お風呂。

銭湯に行くのが好きだ。

というのも、銭湯は温泉のような広さを持ちつつ実家のような安心感があるから。

しかし、つい最近家の近所にあった銭湯が長期休業になってしまった。理由は経営主の夫婦が銀婚式を兼ねて旅行に出かけたからである。まぁそれは是非楽しんできて欲しい。


さて、問題はここからだ。


「まさか風呂まで壊れると思わんだろ…」


今日、いつも通りお風呂に入ろうとしたら真水が浴槽に貯まっていたのだ。これはすなわち壊れたことを意味している。

さてどうしたものか。


ただでさえ銭湯に行けない状態で今度は自分の風呂さえも俺は封じられてしまったわけで。あいにく今は夜。遅くても修理は明日以降になるだろう。


「…きっつ」


たかがそれくらいと思うかもしれない。でも俺にとって湯船につかれないというのは死活問題でもある。このままじゃ明日の仕事に疲れを持ち越したまま行かなくてはならないのだから。


「…しょーがねぇ…あいつに電話するか」


ため息をつきながら携帯を手に取る。思い出したのは一番近くに住んでいる同僚。こいつの家なら銭湯とほぼ変わらない距離だし、たまにいい入浴剤をくれるレベルには風呂好きだということは知っている。しかし…。


ーあら珍しいわね電話なんって!


この同僚は結構濃いキャラタイプのおかまなのだ。


「あー風呂壊れちゃってさ」

ーあらっ!そういえば近くの銭湯屋さんも今休業中じゃなかったかしら?


仕事も気遣いもできるから嫌いではない。嫌いでは決してないのだが…。


ー大変じゃない!!急いで準備してあげるから暖かい格好してきなさいね♡

「お…おう…ありがとうな」


電話越しでもまぁまぁ気圧されてしまうくらいには圧が凄い。嫌われるタイプの圧ではないだけまだましだが。しかし、今頼れるのはこの同僚しかいないのも事実。


「背に腹はかえられぬ…か」


俺は半分諦めて同僚の家に行く準備を始めたのだった。


(暗転)

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