第377話 悪意の塊じゃないか
アルバスとイルミ達に
内装は石造りであること以外は、RPGゲームに出て来る悪の組織のアジトと同じだ。
地下の横穴とは決して呼ばせないというこの拠点の作成者の意思が感じられる。
ちなみに、ライトが<神眼>で調べると拠点にはギムレーという名前がついていた。
(ここがギムレーだなんて皮肉だな)
ライトはギムレーと名称を目にした時、そう思わずにはいられなかった。
北欧神話において、ニブルヘイムとは死者の世界である。
悪しき行いをした人間もしくは病気や老衰で死んだ人間は皆、ヘルが統治されるニブルヘイムへと送られる。
それに対し、ギムレーとは罪のない人間が死後に送られる広間だとされている。
もしもこれをライト達のいる世界に置き換えるとしたら酷い話ではないだろうか。
悪いことをせず、アンデッドに生活を脅かされた者達が懸命に生きる世界がニブルヘイムと呼ばれ、人類の敵と呼べる呪信旅団の拠点がギムレーだなんてどうかしている。
無論、神話上のニブルヘイムも善人悪人問わず死んだ人間がニブルヘイムに送られているのだから、その点だけを切り取ればおかしいことなどない。
それでも、非人道的な行いを積極的に実行する呪信旅団の拠点をギムレーとするならば、ライト達が存在するニブルヘイムの善悪の概念が逆転していると言っても過言ではない。
釈然としない気持ちを抑えつつ、ライト達はアンジェラ、ライト、ヒルダの順番でギムレーの中を進む。
一本道の通路を普通に進んでいくと、その前方に
「アンジェラ、あれは罠に見える?」
「ドア単体は罠ではないでしょうが、入った瞬間に何かある気がしてなりません」
「そっか。僕も調べてみよう」
ライトは<神眼>を発動し、まずはドアが罠でないことを確認した。
しかし、ドア自体に何かが仕掛けられているという鑑定結果は出なかったので、アンジェラの言う通り入ってみなければ何が起こるかわからなかった。
「どうでしたか?」
「アンジェラの言う通り、あのドア自体は罠じゃない。だからこそ、ドアの向こうに何があるかが心配だ」
「ライト、私が壊す? <水魔法>を使えば、ここからでもあのドアは壊せるわ」
「そうだね。ヒルダにお願いするよ」
「任せて。【
ヒルダが技名を唱えることで、水が圧縮されて槍を模った状態でドアに向かって射出された。
ドアは本当にただの木製のドアだったため、水の槍がぶつかった瞬間にあっけなくバラバラになった。
ドアが壊れた瞬間、その奥から何かしらの迎撃があるのではないかとライトは考えていたが、それは杞憂に終わり何事も起きなかった。
ライト達がドアの奥に見つけたのは書庫だった。
「書庫?」
「書庫ね」
「ただの書庫だとは思えませんが」
「「確かに」」
アンジェラのコメントに対し、ライトとヒルダが頷いた。
ドアが壊れた途端に矢が飛んでこなかったことから、少なくともドアを開けるとか壊すという行動に対して罠は作動しないと見て良いだろう。
そこまで考えると、ライトは<
「投げてみるね」
自分の言葉にヒルダとアンジェラが頷くと、ライトは書庫の入口に向かって石を放り投げた。
放物線を描くように石が落下して書庫の入口に触れた瞬間、パカッという音と共に入口の床が割れて落とし穴になった。
「落とし穴だったか」
「罠がないはずなかったね」
「問題は罠がこれだけかどうかですが」
「「言えてる」」
再び、アンジェラのコメントにライトとヒルダが同意した。
一体いつからこれだけだと錯覚していたと言わんばかりに、油断した隙を狙って作動する罠があちこちに配置されていたって不思議ではない。
「もう少し石を投げてみるよ」
ライトは<
すると、石が当たった本棚は大した衝撃ではなかったはずなのに、石にのしかかる形で倒れた。
天井と壁、床には何も起きなかったが、本棚だけは倒れた。
「アンジェラ、これはどういうことだと思う?」
「まだ書庫の先へと繋がるドアを見てませんので断言はできませんが、おそらくドアを開ける仕掛けが本棚のどれかにあるのでしょう。倒れた本棚はフェイクで触れた途端に触れた物を下敷きにするように絶妙なバランスにしてるものと思われます」
「書庫の外から石を投げこんで倒れない本棚を探す?」
「良い手です。<
方針が決まると、ライトとヒルダ、アンジェラは手分けしてライトが供給する石を投げて倒れない本棚を探した。
3分程石を投げ続けると、倒れずに残った本棚は壁に沿って並べられた物も含めて7台あった。
それから、ライト達は落とし穴を飛び越えて書庫の中に入り、倒れた本棚も足場にして先に進むためのドアを探した。
ヒルダが壊した場所と対角線上に位置しているドアの前まで来ると、ライト達は7台の本棚が残っていた理由を理解した。
「ここに本を差し込むのか」
「1つの本棚から1冊ずつよね」
「間違ったら罠が作動します。旦那様、お願いします」
「わかった」
ライトは<神眼>を発動し、ドアがどのような罠なのか調べた。
(悪意の塊じゃないか)
結論から言うと、ドアは罠だったが
だが、十分に殺意の高い罠だった。
ドアには本を差し込むポケットが7つあり、鍵となる本を正しい順番で並べなければ無傷でドアを開けることはできない。
正しい本をポケットの正否を問わず差し込んでもドアは開錠される。
しかし、開けた瞬間に扉に仕込まれている可燃性の高い油が漏れ出し、ドアを開ける摩擦熱で引火する仕組みになっていた。
幸いなことに、ライトの<神眼>で鍵となる本とポケットに差し込む順番が明らかになった。
ライトはヒルダとアンジェラと手分けして鍵となる本を回収した。
余談だが、鍵となる本が納められていた本棚は、7割が毒にも薬にもならない雑学で、2割が歴史的文献、1割が鍵となる本という割合で本が格納されていた。
それはさておき、ライトは正しい順番で鍵となる本をポケットに差し込み、無傷でドアを開けることに成功した。
「ふぅ。無事に開いて良かった」
「ギムレーを作った人はとんでもない人間不信だわ」
「私も初めて見る罠でしたから、ギムレーが作られたのはかなり昔なのでしょう」
「それだけ昔から呪信旅団が暗躍してたとも言えるね」
「陰でコソコソしててしぶとく存続するなんて迷惑なことこの上ないわ」
「そう聞くとゴキブリのようですね」
(僕もそう思った)
ヒルダのコメントを聞き、ライトもアンジェラと同様の感想を抱いた。
実際のところは、ノーフェイスを中心とする主要メンバーを潰せば瓦解するだろうが、ヒルダの言い分にも頷けないことはない。
人類の大多数に嫌われている点では、ゴキブリも呪信旅団も変らないのだから。
扉を開けた後、ライトは罠の誤作動がないようにヒルダに頼みごとをした。
「ヒルダ、このドアを濡らして使い物にならなくしてもらえる?」
「わかったわ。【
扉を包み込むように水の牢獄が現れることで、罠としてのドアの機能は無効化された。
書庫では火気厳禁だが、水気も厳禁なのだ。
帰り道の安全を確保すると、ライト達は先に進むことにした。
とはいったものの、ドアの先にあるのは階段だった。
「螺旋階段?」
「通路や部屋じゃないのね」
「横に広いのかと思っておりましたが、縦に広く作られてるのですね」
まさかドアの先が階段になっているとは思わず、ライト達は目を丸くした。
アンジェラのチェックとライトの<神眼>を使っても、目の前にあるのはただの石造りの螺旋階段だった。
アンジェラ、ライト、ヒルダの順番で静かに下の階へと移動した。
そして、またしても木製のドアがライト達の目の前に現れた。
「旦那様、この先に誰かいます。罠はないようです」
「マジで? 根拠は?」
「一流のメイドや執事独特の気配がします」
変態ではあるものの、一流のメイドであることは間違いないアンジェラがそう言うのならば、自分に感じ取れなくともそうなのだろうとライトは判断した。
<神眼>で調べた結果、アンジェラの言う通り目の前はただのドアだった。
敵がこの中にいるとわかっているため、アンジェラが手を塞がずに済む<
ドアの向こうには、直立不動のシルバーグレーのオールバックがトレードマークの老執事が待ち構えていた。
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