【5】

 お母さんのすすり泣く声が聞こえる。会社の人達が小声で喋っている声が聞こえる。お坊さんのお経を読む声も聞こえる。


 僕はぼんやり、どこか他人事のように思えていた。


 お父さんの顔にかけられた白い布。見ないほうが良いと言われて、それに手をかけずにいた。みんなが順番に、花を飾っていく。黄色、白、ピンク。かっこよかったお父さんはなんだか、可愛らしい女の子になったみたい。



「健くんも……お父さんにお花、添えてあげなさい」



 お父さんの会社の人が手渡してきた白い花を受け取って、たどたどしくお父さんの顔の横に置く。


 次の日曜日に、家族で出かけるって約束したのに。お父さんは仕事帰り、事故であっけなく死んでしまった。


 僕の手を取り、弱い力で握りしめてくるお母さん。その手はお父さんの温もりを間違いなく求めていた。何もできない僕はただ、ぎゅっと握り返した。途端、目から大粒の涙が無意識のうちにあふれ出す。



 胸が苦しい。呼吸がままならない。僕の大好きなお父さんが、死んだ。もう2度と家に帰ってこない。一緒に出掛けられない。話することもできない。



 涙が喉元を伝い、服を濡らし、落ちていった雫は靴先を流れた。

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