第263話 前衛に偏り過ぎじゃないですかね!?

 11月4週目の月曜日、アルバスとジェシカはセイントジョーカーから派遣されるレイドメンバーをドゥネイルスペードの屋敷で待っていた。


 昨日、セイントジョーカーからの手紙で大陸東部に新たに発生したと思われるヴァンパイアを討伐するレイドを組むから参加してほしいと連絡が来た。


 その手紙を持って来たのは、アーマの双子の妹のノウン=ヴェサリウスだ。


 勿論、手紙を送り届ける役目だけ担っていたはずもなく、レイドメンバーの1人なのでジェシカ達の屋敷に泊まった。


 ジェシカはゲイザーと戦う時のレイドでノウンと会ったことがあるので、初対面特有の気まずさなどない。


 その一方、アルバスは初対面で若干の気まずさを感じている。


 だから、アルバスは気まずさを解消するためにノウンと話をしていた。


「ノウンさん、今日ここに来るのはどんなメンバーなんですか?」


「私やアルバス君、ジェシカさんは臨時パーティー組ですね。その他に3つの既設パーティーが来ます」


「ノウンさんと姉上、俺の他に臨時パーティーを組む人って誰です?」


「まずは私の姉です」


「シスター・アーマですか。5人中前衛が4人って偏り過ぎじゃありません?」


「最後の1人はちゃんと後衛の子ですよ」


「子ってことはノウンさんよりも年下なんですね」


「そうです。アルバス君は面識があるはずですよ。残り1人はスカジ=ホーステッドですから」


「あぁ、スカジ先輩ですか。納得です」


 臨時パーティーだからだろうが、重騎士アーマーナイト2人に槍士ランサー1人、闘士ウォーリア1人、死霊魔術師ネクロマンサー1人ではバランスが良いとはお世辞にも言えまい。


 しかし、ほとんど顔なじみだけで構成されていることは、アルバスにとってありがたいことだった。


「ちなみに、2つ目のパーティーは”筋肉武僧”です」


「前衛に偏り過ぎじゃないですかね!?」


 安心させておいて不安材料をぶち込んで来るものだから、アルバスの声が大きくなってしまった。


 そんなアルバスを見て、ノウンはクスクスと笑った。


「大丈夫ですよ。3つ目のパーティーは後衛だけですから。”スナイパーズ”って知ってますか?」


「このレイドにバランスの良いパーティーはいないんですか?」


 ノウンの話を聞き、アルバスの顔が引き攣った。


 ”スナイパーズ”とは、魔射手マジックアーチャーのリーダーが4人の弓士アーチャーを率いるパーティーだ。


 もっとも、得物が弓に偏り過ぎていることにアルバスが顔を引き攣らせたわけではない。


 このパーティーは実は、ヘレンに憧れた者達の集まりである。


 若かりし頃のヘレンは今よりも強気な性格をしており、強いアンデッドとの戦闘時に「狙い撃つぜ」という決め台詞をよく口にしていた。


 その精度の凄まじさは、予言者プロフェットという二つ名に恥じないレベルである。


 ”スナイパーズ”にとってヘレンとは憧れた存在であり、彼らはとどめ以外でも「狙い撃つぜ」を連呼する連中なのだ。


 つまり、”筋肉武僧”とは違うベクトルで鬱陶しいメンツということだ。


 その評判を知っていれば、顔が引き攣るのも無理もないことだろう。


「アルバス君は表情豊かですね。でも、安心して下さい。4つ目のパーティーは大御所ですから」


「大御所、ですか?」


「そう、大御所です。”曙の番人”の名を知らないとは言いませんよね?」


「え゛? マジっすか?」


「アルバス君の言葉を借りるならマジです。今回のレイドは予言者プロフェットが参謀です。本当は教皇様達が出向くつもりだったそうですが、ローランド様が教皇に万が一があったら拙いと言って代わりに来て下さることになりました」


 ”曙の番人”とはローランドとヘレンが所属するパーティーである。


 教会学校卒業後、大陸北部出身者あるいは将来的に大陸北部で骨を埋めることになる者のみで構成されている。


 パーティーリーダーがローランドで、サブリーダーがヘレン。


 残りは薬師ファーマシスト1人と暗殺者アサシン1人、魔術師マジシャン1人とバランスが取れている。


 最後になってようやく安定感のあるパーティーの名前が出たから、アルバスは割と本気でホッとした。


 そんな様子を見て、ノウンは再びクスクスと笑う。


「アルバス君はからかうと面白いですね」


「からかわないで下さいよ」


「いや、君が私と初対面で気まずそうでしたから、和ませてあげようと思ったんですよ」


「それをわかってくれてるなら、もうちょっと他にも和ませ方があったんじゃありませんか?」


「確かにあったと思います。でもそうするつもりはありません」


「なんでですか?」


「決まってるじゃないですか。その方が面白いからです」


 こんな所で面白さを優先するなよとアルバスは思ったが、仮にも守護者ガーディアンの先輩に対してそんな口は聞けない。


 それゆえ、アルバスは小さく息を吐くに留まった。


 そこに、ドアをノックする音が聞こえた。


「アルバス様、ノウン様、テレスです。レイドメンバーの皆様がこの屋敷に到着されました。ジェシカ様からお呼びするように申し付けられております」


「わかった。今行く。ノウンさん、行きますよって何笑いを堪えてるんですか?」


「いや、アルバス君って公爵家の一員だったなと思い出しただけです」


「それはあんまりじゃないですかね!?」


 確かに、イルミ程ではないがアルバスも公爵家の血を感じさせない雰囲気がある。


 自覚しているものの、ノウンにからかわれるのは違うだろうとアルバスはツッコまずにはいられなかった。


 その後、レイドメンバーが屋敷の前で全員揃うと、パーティーごとに蜥蜴車リザードカーに乗り込んでパイモンノブルス方面に出発した。


 御者は教会が用意しているため、各パーティーは目的地まで体力を温存できるようになっている。


 車内では、アーマが早速アルバスに話しかけた。


「ドゥネイル君、ノウンがお世話になりました」


「シスター・アーマ、気にしないで下さい。ノウンさんには色々と今回のレイドについてお話を伺ってましたから」


「からかわれませんでしたか? 正直、ノウンの性格ならドゥネイル君をからかいそうだと思って心配したんですが」


「安心して下さい姉さん。ばっちりからかっておきました」


 ノウンが割り込むと、アーマは小さく息を吐いた。


「それのどこが安心できるんですか? アルバス君、ノウンのお守りを押し付ける形になってしまってすみませんでした」


「いえ、1日ぐらい問題ありませんよ。それにしても、双子なのに性格が真逆ですね」


「よく言われます。でも、同じ性格が2人いても疲れてしまうでしょうから、これはこれでバランスが取れるんですよ」


「そうですね。姉さんが堅物な分、私が緩くないとバランスが取れません」


「自信をもって答えるんじゃありません」


 ヴェサリウス姉妹のやりとりを見て、アルバスはライトとイルミのことを思い出した。


「おやおや、アルバス君はハーレムパーティーにいても他の女性のことの方が気になるようですね」


「ノウンさん、何言ってるんですか?」


「気づいてなかったんですか? アルバス君以外このパーティーは女性だけですよ? それなのに、ここにいる人以外の女性のことを考えるだなんて悲しいです」


 泣き真似までするあたり、ノウンは本当にアルバスをからかうことが楽しいらしい。


「ノウン、止めなさい」


「良いじゃないですか、姉さん。私達だってそろそろ適齢期が終わりかけてるんですよ? 血筋がちゃんとした未婚の殿方なんて、結婚相手として申し分ないじゃないですか」


「・・・そうだとしても、ドゥネイル君を困らせるようなことを言ってはいけません」


 少し間が生じたあたり、アーマも気にしているらしい。


 そレからしばらく雑談を続けていると、急に蜥蜴車リザードカーの速度が落ち始めた。


 それと同時に、御者が車内のアルバス達に声をかけた。


「前方に怪しい集団です!」


 その言葉にアルバス達は窓から前方を確認した。


「あれは・・・、呪信旅団ですね」


 最初に口を開いたのはジェシカだった。


 それに遅れてアルバスも頷いた。


「確かにそうだな。前見た奴等と同じ服装だ」


「私達の討伐を邪魔するつもりでしょうね」


「足止めってことは、ヴァンパイアを狙ってる本隊がいるってことか?」


「その通りです。愚弟も頭が回るようになりましたね」


「レイドの時まで愚弟って呼ぶのは止めてくれない?」


「そんなことよりも愚弟、さっさと倒しますよ。車を降りなさい」


「はいはい」


「はいは1回」


「はい」


 アルバスは渋々頷き、車から降りた。


 他の者達も順番に車から降りていると、前方にいる呪信旅団の集団から攻撃が飛んで来た。


「総員迎撃!」


 ローランドの指示が聞こえ、アルバス達は戦闘に入った。

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