【7】

 帰路でお母さんを見かけてから、2日後。



 眩しく光り輝く朝日に、僕は目を覚ました。お父さんがいなくなってから感じる家の静けさに、今日もぞわりと嫌な気分に見舞われる。


 時計を見れば、木曜日の朝8時過ぎ。とっくに起きていなければいけない時間で、学校は遅刻確定だ。どうしてお母さんは、起こしてくれなかったんだろう。


 気怠い体を布団から出して、リビングへと向かう。いつもなら、朝食の目玉焼きがテーブルの上に乗っているはずだった。だけど、目玉焼きは用意されていない。それどころか、洗濯物を干したり、仕事の準備をしたりするお母さんもいない。



 もしかして、僕を置いて、家を出てった?


 そんな考えが頭をよぎり、大慌てで玄関の靴を確認する。お母さんの靴は特に減っておらず、お父さんの靴も変わらずそこに存在していた。


 お母さん、と囁いてみる。声は真下に落ちて消える。

 お母さん! と叫んでみる。声は家中に響いて、空しく消えた。



 そうだ、お母さんたちの部屋。もしかしたらまだ、寝ちゃっているのかも。暗闇の心に、一縷の望みを光らせて、部屋のドアに手をかけた。




 ……あれ、開かない。


 鍵がかけられているわけではない。大きくて重いもので、ドアが開かないようにされている。体当たりしながら、些少さしょうずつこじ開けていく。



 全身が火照りだした頃、ようやく通れるくらいの隙間ができた。間を縫うように通り抜けて、ドアの前の物体を確認した僕は――






「ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」






――出せる限りの大声で叫んだ。


 頭が、胸が、爆発しそうに痛い。膨大な情報を、許容範囲の超える情報を、これでもかと詰め込まれたように苦しい。すぐに枯れた声はゾンビみたいに変化して、肺が押しつぶされそうな咳を幾度もした。ほんの少し前まで……それこそ1か月前なんかは、家族全員揃って、みんな笑って、過ごしていたのに。それだけが続いてくれていれば良かったのに。








 意識がぷつりと千切れる。

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