【8】

 お婆ちゃんの家に引き取られた僕は、毎晩夢を見る。お父さんの顔が、黒いクレヨンで塗りつぶされていく。そのあと、ドアノブに結ばれた紐を首輪にしたお母さんが悶絶した後、動きをやめる。そんな、ちっとも嬉しくのない夢。


 夜中、明け方、朝。夢を見て起きるたびに、どこからか視線を感じる気がした。自分の呼吸と鼓動が、やけに荒く、やけに近い気がした。手足が寒そうに震え、僕は毎回、嫌というほど泣き喚いた。




 学校になんか、行きたくなかった。でも、お婆ちゃんに行かせられた。「保健室にいるだけでも、早退しても構わないよ」とは言ってくれたけど、何もかもが憂鬱の僕に、お婆ちゃんの言葉はイラつくだけだ。


 ランドセルを乱暴に背負い、家を出た。教室にはいたけれど、授業はひとつも話を聞いてないしノートもとっていない。友達との会話も、相槌だけで終わらせた。先生も友達も、気遣っているのか避けているのか、味のしない給食を食べ終えた午後には、ひとりぼっちになった。


 誰とも挨拶を交わさずに、朝と同じ要領でランドセルを背負うと、帰りは真っ先に教室を出た。学校からの帰り道。心にじわじわ侵食してくる恐怖と焦りと不安。次第に徒歩は早歩きになり、駆け足になる。



 目的地がおばあちゃんの家だから、帰る道も違う。きっとあの違和感はいないはず。そう信じたくても、家に帰るまでは信じられない。大きく足を踏み出すたび、ランドセルの中で筆箱の暴れる音がする。



 家族で住んでいた家に帰るより、2倍くらいの距離。だけどやはり道が違うからなのか、違和感に出会わないまま、たどり着くことができた。お婆ちゃんに鍵を開けてもらうため、インターホンに手を伸ばす。




 だが、伸ばした人差し指は、あと数センチのところで固まった。

 

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