第334話 とりあえずキープしときなよ

 ライト達はアザゼルノブルスの屋敷で結婚式の招待客同士で話をしていた。


 しかし、トールが人気過ぎてはしゃいでしまい、疲れて寝落ちしてしまったことを理由に客室に引き上げて来た。


「トールが大人気だったね」


「メア達までトールと遊びたがったからだよ。でも、楽しかったのか満足そうに寝てるわ」


「【疲労回復リフレッシュ】」


 寝ているトールの疲れを取るため、ライトは【疲労回復リフレッシュ】を使った。


「イルミ達は大丈夫かしら?」


「大丈夫でしょ。ヤバかったらすぐに戻って来るって。これだけ時間がかかってるってことはまだ戦って」


「ライトただいま!」


「ノックしようよ。つーか、トールが寝てるんだから静かにしてくれる?」


「・・・ごめん」


 噂をすれば影が差すということなのか、ヒルダがイルミの話をしてすぐにイルミが客室に来た。


 ライトはトールが寝ているので、イルミに対して静かに注意した。


 イルミもトールの寝顔を見てこれを起こしたら申し訳ないと思ったのか、スッと手を口に持って行ってから謝った。


「イルミ姉ちゃんが帰って来たってことは、アルバスも帰って来たんだよね?」


「おう。帰って来たぜ」


 イルミの入室から少し遅れてアルバスも客室の中に入って来た。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 イルミとアルバスが戦闘後にどれだけケアしたのかがわからなかったので、とりあえずライトが部屋ごと浄化した。


「ふぅ、さっぱりした。やっぱりライトは一家に1人欲しいね」


「僕は便利な魔法道具マジックアイテムじゃないっての。それで、今日は筋肉痛は平気なの?」


「大丈夫だよ~。今日のウォーキンはお姉ちゃんが空を駆けるまでもなかったから」


「ふ~ん」


「もうちょっと興味持とうよ。お姉ちゃん戦ったんだよ?」


「僕にとって大事なのは治療の必要があるかどうかだからね。無事だってわかってれば良いんだよ」


 寂しげに言うイルミに対し、ライトは治療すべきかどうかが知りたかったと述べた。


「じゃあ、無事だった。それでね、ちょっと面白いアンデッドだったんだ」


 (トールが寝てるから、ここで話されるのは困るな)


 このまま話を続ける展開になりそうなので、ライトはヒルダに少し出て来ると言って応接室に移動した。


 応接室に移動すると、トールがこの場にいないからイルミの声がやや大きめになった。


「お姉ちゃん達、面白いアンデッドと戦ったんだよ。ね、アルバス君?」


「はい。あんなのは初めて見ました」


 イルミに話を振られたアルバスは、優しく微笑みながら頷いた。


 どうしても自分に話しておきたいのだろうと悟り、ライトは話を聞くことにした。


「僕達以外に招待客がいるんだから手短にね。ウォーキンとかいうんだっけ?」


「そうだよ。ロッテンアーミーキノコなんだけど、普通のよりも倍は大きかったの」


「それと、表面に出て来るキノコが入れ替わることで、それぞれ打撃や斬撃、魔法系スキルを反射させるスキルを持ってたんだ」


「耐性とか無効のスキルなら知ってるけど、反射か。どうやって戦ったの?」


 話を聞いてみると、確かに気になるスキルを持っていたのでライトは訊ねた。


「お姉ちゃんとアルバス君が打撃と斬撃を交互に使ったり、お姉ちゃんが斬撃、アルバス君が打撃を使ったりしたら倒せたの。分裂したら弱くなったから、ノーダメージで倒せたよ」


「大して苦戦することはなかったぜ。まあ、<鑑定>があったらもっと楽できたなと思わなくもなかったけど」


「<鑑定>は先天的にしか会得できないから、ないものねだりしたってしょうがないよ。ところで、ウォーキンを倒したってことは呪武器カースウエポンがドロップしたんでしょ? ちゃんと確保したの? 呪信旅団に横取りされてない?」


「大丈夫。お姉ちゃん達が確保したから。アルバス君、ライトに見せてあげて」


「わかりました」


 2人のことだから、帰って来てすぐに自分を訪ねて来たのは治療か呪武器カースウエポンに<鑑定>を使うこと、あるいは両方が目的だとわかっていた。


 だから、ライトは後者もさっさと済ませようとあるなら出してもらうことにした。


 アルバスが浄化石の棺にしまって持って来た物はバックラーだった。


 ライトはすぐに<鑑定>を発動した。


 (パズルバックラー? こんな物まであるんだ)


 癖が強い呪武器カースウエポンだったため、ライトはこんなタイプもあるのかと感心した。


 パズルバックラーは赤青黄色の3色が渦を描くようなデザインだった。


 その効果は、全ての攻撃を斬撃と打撃、魔法の3つに分類してバックラーが変色した先の色で反射できる攻撃の種類が変わるというものだった。


 赤色が魔法、青色が打撃、黄色が斬撃を反射するのだが戦闘が終わる度にリセットされる。


 しかし、デメリットとして間違った色で防ごうとするとダメージが2倍になるし、パズルバックラーが耐え得るダメージ量をオーバーした攻撃は反射できずに壊れる等の制限もある。


 デメリットも常に生じる訳ではないから、使い方さえ間違わなければ十分に使える呪武器カースウエポンと言えよう。


 ライトがパズルバックラーについて説明すると、アルバスとイルミはそれを凝視した。


「派手なだけじゃないんだね」


「使い方によっちゃすごい便利じゃん。ただ、残念なことに俺もイルミさんも盾は使わないんだよなぁ」


「とりあえずキープしときなよ」


「そうだな。呪武器カースウエポンは交渉道具にもなるからそうするよ」


 使い道に悩むアルバスに対し、ライトはとりあえず持っておけとアドバイスした。


 アルバスも呪武器カースウエポンの有用性は理解しているから、ライトのアドバイスを受け入れて頷いた。


 これでライトへの用事が終わったので、アルバスはキンバリーにパズルバックラーを預けてからパーティーを再開すべく着替えに行った。


 イルミも同様である。


 ライトも一旦客室に戻り、パズルバックラーについてヒルダに説明した後にアルバス達のいる部屋へと移動した。


 トールが寝ているからとはいえ、パーティーの主役が帰って来たのにダーイン公爵家の者が1人もパーティーに参加しないのは躊躇われるからだ。


 ライトがパーティー会場となる部屋に戻ると、まだイルミの着替えが済んでいなかったようでパーティーは再開されていなかった。


 だが、アルバスは既にその場にいたので、クラスメイトやら友人に詰め寄られていた。


 どうやら、イルミにプロポーズするまでの道のりについて根掘り葉掘り質問されているらしい。


 そんな中、ジェシカがライトに気づいて近づいて来た。


「ライト君、愚弟がまたお世話になりました」


「いえいえ。イルミ姉ちゃんも迷惑をかけてるでしょうから気にしないで下さい」


「それもそうですね。ところで、アザゼルノブルスの外には呪信旅団はいなかったんですか? 私が直接愚弟に確認しようとしたのですが、今みたいにお友達に囲まれてしまって場の空気を壊す訳にもいきませんでしたから聞けずじまいだったんです」


「呪信旅団はいなかったようです。倒したのはロッテンアーミーキノコのウォーキンだと聞いてます。ノーダメージで倒せたようですから、アザゼルノブルスの初めての防衛戦としては上場の結果だと思います」


「なるほど。では、アンジェラさんが倒した呪信旅団の死霊魔術師ネクロマンサーがウォーキンを誘導しただけで、他に敵戦力はいないんですね?」


「そうみたいです。もう1回ぐらい仕掛けてくるかと思いましたが、それは考え過ぎだったようです」


 ライトが苦笑すると、ジェシカは首を横に振った。


「そんなことありません。呪信旅団を相手にするならば、考えの甘さが命取りになります。ライト君の考え方は間違ってませんよ。正直、私はもう1パーティー侵入してて、ライト君が【聖半球ホーリードーム】を解除してから何か仕掛けて来るのではないかと思ってました」


「考えることは同じようですね。僕も周囲に注意してましたが、どうにもそんな気配がしませんから拍子抜けでした」


 ライトとジェシカはアルバス達が不在の間、呪信旅団が仕掛けてくると思っていたのだが、その予想が外れて肩透かしを喰らったような気分だった。


 そこにイルミが笑顔で帰って来た。


「みんな、私が帰って来たよ!」


 イルミがドレスに着替えて戻って来ると、難しい話をする雰囲気ではなくなってしまった。


 その後、パーティーはイルミの明るさで笑顔の絶えないものとなり、ハプニングはあったものの結果として無事に終わった。


 パーティーが終わった頃には日が暮れかけていたため、ライト達が帰るのは翌日となったが、それは安全を優先するならば仕方のないことだろう。

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