第376話 <聖鎌術>、この世に斬れぬものはなし!

 ライトとヒルダ、アンジェラを先に行かせた後、アルバスとイルミは死使ネクロムに注意しつつトーチジェネラルとキョンシータイラントと対峙していた。


 トーチジェネラルはトーチナイトの上位種であり、トーチナイトがLv65に到達した時に進化した。


 その見た目は、鎧が将軍ジェネラルに相応しいものに変わっており、全身から放出している赤い炎もトーチナイトよりも荒々しい。


 アルバスにとって都合が良かったのは、トーチジェネラルが既知のアンデッドだったことだろう。


 何故知っているかと言うと、カタリナが使役するトーチナイト亜種も、トーチジェネラル亜種に進化したのをダーインクラブに集合した時に見させてもらったからだ。


 呪信旅団に死使ネクロムがいる以上、死使ネクロムが使役するアンデッドと戦う可能性は限りなく高い。


 それゆえ、カタリナが使役するアンデッドを知っておくことで、死使ネクロム対策になるかもしれない。


 ライトがそう考えたことにより、アルバスとイルミ、ジェシカがダーインクラブに集まってから出発するまでの間にカタリナに使役するアンデッドのお披露目と解説を頼んだのだ。


 残念ながら、今イルミが戦っているキョンシータイラントはカタリナも使役していないので、どのようなアンデッドなのかは戦いながら探るしかない。


 そうだとしても、イルミの方がアルバスよりも強いから、キョンシーと呼ぶには筋肉モリモリなキョンシータイラントが相手でも問題ない。


 さて、話は戻るが普通のトーチジェネラルとトーチジェネラル亜種のどっちが厄介なのか。


 考えるまでもなく後者である。


 つまり、後者への対策ができていれば、トーチジェネラルは恐れるものではない。


 だが、それはあくまで単体としての話であり、使役する者の違いを考慮せねばなるまい。


 カタリナと死使ネクロムが戦い慣れしているかと訊かれれば、人類の敵として常に緊張感のある生活を余儀なくされた死使ネクロムなのだから。


「トーチジェネラル、如何なる手段を用いても構わないわ。無冠貴族ハイメを殺しなさい」


「うぉっ、危ねえ! 【幻影歩行ファントムステップ】【輝旋風シャイニングワールウインド】」


 自由裁量でアルバスを殺せと指示を出された瞬間、トーチジェネラルの動きが良くなった。


 先程までのトーチジェネラルは、死使ネクロムの安全を第一に守るよう命じられたが、今はその役目から解放されている。


 シャムシールと呼ばれる種類の剣を右手に握り、トーチジェネラルがアルバスにいくつもの斬撃を飛ばす。


 アルバスはそれを【幻影歩行ファントムステップ】で躱しつつ、その足捌きを利用して体をその場で回転させて【輝旋風シャイニングワールウインド】を放った。


 トーチジェネラルは【聖断ホーリーサイズ】のような大技でも一撃ならば防げたが、一度に複数回の攻撃を受ける【輝旋風シャイニングワールウインド】は盾で受けきれずにダメージを負った。


「なるほど。そういうのは防げねえんだな」


「トーチジェネラル、連続技は撃たせる前に潰しなさい!」


 死使ネクロムがイルミと戦っているキョンシータイラントに指示を出し終え、アルバスの使える攻撃の選択肢を削らせるように命令した。


 すると、トーチジェネラルは全身から噴き出す炎を激しくしてからアルバスに突撃した。


 トーチジェネラルが密着して戦えば、アルバスは一度に複数回の攻撃を与えられるような技を放てる余裕を持てなくなる。


 精々チクチクと仕掛けるので手一杯になるだろう。


 だがちょっと待ってほしい。


 アルバスにはフリングホルニがあることを忘れていないだろうか。


 フリングホルニの効果だが、魔石かMPを捧げてSTRかVITを一時的に上昇させられる。


 つまり、能力値を底上げして技を放つ隙を作れる訳だ。


 アルバスはMPを捧げてSTRを上げてトーチジェネラルの剣をナグルファルで弾き、トーチジェネラルのバランスを崩すと攻撃を仕掛けた。


「【輝啄木鳥シャイニングウッドペッカー】」


 バランスを崩したトーチジェネラルはアルバスの攻撃を防ぐことができず、連続して刺突を受けて後ろに吹き飛ばされた。


「丁度良いか。【聖裁刃雨ホーリージャッジメント】」


 大技を仕掛ける間に詰め切れない距離ができたのを確認し、アルバスは【聖裁刃雨ホーリージャッジメント】を放った。


 フリングホルニの効果でSTRが上昇していることから、聖気を纏ったそれぞれの刃

の威力が上がる。


 どうにか体勢を立て直したものの、トーチジェネラルは降り注ぐ攻撃全てを盾で防ぎきれずにどんどんダメージを負う。


「<聖鎌術>、この世に斬れぬものはなし! 【聖断ホーリーサイズ】」


「トーチジェネラル、避けなさい!」


おせえよ」


 フリングホルニの効果を再度発動し、MPを捧げてSTRを強化したアルバスが【聖断ホーリーサイズ】を放つ。


 初撃と比べ物にならない威力を察し、死使ネクロムはイルミと戦っていたキョンシータイラントに向けていた意識をトーチジェネラルに移して回避するよう命じた。


 それでも、アルバスの言う通り命令のタイミングが遅かったせいで、トーチジェネラルの回避も遅れた。


 威力の増した聖気を纏う巨大な斬撃により、トーチジェネラルの体は真っ二つになって消えた。


「ここが勝負の分かれ目だよ! 【聖壊ホーリークラッシュ】」


 キョンシータイラントが死使ネクロムの指示待ちになった隙を突き、イルミも大技でキョンシータイラントの体を粉砕した。


「しまった!?」


 死使ネクロムは普段使いしている戦力2体を失い、自分が追い詰められたことを悟った。


 スカルキャリッジはまだ召喚せずにいたが、それは移動手段として頼れてもアルバスとイルミを倒せる強さではない。


 そうだとしたら、死使ネクロムが生き残る方法は逃げ一択だ。


 ではどこに逃げれば良いのか。


 拠点の中に逃げ込めば、地の利からアルバスとイルミを撒いて逃げることはできよう。


 しかし、逃げたことがノーフェイスにバレれば、第二婦人だろうがゴミのように捨てられるに違いない。


 折角ノーフェイスに抱いてもらえるようになったのに、気の迷いで全てを失いたくないと思うのは当然だろう。


 いや、そもそも死使ネクロムは逃げるという選択肢を持ち合わせていない。


 ノーフェイスに心も体も捧げている以上、死使ネクロムがノーフェイスに不利益となることをするはずないのだ。


 だったらどうするか。


 決まっている。


 少しでもこの場で時間を稼ぎ、アルバスとイルミをこの先に進ませないようにするしかない。


「【召喚サモン:スカルキャリッジ】」


 死使ネクロムは召喚したスカルキャリッジに乗り込んだ。


「何をする気か知らねえけど終わりにさせてもらう! 【輝重斬撃シャイニングヘヴィスラッシュ】」


「スカルキャリッジ、幸い足場はあるわ! 走りなさい!」


 アルバスがスカルキャリッジごと死使ネクロムを倒そうと技を放つが、死使ネクロムはスカルキャリッジを走らせつつスカルキャリッジの中から前に向かって何かを投げた。


 それが地面に触れた瞬間、煙がその場に広がった。


「煙幕だね。私が晴らすから、アルバス君に後は任せるよ。【輝闘気シャイニングオーラ】」


 イルミは自分達に向かって広がる煙に対し、聖気を全身から前方に向けて放出した。


 それにより、煙がイルミとアルバスのいる場所まで届くことはなく、押し返されて拠点の中に煙が流れ込んでいった。


 そして、流れていく煙の中から現れたのは、相打ち覚悟の特攻を選択した死使ネクロムとスカルキャリッジだった。


「死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇっ!」


 姿を隠す煙がなくなって奇襲ができなくなったが、死使ネクロムに止まるつもりも止めるつもりもなかった。


 まずはアルバスから轢き殺そうと決めていたのか、死使ネクロムの乗るスカルキャリッジはアルバスに向かってスピードを上げて向かって来ていた。


 その一方、アルバスは焦ることなくフリングホルニを構えた。


「【聖断ホーリーサイズ】」


 まだフリングホルニの効果時間は持続していたので、強烈な一撃がスカルキャリッジに放たれた。


 スカルキャリッジは限界速度に到達しており、アルバスの放った輝く斬撃に当たるまで3秒もかからなかった。


 命中した瞬間、スカルキャリッジが爆散して死使ネクロムの体は宙を舞った。


 全力で走っていたスカルキャリッジが粉砕したことで、それに乗っていた死使ネクロムに慣性の法則が働いたからだ。


 死使ネクロムは生粋の後衛であり、接近戦に向いていないだけでなく体幹だって一般人レベルである。


 弾丸のように横一直線に吹っ飛んだ死使ネクロムはアルバスの前方に落下し、そのままゴロゴロと転がって仰向けの状態でアルバスの手前に止まった。


 死使ネクロムは体のあちこちの骨が折れて痛みに顔を一瞬歪めたが、敵にやられる前にこれだけは言ってやると最後の気力を振り絞った。


「ノーフェイス様、万歳・・・」


「終わりだ」


 アルバスはフリングホルニで死使ネクロムの首を刎ねた。


 死使ネクロムを倒したアルバスにイルミが駆け寄る。


「アルバス君、お疲れ様。大丈夫? どこも怪我してない?」


「俺は大丈夫です。イルミさんこそ大丈夫ですか?」


「問題ないよ。それじゃ、ライト達が待ってるし先を急ごう」


「はい!」


 死使ネクロムを下したアルバスとイルミは、先行するライト達を追いかけるために歩き始めた。

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