第358話 こ、これは、有田焼の醤油差しじゃないですか!
話はノーフェイスから月食の話に戻る。
「今年の月食だけど、瘴気の流れが悪いの。最低でも
「ヘル様がそう言うならば間違いないと思いますが、どうやってその未来を知ったんですか?」
「ライトにもわかるように説明すると、天気予報みたいなものよ。今日までの情報の蓄積から導き出された経験則ね」
「つまり、過去にも似たようなことがあったんですか」
「その通りよ。ちなみに、ライトが月食が始まるまでに各地を瘴気を浄化して回っても結果は変わらないわ」
「・・・そうなんですね」
瘴気が影響して
「【
「そういえばそうでした。戦いになる前に潰すのがベストだったんですけどね」
ライトの【
結界内で使えば、基本的に瘴気に再び汚染されることはない。
しかし、瘴気が発生する結界の外で使うとなると、浄化された空気を瘴気が汚染しようと瘴気の濃度が大きい所から小さい所に流れる。
瘴気は人間の負の感情によって発生する量が増減し、人間が生きている限り瘴気の発生は止まらない。
それらを考慮すれば、ライトの考えは残念ながら実行しても意味がないのだ。
「私もそう思うわ。でも、瘴気は人類が存続する限り永久になくならないもの。悪いけど、ライト達には
「ないものねだりをするつもりはありません。これはわかるのなら知りたいのですが、どこに
「1体はダーインクラブとセイントジョーカーの中間地点、もう1体はドゥネイルスペードとアザゼルノブルスの中間地点よ。もしも3体目が出るならば、ドヴァリンダイヤとセイントジョーカーの中間地点でしょうね。こちらは月食が始まるまでに全国でアンデッドを狩り続ければ防げるはずよ」
「絶対防ぎます。それで、
その問いに対してヘルは頷く。
「ええ、関係してるわ。ここ数年、ライト達が呪信旅団の行動を妨害してきたでしょ? それで、去年の月食から今年のエフェン戦争を通じてノーフェイスが尋常じゃない負の感情を放出してるわ。それが影響してるのよ」
「引っ込んでなお迷惑な奴です。でも、ノーフェイスだけでそこまでのことができるっておかしくありません? まさか、僕の
「ノーフェイスはライトの天敵の
「・・・サラッと重要なこと言わないで下さいよ。ノーフェイスって
「訊かれなかったから言う機会がなかったのよ。それに、この話ができる程の時間も取れなかったし」
今日起きたことで一番驚いたと言わんばかりに叫ぶライトだが、齎された情報からして叫びたくなるのも当然だ。
転生時も前回会った時も、ライトが質問しなかったから教えなかったと言われればそれまでだが、
今まで知らなかったことはもう仕方ないと割り切って、ライトは気持ちを切り替えた。
過去のことをウジウジと言ったところで生産性はない。
それならば、気持ちを切り替えてヘルから1つでも多く有益な情報を手に入れるべきだろう。
ライトは深呼吸してからヘルに訊ねた。
「<呪術>とはどんなスキルですか?」
「使いこなせたならば、
「それでノーフェイスはいくつもの
「言葉の通りよ。ノーフェイスは過去の
「なるほど。使いこなせてるならば、出し惜しみせずに使いますよね」
「そういうことよ。とりあえず、ノーフェイスを倒して呪信旅団を潰すなら、月食を無事に乗り切ってヒルダが動けるようになってからにしなさい。貴方の前世では窮鼠猫を嚙むって言葉があったでしょ?」
「わかりました。そのようにします」
ライトが素直に頷くと、ヘルは優しく微笑んだ。
「素直で良い子ね。そんなライトには誕生日のお祝いにプレゼントよ」
ヘルはそう言うと、ライトに近寄って額にキスした。
その瞬間にライトの脳内にアナウンスが流れた。
《<鑑定>が<神眼>に上書きされました》
「ヘル様、スキルを強化していただきありがとうございます。この<神眼>とはなんでしょうか?」
「鑑定妨害を無視するだけでなく、鑑定結果もより詳細になるわ。それに加えて探す対象の位置がわかるし、嘘や悪、敵を見抜けるようにもなるわね」
「・・・凄まじい強化じゃないですか」
「貴方を評価してのことよ。強いアンデッドの討伐だけでなく、ダーインクラブを中心にニブルヘイムを良い方向に進めてるもの。前にも言ったけれど、私って労働に見合った対価はきちんと払うのよ」
「良い上司に巡り合えて嬉しいです」
前世はブラック企業で働いていた社畜だったため、ライトはヘルの厚意に喜んで感謝した。
「それと、ついでにこれもあげるわ」
今度はヘルがライトに陶器の小瓶を手渡した。
それを受け取った瞬間、ライトはワナワナと震えた。
「こ、これは、有田焼の醤油差しじゃないですか!」
「そう、醤油差しよ。しかもただの醤油さしじゃないわ。私が特別に調整した
「貴女が神か・・・」
「言われなくても私が神よ。というか、醬油差しで神扱いされるってのはどうなのかしら?」
「これで焼きおにぎりが作れます!」
「そ、そうね。でも、ちゃんと
「大丈夫です! 米と醤油が手に入ったんですからこれで勝てます!」
「一体何に勝つというのかしら・・・」
米が手に入ったことで、醤油も欲しいと願っていたライトのためにヘルは無限醤油差しを用意した。
ライトのテンションが<神眼>を授けた時よりも高くなり、それが原因でヘルは困惑している。
「あぁ、醤油かぁ。味噌も欲しいけど、こっちは自分で頑張ってみようかな。いや、とりあえず醤油があれば作れる料理が増えるんだ。楽しみだなぁ」
舞い上がってすっかり自分の世界に入ったライトに対し、ヘルは咳払いしてライトの意識を自分に向けさせた。
「あっ、申し訳ございませんでした。醤油が手に入ってテンションが上がってしまいました」
「それは見てたからよくわかるわ。ライト、そろそろお別れの時間だから最後に今後の流れを伝えるわね。月食で
「わかりました。最後まで油断せずに取り組みます」
「そうしてちょうだい。それじゃあまたね。次に会える時を楽しみにしてるわ」
その言葉を最後に、ライトの視界は完全に光に包まれた。
光が収まって目を開くと、ライトは右手の中に無限醤油差しを持っていたため、先程までの出来事が現実であることを理解した。
<
とりあえず、ライトは無事に奉納が終わったことを告げて教会ダーインクラブ支部を後にした。
祭りの終わりの挨拶もあるし、折角の祭りの途中でヘルから聞いた話をヒルダ達にすれば祭りを楽しむ心の余裕がなくなってしまうからだ。
その後、中央広場で挨拶を済ませると、収穫祭が終わってライト達は屋敷へと戻った。
ヘルから聞いた話の共有は明日することにして、ライトの長い15歳の誕生日は終わりを告げた。
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