夏のある日。
「麦茶があるのは実家か余裕のある暮らしをしているところくらいだって」
そう言いながら麦田は無駄金をはたいたレジ袋を床にドスンと置いた。
中に入ってるサイダーのペットボトルがぐわりと揺れてポテチの袋にまっすぐ倒れていく。
ぐしゃりと嫌な音がした。
「あー最悪だよお前は」
「何がだよ」
悪びれもなくこの家に一つしかない扇風機の前を陣取ったヤツはTシャツの裾をバサバサとしている。わずかに運ばれる風が汗臭い。
「そういうところっつっても理解できないだろうからいいや」
「とりあえずバカにされてんのは分かった」
振られてしまったサイダーを冷蔵庫に仕舞おうと背を向ける。
「今すぐ飲むからいいだろ」と言いながら麦田はまるで自分の家のように戸棚を開けて2つのコップと俺の手に合ったサイダーを奪い取った。今度は課題もあるテーブルにどしんと音を立てて置く。
「割れる割れる」
「こんくらいじゃ割れねぇって」
「それで前に俺のラーメンどんぶり割ったの誰だよ」
ぎろりと睨むと麦田は今までの会話を忘れたかのように袋の中に残されたポテチに手を伸ばした。
「あー皿出すから」
「いいってパーティー開けしときゃ」
「それだとお前がボロボロ零すから嫌なんだよ」
「あとで掃除すりゃ大丈夫だって」
「掃除するのは俺なんだよなー…っておい!」
俺の言葉も聞かず麦田はポテチの袋を開ける。豪快に開かれた袋は中身をまき散らしこそしなかったが、さっきのサイダーの衝撃で割れたのであろう破片が散らばって、掃除機をかけたすぐ後のカーペットに見事着地を決めた。
「あーもうどうでもいい…勝手にしてくれ」
こいつを家に招いた時点で綺麗な部屋は保てないことくらい分かっていた。
それでも口うるさく言ってしまうのはもはやこの注意自体が習慣と化してるからだろうか。
準備も面倒臭くてどさりと自らも床に座り込む。ジーンズと太ももがぴたりと汗でくっつく。開け放たれた窓から流れ込んでくるはずの風はまだこちらを冷やすことを知らない。生ぬるい空気の中Tシャツで汗を拭う。せっかくの新品なのにぞんざいな扱いをしてしまって申し訳ないなと思いながら、手持無沙汰になった俺はサイダーのボトルに手を伸ばした。
「あ、」
麦田の声が聞こえる。その瞬間吹きあがった甘ったるい炭酸の噴水は光に反射してやけに美しく見えた。
(暗転)
短編 ほのぼの爽やかまとめ めがねのひと @megane_book
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