第264話 待てと言われて待つ奴がいるか!

 アルバスは呪信旅団に対し、容赦するつもりはなかった。


 だから、味方の誰よりも早く技を仕掛けた。


「【聖断ホーリーサイズ】」


 アンデッド相手ではなく、仮にも人間が相手だったが、それでもアルバスは殺傷力のある大技を放った。


 それにより、ローランド達が手を出す前に目の前の呪信旅団の大半が真っ二つになって倒れた。


「野郎共、アルバスに続け! 【脚刀レッグナイフ】」


「「「「「【脚刀レッグナイフ】」」」」」


 アルバスが作った流れに乗るべく、ローランドは味方を鼓舞して攻撃を仕掛けた。


 それに倣い、”筋肉武僧”全員がローランドに続いて技を放った。


「後衛組、攻撃は控えなさい! この程度ならローランド達だけで十分よ!」


「「「・・・「「はい!」」・・・」」」


 ヘレンは味方に無駄撃ちさせないように、目の前の相手に対して手を出すなと指示を出した。


 実際、前衛組だけでもオーバーキルなぐらいで、呪信旅団はあっさりと片付いてしまった。


 しかも、返り血を浴びないように技を選択して使えるぐらいには余裕があった。


「おう、終わったな。この程度の連中相手に怪我した奴はいねえな?」


「「「・・・「「おう!」」・・・」」」


「ローランドはこう言ってるけど、怪我をしたらすぐに言ってちょうだい。健康な状態ならEウイルスに体が勝てたとしても、体調が悪ければ勝てるか限らないわ」


「「「・・・「「はい!」」・・・」」」


 前衛組の指揮と全体の鼓舞はローランドが担い、後衛組の指揮と作戦参謀はヘレンが担う。


 この2人が健在な限り、今回のレイドは安定して戦い続けられるだろう。


 倒した呪信旅団の亡骸は、武装を剥ぎ取ったうえで<火魔法>を会得している魔術師マジシャンが火葬した。


 そのまま放置しておけば、ゾンビになる可能性があるのだから当然である。


「呪信旅団が出張って来たことを見ると、ネームドアンデッドのヴァンパイアが新たに発生した可能性がより高まったわ。先を急ぎましょう」


 ヘレンの指示に従い、レイドメンバーは蜥蜴車リザードカーに乗ってパイモンノブルス方面へと急いだ。


 この日は、月食でアンデッドが活発になっていることもあり、ドゥネイルスペードとパイモンノブルスの間にあるアルジェントノブルスで休むことになった。


 大陸東部にセーフティーロードはないものの、今回のレイドに使う蜥蜴車リザードカーはいずれも結界車だったことで、月食中にもかかわらず通常と同じ行軍速度だったおかげである。


 なお、アルジェントノブルスは”筋肉武装”のパーティーリーダーであるエドモンドの父親が統治する領地だ。


 それゆえ、レイドメンバーはアルジェント伯爵家に泊まることができた。


 翌日、早朝からレイドメンバーは東に向かって出発した。


 すると、またしても呪信旅団と遭遇した。


「ジェシカちゃん、北部からいなくなった呪信旅団だけど」


「ヘレンさん、わかってます。大陸東部こっちに移動してたようですね」


「行くぜオラァ!」


「「「・・・「「おう!」」・・・」」」


 ヘレンとジェシカが話している間に、ローランドが前衛組を率いて呪信旅団を討伐しようと距離を詰める。


 グロアが堕ちるところまで堕ちた間接的な要因として、呪信旅団が挙げられることからローランドは呪信旅団に対して慈悲はない。


 それ以外の面々も、状況が改善しつつあるヘルハイル教皇国を害する呪信旅団にそれぞれが思うところがあるようで、本来ならば人間相手には躊躇われる技も使っていく。


 レイドの邪魔をした呪信旅団を火葬し終えると、ローランド達はまた東へと向かった。


 アルバス達の乗る車内では、ノウンがアルバスに話しかけていた。


「アルバス君、見かけによらず結構やりますね」


「見かけによらずってなんですか」


「好戦的な雰囲気を醸し出してる訳でもないのに、戦闘になるとガンガン行きますよね。人相手でも容赦なく斬り伏せますし」


「好きな人が滅茶苦茶強いですからね。その人に追いつくために、戦闘中に積める経験を積んでおきたいんですよ」


「あら、そんなに私は強くないですよ?」


「誰もノウンさんのことを好きだなんて言ってません」


 アルバスが自分のことを好きだろうと言うノウンに対し、アルバスはきっぱりNOと言った。


「残念です。強くて血筋の良いアルバス君なら、私も安心して嫁げるのですが」


「ノウンさん、愚弟はイルミ一筋です。そのアピールは無駄ですよ」


「ジェシカさん、本当ですか?」


 突然、今まではこの手の会話に加わらなかったジェシカが口を挟んだものだから、ノウンもアルバスも目を丸くした。


 もっとも、ノウンはすぐに立ち直って聞き間違いじゃないか確認したが。


「本当です」


「ノウン、本当ですよ。私も知ってます」


「私も知ってました」


「ジェシカさんだけでなく、姉さんとスカジちゃんが言うってことは事実のようですね。それにしてもイルミさんですか・・・」


「イルミさんだったら何か文句ありますか?」


 含みのありそうなニュアンスで黙り込むノウンに対し、アルバスはムッとした表情で訊ねた。


「いえ、イルミさんと結婚する方は大変そうだと思いまして」


「否定しません」


「同感です」


「間違いないです」


 ノウンが抱いた感想を聞き、ジェシカ達は首を縦に振った。


 しかし、アルバスは違った。


「それが良いんじゃないですか」


「「「「え?」」」」


「あんなに自由に生きてて楽しそうな人と一緒に暮らせれば、自分だって楽しくなりますよ」


「・・・愚弟の懐が予想以上に大きかったです」


「ある意味大物」


「ノウン、もうドゥネイル君をからかうのは止めなさい」


「そうします、姉さん」


「あれ? 何か変なこと言いました?」


 自分に向けられる珍獣を見るような目に気づき、アルバスは首を傾げた。


 そんな時、御者が車内に向かって声をかけた。


「前方で戦闘です! 空を飛ぶアンデッドと呪信旅団です!」


「仮説が立証されましたね」


 御者の言葉を聞き、ジェシカは冷静に言った。


 それから、4台の蜥蜴車リザードカーがいずれも止まり、その中からレイドメンバー全員が降りた。


「ヘレン、どっちからやる?」


「共倒れになってくれればベストだけど、そうなるとは考えにくいわ。まずはアンデッドから倒すべきよ」


「ヘレン、<鑑定>で見たぞ。奴の名はカーミラ。教皇様の予想通りヴァンパイアだ」


「了解。カーミラから倒すわ。呪信旅団から倒したいところだけど、病人の命を優先よ」


 パーティーメンバーの薬師ファーマシストが、<鑑定>で空を飛ぶアンデッドの正体を看破した。


 その内容をヘレンに報告すると、ヘレンはカーミラから倒すことを宣言した。


 だが、事はそう簡単には進まない。


「貴様等、横取りする気か!? 僕共、半数は奴等を殺す方に回れ!」


「なんて馬鹿なの・・・」


 レイドの倍以上の人数がいるからといって、カーミラを圧倒できている訳でもないのに、目の前の呪信旅団の指揮を執る者はローランド達を排することに力を割いた。


 その指示を聞いたヘレンは、呪信旅団の対応に溜息をついた。


 指示を出した者もそうだが、従う方もどうかしている。


 アルバスは迫り来る敵を観察し、思ったことをヘレンに告げた。


「ヘレンさん、何かおかしいです! 奴等の目が虚ろです!」


「何かの呪武器カースウエポンの支配下にあるかもしれないわね。仕方ない。作戦変更! まずは呪信旅団から片付けなさい! カーミラはその後よ!」


「「「・・・「「了解!」」・・・」」」


 カーミラを倒すことを優先したいと思っても、呪信旅団が邪魔をするならば先に排除するしかない。


 ヘレンは悩む暇すら惜しいと思い、すぐに迎撃指示を飛ばした。


 それにより、ローランドを筆頭に前衛組が襲い掛かって来た呪信旅団と戦闘を始めた。


 今までは攻撃の撃ち合いだった呪信旅団とカーミラだったが、戦力が半減してしまえば同じではいられない。


 カーミラが押し始め、次々に呪信旅団の構成員がやられ始めた。


「クソッ、楽な仕事のはずだったのに!」


 それだけ言うと、劣勢だと悟った集団のリーダーは自分だけその場から離脱した。


「待ちなさい!」


「待てと言われて待つ奴がいるか!」


 ヘレンが叫ぶも、リーダーはもっともなことを言い残して煙玉を使用して姿を消した。


 カーミラは結界車のせいでこの場にいる不快感を抱いたようで、空を飛んだままこの場から飛び去った。


 その方角は、この地点から見て南西の方角であり、ヘレン達はここに来てレイドが無駄足になったことを悟った。

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