第333話 違うよアルバス君、これは私達の戦いだよ

 パーティーは一時中断となり、領民は解散して自宅に戻るようにとアルバスが指示を出した。


 領民が屋敷の前からいなくなると、ライトは【聖半球ホーリードーム】を解除してアンジェラと合流した。


「アンジェラ、よくやった」


「ありがとうございます。奥様、信号棒シグナルスティックをお返しいたします。どうぞ」


「ありがとう」


 今回の作戦はアンジェラが別動隊となっていたため、アンジェラにヒルダが使う信号棒シグナルスティックを貸し出していた。


 流石のアンジェラも、人命がかかっている作戦中に変なことはしなかったから、ライトも余計なストレスを感じずに済んだ。


 そこにアルバスがやって来た。


「ライト、すまん。今回はマジで助かったぜ。アンジェラさん、ありがとうございました」


「とんでもないです。私は若様の指示に従っただけですので」


「それにしても、ライトの予想通りやっぱり仕掛けてきやがったな」


「向こうからすれば、僕の【聖半球ホーリードーム】とアンジェラの配置は予想外だったろうけどね。領民が無事で良かったよ」


「それな。ライトの【聖半球ホーリードーム】を壊して屋敷に攻撃なんて無理だろうから、人質を取ったのも痺れを切らしたんだろうぜ」


 作戦が上手くいって良かったと言い合う2人の所に、険しい表情のキンバリーがやって来た。


「旦那様、ご歓談中のところ申し訳ございません。少々面倒なことになりました」


「どうしたキンバリー?」


「アザゼルノブルスの北東にアンデッドが現れました。1週間程前から目撃証言のあるウォーキンだそうです。おそらく、先程アンジェラさんが始末した賊の中にいた死霊魔術師ネクロマンサーがおり、その者が誘導したと考えて良いでしょう」


「アルバス、それってネームドアンデッド?」


 自分の知らない名前が出て来たから、ライトはアルバスに訊ねた。


 アルバスは首を縦に振った。


「ああ。でも、こいつは俺の戦いだ。ライト達に助けられっぱなしじゃいられねえからな」


「違うよアルバス君、これは私達の戦いだよ」


「イルミさん?」


 いつの間にか、イルミが戦える服装に着替えて戻って来ていた。


「ライト、ここから先はお姉ちゃん達がやるよ。悪いけど、招待客の相手は任せた」


「・・・カッコ良さげに言ってるけど、この場は丸投げするって言ってるのと同義だからね?」


「あれ!? ここはお姉ちゃん達を戦地に送り出してもらえる展開じゃないの!?」


 イルミがなんでだと驚くが、ライトは先程からジト目を向けたままである。


「別に送り出すのは構わないけど、今の気持ちを正直に言ってみ」


「呪信旅団が結婚式を邪魔してむしゃくしゃしてる。だから、体を動かしに行きたい」


「よろしい。行っといで」


「うん! ほら、アルバス君、早く着替えて行くよ!」


「はい!」


 イルミは結婚してもイルミだった。


 その後、ライト達招待客はリビングで主役不在のままパーティーを再開した。


 元々が知り合いばかりのメンバーなので、主役がいなくても話のネタはいくらでもある。


 それに、トールやクローバーという人気者がいることで暇を持て余すようなことはなかった。


 その頃、戦闘服に着替えたアルバスはキンバリーに御者を任せ、イルミと共にアザゼルノブルスの北東に向かっていた。


 アルバス達が討伐に向かったウォーキンだが、これはロッテンアーミーキノコというゾンビ系アンデッドだ。


 見た目は根元が二股に分かれた人間大の灰色のキノコである。


 しかし、よく見ると手のひらサイズのキノコが密集して人間大サイズのキノコを模っている。


 目撃した守護者ガーディアン達が持ち帰った情報によると、ウォーキンは通常サイズの2倍は大きいらしい。


 ロッテンアーミーキノコの特徴は分裂と再生だが、平均の倍の大きさのそれの相手はなかなかに面倒だろう。


「旦那様、奥様、見えてきました。ウォーキンです」


 御者台からキンバリーの声が聞こえ、アルバスとイルミは窓からその姿を確かめた。


「デカいですね」


「おっきいね~」


 事前に聞いていた通りの大きさだったので、アルバスもイルミも落ち着いていた。


 2人が蜥蜴車リザードカーから降りると、ウォーキンは普通のロッテンアーミーキノコとは違う特徴を見せた。


「えぇっ!?」


「赤くなった!?」


 灰色だった体だが、ぶるぶるっと震えたと思った瞬間、内部に潜り込んでいたキノコが表に現れてウォーキンの体を赤く染めた。


「普通のロッテンアーミーキノコにないスキルですかね?」


「そうだと思う。ちょっとここから攻撃してみるね。【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


 イルミの拳から光の散弾が放たれ、ウォーキンに命中する。


 すると、ウォーキンの体が再び震えて赤色のキノコが内部に潜り、青色のキノコが表面に出て来た。


「アルバス君、何が起こったかわかる?」


「まだ情報が足りなくて何とも言えません。イルミさん、もう1回お願いできますか?」


「了解! 【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


 再度イルミの拳から光の散弾が放たれ、ウォーキンに命中する。


 しかし、今度は散弾がイルミに跳ね返って来た。


 後ろに蜥蜴車リザードカーがあるため、イルミ達は避けられない。


「【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


 イルミは同じ技を放ち、跳ね返って来たそれらを相殺した。


「赤色の時は効いたけど、青色の時は反射しましたね。ということは、違う系統の技をぶつければ反射しないかもしれません。次は俺がやって良いですか?」


「任せた!」


「ありがとうございます。【輝旋風シャイニングワールウインド】」


 ウォーキン自ら攻撃をしてこないことから、アルバスは発動までに時間のかかる技を試してみた。


 その場で回転しながら輝く斬撃を放つと、ウォーキンの体はそれを跳ね返すことなく切断された。


 いや、正確にはウォーキンは群にして個という性質なので、切り離されても再び合体する。


 合体した時には青色のキノコが内部に潜り込み、その代わりに黄色いキノコが表面に出て来た。


「なるほど。大体わかりました」


「アルバス君説明お願い」


「はい。赤色、青色、黄色のキノコはそれぞれなんらかの攻撃を跳ね返す個体なんです。青色は打撃を跳ね返し、黄色は斬撃を跳ね返すといった感じでしょうね」


「赤色は?」


「恐らくですが、魔法系スキルを弾くものだとも思います。残念ながら、俺もイルミさんも魔法系スキルは使えませんから、実証はできませんけどね」


「じゃあ、アルバス君が斬撃担当、私が打撃担当で攻撃を繰り返せば、ウォーキンに攻撃を跳ね返されずにやりたい放題かな?」


「ロッテンアーミーキノコの通常個体が<呪爆発カースエクスプロージョン>を使えますから、懐に潜り込んだ時の反撃にさえ対応できればやりたい放題できると思います」


「わかった! それじゃあ、サンドバッグ作戦開始!」


「はい!」


 アルバスとイルミは左右に分かれて前進した。


 すると、ウォーキンは直近で攻撃したアルバスの方を向いて紫色の粉を噴出した。


「危なっ!?」


 アルバスは大きく左に飛び、粉に触れないように避けた。


「私を忘れてもらっちゃ困るよ! 【聖壊ホーリークラッシュ】」


 イルミの攻撃をまともに喰らったことで、ウォーキンが勢い良く吹き飛ばされる。


 そして、吹き飛ばされた先で赤、青、黄、灰の4種類のキノコ同士がくっつき、黄色集団がアルバスに向かい、青い集団がイルミに向かって突進した。


「一体いつから斬撃しか放てないと錯覚してた? 【嵐連脚ストームキック】」


 走って来たことによる運動エネルギーを上乗せしたまま、アルバスは黄色集団目掛けておびただしい数の蹴りをお見舞いする。


 その嵐のような激しい蹴りで、黄色集団の結びつきが緩んでその場に崩れた。


「【隕石蹴メテオキック】」


 アルバスは追撃のつもりで、大きく跳躍して落下エネルギーも蹴りの威力に加算したドロップキックを放った。


 斬撃でなければ跳ね返せない黄色集団は、その威力の前にHPを全損したらしく消滅した。


 その一方、イルミも打撃以外の攻撃で青色集団を迎え撃っていた。


「【輝手刀シャイニングハンドナイフ】【輝手刀シャイニングハンドナイフ】」


 素早くクロスさせるように腕を振りぬくと、十字の斬撃が青色集団に命中してあっさりと消滅させた。


 残るは赤色集団と灰色集団だ。


 それらは分離しているとステータスも分散してしまうので、アルバス達に攻撃される前に慌てて合体した。


 しかし、そんなことは関係ない。


 的が大きくなれば、2人は心置きなく大技を放てるのだから。


「【聖裁刃雨ホーリージャッジメント】」


 アルバスは手元でフリングホルニをグルグルと縦回転させ、斬撃を一旦空に打ち上げる。


 重力に負ける程度の勢いで放たれたいくつもの斬撃は、上向きの力が0になると地面に引っ張られるようにしてウォーキンに降り注いだ。


 アルバスの攻撃を跳ね返すことができず、ウォーキンは表面を形成するキノコがズタズタになった。


「喰らえ私の鉄拳! 【聖拳ホーリーフィスト】」


 まともに動けないウォーキンは、イルミが言った通りただのサンドバッグである。


 イルミの光輝く拳がクリーンヒットし、後方に吹き飛ばされると共に体が光の粒子となって消滅した。


 アルバスとイルミの初めての共同作業アザゼルノブルス防衛戦はこうして無事に終わった。

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