第307話 少しは学習しなよ

 10月4週目の火曜日の午後、カタリナがライトを訪ねてやって来たとアンジェラがライトに知らせた。


 急ぎの用件ということらしく、ライトもすぐに応接室に向かった。


 応接室にライトが行くと、カタリナがすぐに本題に入った。


「ライト君、朝出かけた時に変わったウエポンゴーストを見つけたの」


「変わったってどういうこと? ウエポンゴーストって武器ならありとあらゆる形だよね?」


「禍々しかったんだ。例えるならそう、瘴気塗れの呪武器カースウエポンみたいな感じ」


 (どこかでそんな記述を目にした記憶が・・・。ルー婆のレポートか!)


 カタリナの目撃証言を聞き、つい最近同じような内容について読んだ記憶があったライトはルクスリアレポートを<道具箱アイテムボックス>から取り出した。


 該当のページは、ライトが書き写し途中だった最後のページだった。


 そのページには、ウエポンゴーストの種類に関する考察が記されており、まだ見ぬ呪武器カースウエポンのウエポンゴーストが現れた時に起こりうる可能性も書かれていた。


 呪武器カースウエポンのウエポンゴーストがいれば、周囲のウエポンゴーストはそれに従う可能性が高い。


 ウエポンゴーストは宙に浮くのが基本だから、それらが統率されて人間を襲えば一般人なら逃げ一択であり、並みの守護者ガーディアンでも苦戦を強いられるだろうとのことだった。


「どこで見かけたか教えて」


「ライト君達と先週行った廃墟だよ」


「ちなみに、使役しようとは思わなかったの?」


「<鑑定>じゃないから根拠はないけど、あれは使役できないと思ったんだ。未知のアンデッドなら、教会の守護者ガーディアンよりもライト君に報告するのが先だと思って急いで来たよ」


「ありがとう。じゃあ、その場所に案内してもらっても良い?」


「任せて」


 ライトはヒルダにも声をかけて、準備を素早く済ませてからライトとヒルダ、アンジェラ、カタリナの4人で屋敷を出た。


 アンジェラが御者を担い、ライト達は廃墟へと向かった。


 目的地周辺に着くと、そこは先週とは全く様子が変わっていた。


「旦那様、ウエポンゴーストで空が埋め尽くされております」


 御者台からアンジェラの報告を聞くと、車内にいたライト達は窓から空を見上げた。


「めっちゃいるじゃん」


「すごい数ね・・・」


「私が朝来た時はここまでじゃなかったのに・・・」


 カタリナにとってもビフォーアフターの差が激しかったらしく、これを現実として受け止めるのに少しだけ時間を要した。


 カタリナが呆けている間、ライトはぼーっとしてはいられないと気を引き締めて行動を開始した。


 アンジェラに蜥蜴車リザードカーを停めさせると、すぐに降車して技名を唱えた。


「【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 ライトが【範囲昇天エリアターンアンデッド】を使ったことで、空からウエポンゴーストの大群が消え去った。


 だが、すぐにどこからともなくウエポンゴーストの大群が再び現れて空を埋め尽くした。


「これは異常だ」


「結界車があるから近寄って来ないみたいだけど、消しても増えるんじゃ大本を断たなきゃ駄目そうだね」


くだんのウエポンゴーストを探すしかありません」


「あ、あれだけ数がいると、私が見たウエポンゴーストを見つけられないよぉ」


 カタリナが若干弱気になっているが、そんなことはお構いなしにライトは攻撃を再開する。


「【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 空からウエポンゴーストが消え、またしてもわらわらとそれらが空に補充された。


「ライト、ウエポンゴーストの大群はさっきと同じ範囲内に現れてると思う」


「同感です。おそらく、親玉はあれらよりもさらに上空にいると考えられます」


「空か。カタリナ、悪いんだけどここで留守番頼める?」


「わ、わかった」


「【【【・・・【【防御壁プロテクション】】・・・】】】」


 カタリナに留守番を任せると、ライトが地面と水平な向きで光の壁を創り出し、ライトとヒルダ、アンジェラはそれらをジャンプして空へと跳んでいった。


 それに伴い、親玉に近づけまいと高度を上げるライト達にウエポンゴーストが一斉に押し寄せる。


「邪魔! 【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 雑魚モブの大群は魔石になって消え、ライト達の視界が開けた。


「いた! あそこ!」


「【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】」


 ヒルダが居場所を突き止めると同時に、アンジェラが攻撃を仕掛けた。


 グングニルが禍々しい雰囲気を放つそれに命中すると、金属音が周囲に鳴り響く。


 (攻撃が当たったってことは、あそこにいるのは幻じゃないね)


 グングニルとぶつかったそれは瘴気塗れの巨大な剣だった。


 アンジェラの手にグングニルが戻ってすぐに、ライトは<鑑定>を発動して親玉の正体を確認し始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:カースウエポンゴースト

年齢:なし 性別:なし Lv:65

-----------------------------------------

HP:14,800/18,000

MP:17,000/24,000

STR:4,600

VIT:3,800

DEX:3,300

AGI:2,700

INT:0

LUK:1,900

-----------------------------------------

称号:特殊個体ユニーク

二つ名:なし

職業:なし

スキル:<配下召喚><配下統率><飛行><分身>

    <呪刃カースエッジ><呪突撃カースブリッツ

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (嫌な予感はしてたけど、やっぱり特殊個体ユニークか・・・)


 ルクスリアレポートの内容から、少なくともネームドアンデッド以上だろうと予想していたが、特殊個体ユニークだと称号欄に記載されてライトの顔が引き攣った。


 カースウエポンゴーストはダンプとは異なり、INTが0の物理特化のアンデッドだ.


 それでも、MPの保有量が多くて大規模な<配下召喚>を連発したにもかかわらず、まだMPが7割も残っている。


 アンジェラの【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】により、多少は削れたにしてもダンプのHPの最大値よりもまだHPが残っている。


 しかも、AGIが0ではないということは、カースウエポンゴーストが動き回れるということになる。


 もっとも、<飛行>と<呪突撃カースブリッツ>がある時点で動けるのはお察しだが。


 いや、注意するべきはそれだけではあるまい。


 カースウエポンゴーストには<分身>がある。


 つまり、複数体になって敵に攻撃ができるのだ。


 これは厄介と言えよう。


 分身体は本体の劣化コピーなので、並の守護者ガーディアンがカースウエポンゴーストに遭遇して<分身>を使われたらハリセンボンも真っ青なぐらい串刺し待ったなしである。


「カースウエポンゴースト、特殊個体ユニークだね。配下ウエポンゴーストの召喚以外は斬撃を飛ばすか突撃が主体。分身もするから気を付けて」


「了解」


「かしこまりました」


「強化する。ヒルダもアンジェラも好きに動いて。【【信仰剣フェイスソード】】【【誓約盾プレッジシールド】】【【【・・・【【防御壁プロテクション】】・・・】】】」


 ヒルダとアンジェラの強化を行うと、カースウエポンゴーストと存分に戦えるようにライトは光の壁をたくさん創り出して足場を用意した。


 すると、ヒルダもアンジェラも足場を使ってカースウエポンゴーストに接近した。


 しかし、カースウエポンゴーストは2人にそう簡単には近づかせまいと<呪刃カースエッジ>を放つ。


「【聖十字刃ホーリークロスエッジ】」


 ヒルダが光り輝く十字の斬撃を放ち、カースウエポンゴーストの放った瘴気を纏った斬撃を打ち破った。


 威力で負けるとは思っていなかったようで、カースウエポンゴーストは十字の斬撃を避けるべく移動した。


 だが、そこにはアンジェラが既に回り込んでいた。


「【参式:幻怯斬げんきょうざん】」


 殺気を強めに放ち、どこを攻撃するか誤認させたアンジェラがカースウエポンゴーストの腹をペインロザリオで斬りつける。


 【信仰剣フェイスソード】で強化されているアンジェラの攻撃を受け、カースウエポンゴーストはその場に留まることができずに吹き飛んだ。


 アンジェラの行動を予測していたヒルダは、カースウエポンゴーストが飛ばされた方角に回り込んでいた。


「【聖六連星ホーリープレアデス】」


 聖気を纏わせたグラムを構え、ヒルダが正面からカースウエポンゴーストに6連続の突きを放った。


 全ての突きが命中することで、カースウエポンゴーストのAGIが攻撃の命中した回数分だけ一時的に20%カットされて大幅に減少する。


 体が重くなったことに気づくと、カースウエポンゴーストは自ら戦うことを中断して<配下召喚>を発動した。


 肉壁として配下ウエポンゴーストを呼び出したのだ。


 残念ながら、その作戦はライトを相手にしては悪手である。


「少しは学習しなよ。【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 ライトに対して<配下召喚>は無意味だ。


 いかに素早く発動しようと、すぐに昇天させられてしまうということをカースウエポンゴーストは忘れていたようだ。


 追い詰められたカースウエポンゴーストは、配下ウエポンゴーストでは足りないと判断して<分身>を発動した。


 それにより、10体の分身がカースウエポンゴーストの前に現れた。


 第2ラウンドの始まりである。

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