りょうせいるいの君。(NL)
「先輩先輩!」
「ん?」
とある放課後。やけに集まりの悪い漫画研究会の部室でダラダラと漫画を読んで過ごしていた時のこと。部室のドアを強めに開けた後輩が慌てている様子で私の目の前に走りこんできた。
「どうしたのさそんなに急いで」
目が前髪で隠れていて普段は表情が分かりづらいのに、今日は一目見ただけで焦っていることが分かる。好きな漫画の限定版があと一つしかない時ばりの焦りと同じくらいだ。
「これ見てください…!」
そう言って私の目の前に一台のスマートフォンを見せてきた。画面にはメガネ少女と高身長のイケメンキャラクターが映っている。下にはタイトルと同じ絵柄で描かれたアイコン。
「これがどうした?」
「あっ…あっと…」
後輩はまた慌ててスマホを操作するともう一度画面を見せてくる。ロードが少し入ってタイトルロゴが効果音とともに現れた。そしてまた数秒経ってから漫画アニメのようなものが始まる。
「ふーん…」
漫画研究会として最近話題になっている漫画アニメも見てみてすっかりはまったのだろうか?見るまでは一時期流行っていた手描きMADのようなものだと思っていたのだが想像を遥かに超えた高クオリティで正直驚いた。それにこれはキャラと声がマッチしていてよく出来ているし、こういうものが人気が出るのがよく分かる気がする。
「これ、僕の声なんですよ」
「…は?」
夢中になってみていると突然そんなことを後輩が口走った。画面ではイケメンがヒロインと思われる女子をスマートに助けている。
「…えっと……これ?」
人差し指のプルプルを何とか抑え画面を指さすと後輩は照れ臭そうに頷いた。
「いやいやいやいや!!」
心の戸惑いに身を任せて大声を上げる。
「おかしいでしょ!普段おどおどしててどっちかっていうとダミ声のお前がこんな爽やかイケメンボイス出せるわけないでしょうがぁぁぁぁ!!」
「いやでも本当にこれ僕がやってて…」
おどおどと答える声はやはり動画内の声とは似ても似つかない。どう考えたっておかしい。
「あ、これも僕です」
焦り散らかす私を余所に後輩はまた画面の方を指さした。そこには…
ー助けてくれて…ありがと!
そこにいたのは先ほどヒロインっぽいなと思っていたメガネの女の子。
「…は?」
思わず心は宇宙猫である。この子が…この後輩…?
「うそだぁぁぁぁぁっ!」
「せっ先輩落ち着いて!」
「じゃあ証拠でも見せてみろ!」
ミステリーで探偵に犯人として名指しされた時と全く同じ台詞を吐いてしまった。それほどまでに私は気が動転している。現に心の声すらぐちゃぐちゃだ。
「え…」
私の言葉に後輩が一瞬怯む。そりゃあそうだろう、仲の良い先輩がこんなに取り乱しているんだから。しかも自分のせいで。
「えっと…えーっと」
もじもじして下を向く後輩を見て私はようやく冷静を取り戻しつつあった。あぁ。ただでさえ人見知りで怒鳴り声が苦手な後輩に(彼のせいとはいえ)強めに当たってしまった。
「あ…ごめん取りみ…」
完全に冷静になった頭で謝ろうとしたその時。
「…好きだよ」
「……????」
先ほどの漫画アニメのイケメンキャラと全く同じ声が目の前から聞こえた。追いつかない思考は手放しつつスマホの画面を見ると、動画はとっくのとうに終わっている。
「あ…あ…」
「これで信じてもらえました?」
再びイケメンボイス。動く後輩の口元。なんか纏っている空気も変わっているような…。私は今目の前で突き付けられた事実を飲み込むほかが残されていなかった。
「ひゃ…ひゃぃ……」
どうやら私の後輩は超絶天才型両声類だったようです…。
「そういえば好きって…!?」
「せっ台詞です!!」
(暗転)
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