深夜の。

「甘いもの食べたい」


その気持ちは唐突に沸き上がった。しかし普段から常備しているはずのお菓子は連日の引きこもり生活のせいで家から全て消えている。


「買いに行く…いや、面倒くさいな」


徒歩圏内にコンビニがあるものの、ボサボサの髪の毛と毛玉だらけの服であることを思い出して諦めた。徒歩5分圏内だって引きこもりからしたら重労働。それに何より金が勿体ない。


仕方なく何かないかと冷蔵庫を開く。そこには以前買ったちょっとお高めなホットケーキミックスと卵が4つ。それと衝動買いした蜂蜜入りのバター。あとは玉ねぎと…使いかけのもやし。ここら辺は甘いものには合わないだろう。


「うわ、やば」


とりあえずホットケーキミックスを手に取って賞味期限を確認。約3ヶ月前に切れていることに驚いた。そう言えば牛乳を買ってから使おうと思っていたのをすっかり忘れていた。賞味期限が切れていてもスマホで大丈夫か調べる。未開封なら大丈夫だそうだ。


「とはいえ…牛乳がないな」


どうせ高級品なら普通に食べたかったところだが…牛乳を買いに行くくらいなら最初からお菓子を買っている。

仕方がない。


「なんかないかなぁ~」


これまたスマホで色々探す。最近は牛乳を使わないレシピが増えているようだ。


「炊飯器で出来る…か」


その中で目に留まったレシピ。どうやら炊飯器でケーキを焼けるらしい。しかも牛乳は要らない。これにしよう。


「とりあえず水を出して…っと」


釜を洗ってセットし直す。余っている米は明日チャーハンにでもしよう。必要な材料をかき集めて混ぜる。確認したけれどホットケーキミックスは変色していなかったから体を壊す心配はない。菜箸で混ぜるとだんだんと滑らかな液体に変わっていく。今までは絶対泡だて器でないといけないと考えていたのだがそんなことはなさそうだ。


「こんなもんかな」


棚に余っていたココアパウダーを入れたおかげで茶色くなった液体を流し込んで炊飯ボタンを押す。あとは待つだけ。

使った道具や洗い残していたものを片付けて、ついでに余ったホットケーキミックスを使ってクッキーの生地を2種類作っていたらあっという間に炊き上がった。


「どうなってるかなぁ」


わくわくした気分で炊飯器の蓋を開ける。


「おー…?」


パッと見上手く出来ているようだが、なんだか真ん中がプルプルと波打っている。


「…生焼けとかの次元じゃないなこれ」


1人暮らしの炊飯器では熱が入り切らなかったらしく、真ん中が液体のケーキが出来上がってしまった。どうしたものか。


「うーん…あ、そうか」


キッチンを眺めると洗ったばかりのフライパンが目に入った。これで焼き直せばいい。フライパンを熱しつつ油をしく。袖を伸ばして炊飯器釜を持ち上げるとやっぱり中央がプルプルと脈打つのが見える。


「よっと」


フライパンに流し込むとジューっと音が鳴る。後はいつも通り。


「電気代の無駄になったな」


焼きながら苦笑い。炊飯器で火が通っていたこともあってすぐに焼けた。皿を取り出して焼きあがったケーキもどきを盛り付けると、意外に大きくなってしまったのか皿から少しはみ出た。


「いただきまーす」


用意していたフォークで端の方をちぎり口に運んでみる。


「これはこれで美味しいけど…流石に多い」


深夜0時のスイーツ作りはいつもと違う味がした。



(暗転)

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