第265話 質問を質問で返すな!

 カーミラ討伐レイドがカーミラを逃した日の夕方、ダーイン公爵家に伝令がやって来た。


 その伝令曰く、ダーインクラブの東門からギリギリ目視で見える距離の空に、ポツンと黒い点が浮かんでいるとのことだった。


 最初はイルミがスカイウォーカーの効果ではないかと考えたが、それにしては滞空時間が長く動くこともないため東門からこうして報告が来た訳だ。


「ライト、行っちゃうの?」


「ヒルダや領民を守るためだよ。大丈夫。すぐに戻って来るから」


「わかった。いってらっしゃい」


「いってきます」


 行かないでずっと傍にいてほしいという気持ちはあったが、ライトが何を守ろうとしているのかわかっているため、ヒルダはさっと抱き着いてキスをした。


「気を付けて」


「うん。夕食までには帰って来るから」


 それだけ言うと、ライトは玄関にアンジェラが準備した蜥蜴車リザードカーに乗り込んだ。


 心なしかレックスが凛々しく見えたが、これから向かうのが戦場なのだからそうなのだろう。


 アンジェラが蜥蜴車リザードカーを飛ばし、屋敷から20分で東門に着いた。


 東門の見張りに話を聞くと、東の空に浮かぶ黒い点は動かずに同じ場所でじっとしていた。


 その場所は、ダーインクラブを守る結界やドゥネイルスペードに続く街道の結界から効力がギリギリ届かない場所だった。


 ただし、最初に屋敷に来た伝令が持って来た時とは異なり、黒い点を中心に赤みがかかった瘴気らしきものが舞っていた。


 (あの変わった瘴気がEウイルスなのか・・・)


 <鑑定>で確認したところ、赤みがかった瘴気はEウイルスだった。


 ライトは<生命樹セフィロト>、アンジェラは<聖体>のおかげで状態異常は効かず、病気にもならない。


 それゆえ、黒い点に近づけるギリギリまで街道を進んでからは、蜥蜴車リザードカーから降りて進むことにした。


 進むと言っても、空中に足場を作って移動することなのだがそれは置いておこう。


「【【【・・・【【防御壁プロテクション】】・・・】】】」


 空中に足場を用意すると、ライトとアンジェラはそれを使って黒い点と距離を詰めた。


 そして、有害物質の排除と逃走防止に移った。


「【範囲浄化エリアクリーン】【聖半球ホーリードーム】」


 ダーインクラブの東の空にまったEウイルスが浄化され、清浄な空気に変わった。


 また、ヴァンパイアを逃がさないように光のドームが出現し、ライトとアンジェラ、ヴァンパイアを閉じ込めた。


 ヴァンパイアは閉じ込められる前に逃げ出そうとしたが、ライトに先手を取られて閉じ込められた。


 ライトからは逃げられないのだ。


 光のドームに向かって攻撃してもビクともしない訳だが、閉じ込められたという不快感からヴァンパイアは光のドームに攻撃するのを止めなかった。


 肌が病的までに青白く、尖った犬歯と背中から生えた黒い翼が人間ではないことを主張していた。


 それらがなければ、黒いドレスをきた美人と言えたのだろうが、今はドームに必死に攻撃しており優雅さの欠片もなかった。


 その隙に、ライトはヴァンパイアに<鑑定>を発動した。



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名前:カーミラ 種族:ヴァンパイア

年齢:なし 性別:雌 Lv:65

-----------------------------------------

HP:15,000/15,000

MP:14,600/20,000

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:4,000

AGI:4,000

INT:4,000

LUK:1,000

-----------------------------------------

称号:災厄

二つ名:なし

職業:なし

スキル:<飛行><吸血><呪香カースフレグランス

    <呪火カースファイア><呪氷カースアイス><呪雷カースサンダー

    <再生><配下召喚><配下統率>

装備:ダークドレス

備考:なし

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 (バリバリの後衛か。【聖半球ホーリードーム】で行動範囲を狭めたのは正解だったね)


 <鑑定>で見た結果から、カーミラがEウイルスの元凶であることは明白だ。


 ”災厄”の称号は、複数個所で一定以上の生物を殺すと生じる。


 この時期にそんな物騒な称号が出たということは、カーミラの<呪香カースフレグランス>がEウイルスの正体だと裏付けている。


 カーミラは光のドームへの攻撃が無駄だとわかると、ライトに忌々しいと言わんばかりの目を向けた。


「この不快感は汝が原因か?」


「流暢に喋るじゃないか、カーミラ」


「答えよ。この不快感は汝が原因か?」


「Eウイルスはお前が原因だな?」


「質問を質問で返すな!」


「だったらわかり切ったことを訊くな」


「ふざけた真似を! 僕共よ、来なさい!」


 ライトの言い分にキレたカーミラは、<配下召喚>でロッテンバットを大量に召喚した。


 だが、ちょっと待ってほしい。


 雑魚モブを大量に召喚したところで、ライトには全く関係ない。


「【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 召喚すれば召喚するだけ、カーミラのMPが無駄になるだけだった。


 召喚されたロッテンバットの大群は、あっという間に魔石へと変わった。


「おのれ! 燃え尽き」


「私を通さず旦那様に喋るとは良い身分ですね。【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】」


「ギャァァァァァッ!?」


 アンジェラがグングニルを投げるモーションを終えた時には、既にグングニルがカーミラの腹部に刺さっていた。


 何が起きたかわからず、カーミラは<呪火カースファイア>が不発になるぐらい驚いて叫んだ。


 カーミラの腹部に刺さっていたグングニルは、その機能によりアンジェラの手元に戻って来た。


 【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】とは、<ヴィゾフニル流>の技扱いになったただの投擲である。


 しかし、ステータスの高いアンジェラがグングニルを使っている時点で、スキル未満の投擲がスキルの技にしたとなれば、ただの投擲とは言えないのかもしれない。


「アンジェラ、カーミラの近接攻撃スキルは<吸血>だけだ。Lv65。MPは既に3/4を切ってる」


「承知しました。奥様が不在の分、私が全力で削ります。守りだけお任せしてよろしいでしょうか?」


「問題ない。僕もできる限り援護する。【信仰剣フェイスソード】【誓約盾プレッジシールド】」


「かしこまりました」


 ライトから手厚い支援を受けると、アンジェラは右手にグングニル、左手にペインロザリオという変則二刀流の構えを取った。


「貫け」


 カーミラは落ち着きを取り戻すと、自分にダメージを与えたアンジェラを先に殺すべく、アンジェラから距離を取るように飛んで逃げながら<呪雷カースサンダー>を連射した。


「無駄です。【弐式:流水加速刃りゅうすいかそくじん】」


 足場を利用して一直線に飛ぶ紫電を次々に躱し、カーミラとの距離を詰めたアンジェラがペインロザリオを振るった。


 すると、前進したエネルギーも上乗せされて斬撃が加速し、カーミラの右の翼に命中した。


「ぐっ」


 バランスを崩したカーミラを見て、ライトはすかさずアンジェラを援護する。


「【【【・・・【【聖戒ホーリープリセプト】】・・・】】】」


 無数の光の鎖が現れ、カーミラを捕らえようとあらゆる角度に飛んでいく。


「無駄無駄ァ!」


 数が多くとも、距離が離れている分カーミラはすぐに体勢を立て直してそれら全てを避ける。


 自分を閉じ込めたライトに自分を拘束されてやるものかと嘲笑う。


 意識をライトだけに向ければ、どうなるかも考えずに滑稽なことである。


「いいえ、無駄じゃありません。【参式:幻怯斬げんきょうざん】」


「甘ぐっ!?」


 いつの間にか背後に忍び寄っていたアンジェラが、殺気を強めに放って攻撃する位置を誤認させた。


 そのフェイントに引っかかって防御態勢を取ったカーミラに対し、アンジェラは守れていない翼を斬った。


 斬った方の翼は先程攻撃した右翼であり、片方だけの翼では上手く飛べなくなったカーミラは墜落した。


 もちろん、ただ墜落するのを見ているだけのライトではない。


「【【聖戒ホーリープリセプト】】」


 素早く光の鎖を2本射出してカーミラの体を拘束すると、ライトはそのままカーミラを地面に思いっきり叩きつけた。


 そして、地面に叩きつけられたカーミラに対し、追撃が止むことはない。


「【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】」


「ぐふっ」


 グングニルがカーミラの胸を貫き、カーミラは自身のHPが無視できない範囲で減ったことを察した。


「私に近づくなぁぁぁっ!」


 グングニルが自分の体から取り除かれると、カーミラが叫んで<呪氷カースアイス>を発動した。


 その瞬間、紫色の冷気がカーミラを覆う棺と化し、カーミラを守る壁となった。


 逃げる場所がないのならば、時間稼ぎをして<再生>で回復してやろうという魂胆らしい。


「【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】」


 再び、アンジェラがグングニルを全力で投げる。


 ところが、氷の棺に刺さるもののカーミラには届かなかった。


 どうやら、カーミラは時間稼ぎのためにかなりのMPを注いだらしい。


 カーミラとの戦いはまだまだ続く。

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