旅団征伐編
第371話 トールお兄ちゃん頑張れ
年が明けて4月、ライトの【
2人目は女の子であり、名前は前々から決まっていた通りエイルになった。
トールは黒髪黒目だったが、エイルは銀髪に青い目をしていた。
顔のパーツはライトに似ているが、ライトも美形のカテゴリーに含まれるから問題ないだろう。
ステータスは以下の通りだ。
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名前:エイル=ダーイン 種族:人間
年齢:0 性別:女 Lv:1
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HP:5/5
MP:10/10
STR:5
VIT:5
DEX:5
AGI:5
INT:10
LUK:5
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称号:ダーイン公爵家長女
職業:なし
スキル:<鑑定><剣術><状態異常耐性>
装備:なし
備考:眠気
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ヒルダは産後、来たる呪信旅団殲滅戦のため、ライトに体調を管理してもらうことを条件に錆落としをして妊娠前の調子を取り戻している最中だ。
模擬戦の相手はアンジェラが務め、ライトはその間ヒルダが無理していないかモニターするようにしている。
ヒルダが調子を取り戻そうと努力する一方、トールはと言えば2歳になってかなり喋れるようになった。
既に1人で自由に歩けるようになっており、移動も誰かに抱っこされることはなくなった。
とはいえ甘えん坊なところもあるので、ライトやヒルダ、ロゼッタに抱っこしてもらえるとなるとおとなしく抱っこされているのだが。
今日はライトに時間があるため、トールはライトにリビングで遊んでもらっている。
「パパ、かるたしたい」
「良いよ。トールは勉強して偉いね」
「お兄ちゃんだもん」
かるたはライトがトールの2歳の誕生日にプレゼントしたおもちゃだ。
少しずつではあるが着実に覚える言葉の数が増えて来たので、その助けになればとライトが自作のかるたをプレゼントしたのだ。
トールはそれを大変気に入り、貰って3ヶ月経過した今でもそれを使って遊びながら勉強している。
最初は未知を知ることの面白さからのめり込んでいたが、エイルが生まれてからは自分がお兄ちゃんであることを意識し始めたのか早く文字や物の名前を覚えようと頑張っている。
「そうだね。トールはお兄ちゃんだ。カッコいいとこ見せたい?」
「うん! 僕がエイルに教えてあげるの!」
「トールお兄ちゃん頑張れ」
悶えそうなぐらい可愛いトールの頭を撫でると、ライトは読み札を引き取って絵札を机の上にランダムに並べた。
トールはトール用の椅子に座り、じーっと絵札を見つめていつどの札を読まれても良いように待機してる。
その様子も可愛い。
「じゃあ、始めるよ。”良いアンデッドは使役されたアンデッドだけだ”」
「あった!」
ライトが札を読み上げると、
「当たり。次だよ。”考えるな、感じろ”」
「イルミ伯母ちゃん!」
(速い。イルミ姉ちゃん、トールに脳筋キャラとしてすっかり刷り込まれてるよ)
そう思ったライトだが、トールに脳筋なんて言葉を覚えさせる訳にはいかないのでコメントは心の中に留めた。
「速い! やるじゃんトール」
「えへへ。イルミ伯母ちゃん覚えやすいの」
「それはイルミ姉ちゃんも喜ぶかも。次いくよ。”焼きおにぎり、みんなで食べると美味しいな”」
「おにぎり!」
「イルミ姉ちゃん、焼きおにぎりに負けたか」
”考えるな、感じろ”の札よりもトールの取るスピードが速かったので、ライトはトールの中で焼きおにぎり>イルミなのかもしれないとイルミを哀れに思った。
実際、焼きおにぎりは美味しかった。
ヘルから無限醬油さしを貰ったライトは、屋敷で焼きおにぎりを試作すると人気過ぎて収穫した米があっという間になくなりそうになり、作ることを止めた程である。
今年は昨年よりも収穫量を増やせるよう、ダーイン公爵家とライトが選定した農家で多めに稲を植えたばかりだ。
トールもお気に入りだったらしく、焼きおにぎりの絵札はあっという間にトールの手に掴まれた。
「あら、かるたやってるの?」
そこにヒルダがやって来た。
エイルがぐっすりと寝てしまい暇になったようで、ライトとトールが遊んでいると聞いて足を運んだのだ。
「ヒルダもやる?」
「ママも一緒にやろ?」
「そうね。やりましょうか」
トールに一緒にやろうと期待の込められた目線を向けられれば、ヒルダにNOという選択肢はなかった。
ヒルダが席に着くと、ライトは次の札を読み始めた。
「”駄目だこいつ・・・。なんとかしないと・・・”」
「うぅ、わかんない」
「あったわ」
トールが首を傾げる隣で、ヒルダは冷静に絵札を取った。
その絵札に書かれているのは、ライトに怒られて喜んでいるアンジェラの姿だった。
トールにこの札はまだ早過ぎるが、山札の上から順番に呼んでいるので仕方ない。
「パパ、次!」
ヒルダに取られてしまったことが悔しいらしく、トールは次の札をライトに催促した。
「ちょっと待ってね。読むよ。”逃げちゃ駄目だ。お残しは許されない”」
「はい!」
該当する絵札を取ったのはトールだった。
その絵札には、ピーマン嫌いの子供が皿の端にそれを避けたのを目を光らせた
トールはこの札を取れたものの、本当のところを言えばヒルダもどこにこの絵札があるか気づいていた。
しかし、先程の絵札を取った時にトールが悔しそうにしていたのを見て、気づかないふりをしていたのである。
ちなみに、先程の絵札を取ったのだってトールがわからないと言ったからだ。
わかっていたのなら、ギリギリで取り負けるぐらいの配慮をするつもりだった。
子供と遊ぶ時に子供の機嫌を損ねるような大人げないことはできないので、ヒルダはその辺をよく理解していると言えよう。
「取れたねトール」
「うん! あっ、でも、僕は好き嫌いしないよ!」
取ってやったぜと得意そうな顔から一転して、自分は食べ物の好き嫌いはしないからとアピールするトールはとにかく可愛い。
「そうだね。毎日しっかり食べてて偉いよ」
「トールは偉いわ。きっと大きくなれるね」
「やったぁ!」
ライトとヒルダに頭を撫でられ、トールはとても嬉しそうである。
さて、気持ちを切り替えてライトは次の札を読み始めた。
「”狙い撃つわ”」
「えっと、え~っと・・・」
これはまだ難しいかなと思ったヒルダは、ライトに視線をやって今回は取ると合図し、ライトもそれに頷いた。
だが、その時2人にとって予想外のことが起きた。
「これ!」
「まあ」
「トール正解」
必死に思い出したらしく、トールはヘレンがアンデッドを弓矢で狙撃する絵札を取った。
思い出してモヤモヤしていた気分から解放されたこともあり、トールは達成感に満ちた笑みを浮かべた。
まだこの絵札は難しいかと思っていたライトとヒルダだったが、トールが自力で思い出して絵札を取ったことに目を丸くした。
「フフン」
(カメラはどこだ!? まだ作れないのか!?)
ドヤ顔のトールを写真に収めたいライトだったが、残念ながらまだカメラの開発には成功していない。
血の涙を流しそうになったが、ライトはどうにか耐えてみせた。
その後も、1枚ずつ絵札を読み上げていって残るは2枚となった。
残り1枚だとAGIの勝負になってしまうので、実質的にはこれがラストだ。
50枚の絵札の内、トールが29枚ヒルダが19枚という状況だ。
既にトールの勝ちは決定しているが、現在進行形で自己新記録を更新しているトールとしては、キリの良い30枚を目指したいところだろう。
「ラストだよ。”ファイト~、いっぱ~つ!”」
「はい!」
ユグドラ汁を飲んで気合十分な少年時代のライトのイラストが描かれた絵札は、トールの手によって確保された。
「おめでとう、トール! 自己新記録達成だね!」
「30枚も取れたのね。すごいわ」
「エヘヘ」
無事にキリの良い枚数の絵札を取ることができたので、トールはすっかりご満悦である。
この日の夕食は、トールが頑張ったことのご褒美としてトールだけライトがストックしていた小さい焼きおにぎりが付いていた。
頑張ったらご褒美を貰えたとトールは喜び、それを見た周りはほっこりするのだった。
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