【5】
お母さんのすすり泣く声が聞こえる。会社の人達が小声で喋っている声が聞こえる。お坊さんのお経を読む声も聞こえる。
僕はぼんやり、どこか他人事のように思えていた。
お父さんの顔にかけられた白い布。見ないほうが良いと言われて、それに手をかけずにいた。みんなが順番に、花を飾っていく。黄色、白、ピンク。かっこよかったお父さんはなんだか、可愛らしい女の子になったみたい。
「健くんも……お父さんにお花、添えてあげなさい」
お父さんの会社の人が手渡してきた白い花を受け取って、たどたどしくお父さんの顔の横に置く。
次の日曜日に、家族で出かけるって約束したのに。お父さんは仕事帰り、事故であっけなく死んでしまった。
僕の手を取り、弱い力で握りしめてくるお母さん。その手はお父さんの温もりを間違いなく求めていた。何もできない僕はただ、ぎゅっと握り返した。途端、目から大粒の涙が無意識のうちにあふれ出す。
胸が苦しい。呼吸がままならない。僕の大好きなお父さんが、死んだ。もう2度と家に帰ってこない。一緒に出掛けられない。話することもできない。
涙が喉元を伝い、服を濡らし、落ちていった雫は靴先を流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます