第391話 だって男の子なんだもの
翌日、ライトは屋敷の庭でルクスリアを英霊降臨で呼び出していた。
『私に用事?』
「うん。ちょっと<法術>のことで相談があって」
『<法術>? ライトはもう、私が教えられる技全てを会得してるじゃないの。まさか・・・』
「そう、そのまさかだよ」
ルクスリアはライトが何を相談したいのか察し、ハッとした表情になった。
『新しい技を生み出すつもりなのね』
「正解。やってやれないことはないと思うんだ。だって、ヒルダの【
『確かにそうね。ヒルダは<聖剣術>の技を編み出してるわ。でも、あれはヒルダが思い描くイメージと元となる技がかみ合ってこそなのよね。<法術>でライトはどんな技を編み出したいの? イメージが固まってないと、新しい技なんて開発できないわよ?』
ルクスリアの言う通り、ヒルダが使っていた【
ヒルダが剣の腕に優れているだけでなく、どういう技が必要か考えて編み出したのだ。
ライトの功績が目立つせいでヒルダの功績が目立っていないが、新たな技を生み出すのは難易度が高く実現できたら大変名誉なことなのだ。
<神道夢想流>や<ヴィゾフニル流>を編み出したライトやアンジェラもすごいが、ヒルダが成し遂げたことだって十分偉業と呼べる。
難しいことに挑戦するとライトが言っているので、相談に乗るルクスリアはその助けになるべくどんな技を編み出したいのかライトに絞らせようとした。
だが、心配無用のようだ。
「それについてはもう考えてあるよ」
『そうだったのね。どんなものなのか教えてちょうだい』
「1つ目は一瞬で全回復する技かな。状態異常とHPを一気に回復させられれば良いと思ってる」
『そんな素晴らしい技があったら私がとっくに使ってるわよ』
HPの回復ならば【
言うまでもなく、そんなものがあれば真っ先にルクスリアが会得して使っていたに違いない。
「そうかもしれないけどさ、ルー婆と僕には大きく違う点がある」
『違い?』
「うん。MPの保有量だよ。ルー婆も生前はかなり多かったんだろうけど、僕程じゃなかったでしょ?」
『私の全盛期は4万。ライトは今いくつ?』
「12万」
『3倍ですって!? 恐ろしい子!』
自分の保有していたMPと比べ、ライトがその3倍も持っていたと知ってルクスリアは驚きを隠せなかった。
日々の訓練や強敵との戦いのおかげで、ライトのMPは天井知らずに伸びている。
しかも、ライトのダーインスレイヴにはMPストックの効果まであるのだから、日頃の準備さえ怠っていなければMP切れのリスクも少ない。
MPを大量に消費することで使える技になったとしても、これだけのMPがあればどうとでもなるだろう。
「ルー婆の厳しい訓練にも耐えて来たんだから、それぐらい驚いてもらわないと張り合いがないよ」
『はぁ・・・。まあ良いわ。そしたら、ライトは訓練用の人形を出しなさい。重病人や重症患者なんて簡単には用意できないもの。人形相手じゃイメージを実践するのは難しいかもしれないけど、何もない所に発動しようとするよりはやりやすいはずよ』
「わかった」
ルクスリアのアドバイスを受け、ライトは<
人形はマネキンと呼んで問題ない見た目であり、今にも動き出しそうな程リアルだ。
その人形に狙いを定めると、ライトは深呼吸してからイメージした効果を起こすべく思いついた技名を唱えた。
「【
ライトが技名を唱えた瞬間、ライトは体から一気に万単位のMPが失われるのを感じ取った。
それと同時に、人形の正面に天使を模った聖気が現れて人形を抱き締めた。
天使のエフェクトが消えると、訓練であちこちに傷があったはずの人形は新品同様に治っていた。
《ライトは【
(よし! 成功!)
なんとなく上手くいく気がしたライトだったが、アナウンスによって新たな技を開発できたことを知って自然にガッツポーズをした。
『えっ、何、まさか、そんな簡単にやっちゃうの!?』
「ルー婆、新技の開発に成功したよ」
『うぅ・・・。私がどれだけ苦労してもできなかったのに・・・』
ライトがニッコリと笑うと、ルクスリアは生前の自分の苦労を思い出して泣きそうになった。
そんなルクスリアを放置して、ライトは【
すると、HPと状態異常の全回復だけでなく、失った部位や血の再生までできることがわかった。
当然、そんなすごい効果を低コストで発動できるはずもなく、発動に必要なMPは2万だと発覚するのだが。
世の中全てが上手くいく訳でもないということだろう。
「それでさ、もう1つ技を開発したいんだけど」
『う、嘘でしょ? 1つ開発しただけで充分すごいのに、休まず2つ目も開発する気?』
「元々2つ開発する気だったんだよ。ルー婆の意見が聞きたいんだ」
『ライトが無茶苦茶なのは今に始まったことじゃないものね。ライトだから仕方ない。うん、よし。話してごらんなさい』
自重していない自覚があったので、ルクスリアの頭を切り替え方を目の当たりにしてもライトはツッコまなかった。
脱線ツッコミなしでそのまま話を続けた。
「<法術>でアンデッドに使える攻撃技が欲しいんだ。【
『あ~、それはわかるわ。【
ライトの希望にルクスリアは共感した。
ルクスリアも生前は<法術>を使ってアンデッドと戦うことは多かったが、その時に頭を悩まされたのが強敵相手に攻撃手段がないことだ。
勿論、一気にHPを削ってとどめをさせるのだから、【
それでも、戦闘序盤から中盤にかけてパーティーの支援だけしかできないのはどうにももどかしく思う。
これがライトとルクスリアの共通見解だった。
「<法術>で実体化する技って言うと、【
『なるほどね。だとすると、防御系の技を攻撃系の技にするのは難しいんじゃないかしら? 精々突撃して来る相手の目の前に壁を創り出して自滅させるとかね』
「僕もそう思う。もしも攻撃系の技を開発するなら、【
『同感だわ。でも、鎖を振り回して殴るぐらいしかパッと思いつかないのよね。鎖って尖ってないから剣みたいに使うのは難しそうだし』
「回す・・・、尖る・・・、剣・・・」
ルクスリアが口にした言葉の断片が引っ掛かり、ライトはそれらを口にして考え始めた。
ライトが熟考しているのだと悟ると、ルクスリアはそれを静かに見守る。
「整った」
『聞かせてちょうだい。いや、見せてもらった方が良いわね』
「待ってて。【
そう言うと、ライトは周囲を光のドームで覆ってから
大岩が出て来た時点で、ライトが派手に何かやらかすのだろうとルクスリアは察した。
新技の実験準備が整うと、ライトは深呼吸してから閃いた技名を唱えた。
「【
その瞬間、ライトの体からごっそりMPが抜ける感覚と同時に、5本の光の鎖が渦を描くように回転しながら前方に射出された。
大岩に命中した途端、それはドリルに掘られたかのような穴が開いて貫通した。
《ライトは【
アナウンスが聞こえた直後、目の前で起きたことが信じられずにルクスリアが叫んだ。
『ちょっ、何よこれぇぇぇっ!?』
「【伍式:
ドリルをイメージしたと言っても伝わらないので、ライトはルクスリアにもわかるように説明した。
『【
「だって男の子なんだもの」
『はぁぁぁぁぁ・・・。もう、良いわ。ライトだから仕方ない。ライトだから仕方ない』
どうやら、ルクスリアはライトが【
それだけ<法術>で攻撃するのは難しいという認識だったのだが、ライトはその認識を男子の憧れたるロマン砲によって覆してみせたのだ。
ルクスリアが驚くのも無理もない。
ちなみに、【
それでも、ライトはついに<法術>で
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