを君っていう時は大体馬鹿にしてる時ってこの半年間で分かったので」
「えぇ!?」
大げさに驚いて先輩は一度目をかっぴらく。そしてすぐに眉を垂れてふんわりと笑った。普段からその表情だったらモテるだろうに。
「そっかぁもうここで出会って半年になるんだね」
先輩曰く。
互いの逃げ場でしかなかった屋上。
それがいつしか二人の居場所に変わっていたらしい。
「たとえ地獄でも先輩がいる場所が楽園かもしれないですね」
思わず口をついて出たのは何千回と使い古された言葉だった。我ながらダサいなぁと思う。
「…馬鹿じゃないの?」
そう言う先輩の頬は少しだけ赤らんでいる気がしたけれど、きっとそれは夕焼けのせいなんだろう。そう思いながらぼくは小さく息を吐いた。
(暗転)
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