現代吸血鬼の朝。

 真っ暗な世界に落ちていた意識を引っ張りあげられる感覚から逃げようとしたが、抵抗虚しくあっさりと夢の世界から現実に引き戻された。


「…ぅ…あ、やっべ」


 観念して目を開けると朝日が窓の外から差し込んでいることに気がつく。

 どうやら昨日また寝落ちしてしまったらしい。


「あ…」


 煎餅布団の周りに散乱しているスマホの周辺機器や眼鏡を踏まないようにのろのろとカーテンを閉めた。

 部屋にまた暗闇が戻ったのでもう一度寝ようと布団に潜るが、覚醒してしまった意識を夢に戻すことは出来ず、しかたないと布団から抜け出した。


 ダラダラしたい気持ちを引きずりつつも顔を洗ってボサボサの髪をテキトーに整える。

 どうせ誰かに会うわけじゃないし邪魔にならない程度でいいだろう。

 鏡に映る決していいとは言えない今の自分の身なりを見ないように逃げるようにリビングに戻って、一人用の小さなテレビを何となくつけた。


 ー今日は全国的にお日様が顔を出し……


 画面の中では春色のカーディガンを身にまとった今をときめくお天気キャスターが快晴を伝えている。

 口元を覆う白い布のせいでその美しい容姿が見れないことは残念でならないが今の状況的にしょうがない事だろう。


「んー…切れそうだな」


 テレビの音を背に冷蔵庫を開く。そこには数週間前に買い溜めした輸血パックが数個重なり合って置いてある。

 1番上にあるものを手に取ってテレビ前に座り一瞬の間。ストローで飲まないと絶対手が汚れる。でも座ってしまったものだから面倒くさい。


「いっか」


 面倒くささが勝って牙でパックを破く。案の定中身が溢れ出して手を汚した。さながら○人後のようだ。


「それでは…今日も元気にいってらっしゃい!」

「んーできたらいいんだけどね」


 にこやかに手を振るアナウンサーに赤い手を振り返す。


「あーあ、いい加減夜型に戻さないとな」


 最近は吸血鬼にも優しい世界になった。ちゃんと合法の輸血パックが売られるようになったし、日光も別にずーっと当たってなきゃ死にはしない。

 行きつけの店が深夜営業のみであることに目を瞑ればまぁまぁ快適だ。


「頑張って今日は日更かしするか…」


 吸血鬼特有の言葉を吐いて、また布団に寝転ぶ。

 未だ輸血パックから零れた血が付いたままなのに気がついたのは昼寝から覚めた時だった。



(暗転)

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