第304話 どう見てもヴェポ○ッブです。ありがとうございます
ライト達は海ぶどうを使った薬を作るため、庭にやって来た。
厨房で薬を作る訳には行かないので、他の材料を集めるついでに庭に出たのである。
庭には作業中のロゼッタがおり、ライトは彼女に話しかけた。
「ロゼッタ、ちょっと良い?」
「良いよ~。どうしたの~?」
「クーリッシュミントとスーハーナを貰える?」
「大丈夫~。どれぐらい必要なの~?」
「それぞれ5本ずつあると助かるな」
「任せて~」
ロゼッタはダーイン公爵家において、
しかし、<森聖術>を持つロゼッタにとって
ロゼッタに薬草園を作って良いと許可する代わりに、ライトは薬を作る時に必要な薬草を分けてもらえる取り決めにした。
そのおかげで、今もロゼッタが薬を作るのに必要な薬草を分けてもらえた。
「どうぞ~」
「ありがとう、ロゼッタ」
「ライ君何作るの~?」
「興味があるならこれから一緒に作る?」
「今日のお世話も片付いたから~。一緒にやる~」
ロゼッタも合流し、ライト達は庭に設置されたテーブルへと移動した。
テーブルの上には、海ぶどうとクーリッシュミント、スーハーナが並べられた。
それに加え、薬を作るのに必要な機材もライトの<
「ライト、これからどんな薬を作るの?」
「ユグドランδ。胸や喉、背中に塗る薬だよ。鼻づまりやくしゃみの症状を緩和するんだ」
「他のユグドランシリーズと一緒に使っても平気なの?」
「大丈夫だよ。ちなみに、生後6ヶ月の赤ちゃんから塗っても平気だから、トールにも使える。飲み薬だと、小さい子供には使えないからこれは作っておきたかったんだ」
「エマが海ぶどうを持って来たのは偶然だけど、都合が良かったんだね」
「そういうこと」
ヒルダの問いにライトが答えると、今度はエマが手を挙げた。
「はい」
「なんでしょうか?」
「そのユグドランδを作るには、海ぶどうが絶対必要なの?」
「もう商売のことを考えてるんですか?」
「そりゃね。正直、オリエンスノブルスでは食べ飽きてる人もいるくらいだから、売れる価値があるならその方が良いなって。それでどうなの?」
エマの関心は海ぶどうに需要が生まれるかどうかにある。
もしも、海ぶどうでしかユグドランδが作れないのならば、オリエンスノブルスでは大して価値がなくなっても重要な貿易材料になるからだ。
そんなエマに対する回答として、ライトは首を横に振った。
「残念ながら、海ぶどうの代わりになる植物はあります」
「そ、そっかぁ。全てが都合良くは進まないのね・・・」
「エマさん、そんなに落ち込まないで下さい。代替品と言っても、1つしかありませんから」
「その1つって何?」
「マリモです」
「マリモ!? あの湖とかで生えてるあれ!?」
「その通りです」
海ぶどうの代わりがマリモであると聞けば、エマではなくても驚くだろう。
現に、ヒルダもロゼッタも目を丸くしている。
「ライト、海ぶどうとマリモを使う違いは?」
「海ぶどうを使うと仄かに海の匂いがして、マリモを使うとそれがしない代わりに潤い成分が増す。でも、鼻づまりやくしゃみの症状を緩和するっていうメインの効果に違いはないよ」
「なんでそんな違いが出るの?」
「クーリッシュミントとスーハーナの化学反応のせいかな」
「化学反応?」
「ちゃんと説明すると大変だから、他の材料と一緒に薬を作るとそうなると思ってね」
「わかったわ」
これからその説明を訊けば、ユグドランδを作るまでに時間がかかってしまうと察し、ヒルダは自分の好奇心を今は抑えた。
「じゃあ、ユグドランδ作りを始めるよ。ヒルダとロゼッタは、クーリッシュミントとスーハーナを細かく刻んでから、擂り鉢で擂り潰して」
「任せて」
「は~い」
「僕とエマさんは海ぶどうを一口大に千切りましょう」
「了解」
ライトの指示通りに3人が動き出し、ライトも自分の作業に取り掛かった。
海ぶどうを一口大に千切り終えると、ライトは少量ずつまな板の上に置いた。
「ライト君、次はどうするの?」
「まな板のうえにおいた量の海ぶどうを包丁の腹で潰します。一気に全部やると潰し加減にムラができてしまいますので、面倒かもしれませんが少しずつやりましょう」
「わかったわ」
ライトとエマが包丁の腹で海ぶどうを潰していくと、プチプチという音がし始めた。
「あっ、ちょっと楽しい」
「面白そう」
「楽しそ~」
エマが楽し気に言うものだから、ヒルダとロゼッタはライトとエアの作業に興味を持った。
時間との勝負という作業でもないので、ライトは自分の手を止めてヒルダとロゼッタに声をかけた。
「やってみる?」
「「うん!」」
とても良い返事だった。
ライトはこっちに来てと2人を招き、自分のやっていた作業を体験させてあげた。
ヒルダから包丁を握り、一口大の海ぶどうをプチプチと潰した。
「気づいたらこの作業に没頭しそう」
(それは
前世の記憶から、ライトは最も近い現象を思い浮かべた。
ロゼッタもヒルダと交代してプチプチし始めると、いつもよりも更にロゼッタの表情が緩くなった。
「楽し~」
ヒルダとロゼッタがそれぞれ体験し終えると、ライト達はそれぞれの作業に戻り、しばらくしてから完了させた。
「次はこれらを混ぜるよ」
大き目のボウルに擂り潰したクーリッシュミントとスーハーナ、押し潰した海ぶどうを投入すると、ライトが木べらを使ってそれらを掻き混ぜ始める。
その時、ヒルダはボウルを押さえてあげることで、夫婦の共同作業を演出するのを忘れない。
ここがポイントである。
「仲良しさんだね~」
「しれっと甘い展開に突入するのよね・・・」
「あら、エマだってアズライト君といずれはこんな感じになるんじゃない?」
ヒルダは言われてばっかりではないようで、エマに探りを入れた。
「ん~、どうなんだろ? 別にアズライト君とは、ヒルダとライト君みたいに恋愛結婚する訳じゃないし」
「でも、アズライト君はいざって時にエマを守れるように、ライトに<杖術>の会得できるまで必死に訓練してたよ」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ」
アズライトが自分のために不慣れな接近戦も鍛えていると知り、エマはまんざらでもない様子だった。
エマとアズライトは知らない仲ではないので、政略結婚をするにしても順応しやすい部類だろう。
アズライトがオリエンス辺境伯家に婿入りすることに対し、思うところがあるのではないかとエマは考えていたが、アズライトが自分のために強くなろうと努力していると聞いて不意に胸が熱くなったらしい。
「よし。ロゼッタ、そこのトーテムポットから少しずつ水をここに注いで」
「は~い」
ヒルダとエマが雑談をしている中、しっかりと作業を進めていたライトはボウルの中の様子をチェックして次の手順に進んだ。
ロゼッタがライトの指示通りに少しずつ水を加え、ライトが木べらで掻き混ぜていくと、ボウルの中の色が薄れ始めて粘り気が出て来た。
更に水を加えながら混ぜていくと、乳白色のクリームになった。
その時には、4人共鼻がスーッとする感覚を味わった。
「何これ? スーッとするわ」
「私も!」
「ほんのり海っぽいかも~」
鼻がスーッとすれば、ルクスリアレポートによると完成だったので、ライトはボウルの中身に<鑑定>を発動した。
(どう見てもヴェポ○ッブです。ありがとうございます)
作り方はルクスリアレポートのおかげで知っていても、実物は完成して初めて知る訳なので、ライトは目の前にある乳白色の塗り薬とその効能を見てそのように思った。
酸化させたくなかったので、ライトはボウルの中身を素早く4つの瓶に詰めて蓋をした。
ユグドランδ作りに参加した4人で均等に分けても、1人当たりの取り分は片手にギリギリ収まるぐらいの大きさの瓶である。
「完成。ユグドランδだよ」
「ライ君~、私も貰って良いの~?」
「勿論だよ。ロゼッタには材料を提供してもらったし、必要な時に使って」
「ありがと~」
ロゼッタはライトに新しい薬を貰って喜んだ。
自分の育てた薬草が、自分を助けてくれる薬になったと思うと喜ばないはずがない。
「私もいざって時に使わせてもらうよ。もしかしたら、オリエンスノブルスに帰った時に誰かに使う機会があるかもしれないもの。そうなったら、ビジネスチャンスよね」
「あまりガツガツせず、程々にして下さいね。今日は4人分で済みましたが、大量に必要になったら作るのが大変ですから」
「わかってるって。ロゼッタちゃんが育ててたクーリッシュミントとスーハーナって、地味に栽培が難しいって聞いたよ。ロゼッタちゃんみたいな優秀な庭師がいて羨ましいなぁ」
「ドヤァ~」
ロゼッタのドヤ顔がいつもとほとんど変わらないのほほんとしたものだったので、ライト達はそれがおかしくて笑った。
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