【3】

 今日は廊下を走っているところを先生に見つかっちゃって、友達と一緒に怒られた。足元に転がる石を蹴り上げると、それは真っすぐ飛ばずに、側溝へと落ちていく。


「あーあ、ツイてないな」


 石ころを目で追いかけて、ぼそりと呟いた、その時。もう3度目になる違和感が、のしかかってきた。どうして急に、ここまで視線に敏感になっちゃったんだろう。考えても、思い当たる節はない。



 口を軽く開き、苦しさを逃がそうと試みた。目が虚ろになっていくのが分かる。顫動せんどうする手足から、力が抜けていく。世界から隔離されてしまったかのような音の濁り。


 何度も頭の中で、大丈夫、と唱えて、覚悟を決めると勢いよく振り向いた。そこに立っていた親子の姿に、得体のしれない恐怖が、鳥肌となって全身を駆け巡る。




 怖い。




 お母さんに手を引かれる幼子。

 黒い瞳で見つめてくるお母さん。



 その視線で、お腹に穴が開きそうだ。声にならない悲鳴をあげ、後ずさりを数歩。2人とも、微動だにせず見てくる。初めて感じた莫大な恐怖は、親子から目を逸らした僕の足を急がせた。この日、僕は涙を目に浮かばせて帰り道を走った。

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