第253話 俺、参上!

 パーシーのカリプソバンカーがパイルバンカーを発動したことで、レツの【隕石拳メテオフィスト】は完全に打ち破られた。


 イルミの【聖壊ホーリークラッシュ】により、威力の大半が削がれていたのが大きかったのだろう。


 くりだした技で威力負けしたレツの体は、その反動で再び空中へと吹き飛ばされた。


 パーシーの【溜昇撃チャージアッパー】を受けた時よりも高く飛ばされたのを見て、これならもっと派手な技を撃てるとエリザベスが動いた。


「燃えなさい。【地獄炎ヘルインフェルノ】」


 エリザベスの詠唱により、灼熱の業火がレツを包み込んだ。


 イルミが吹き飛ばされたことで、エリザベスは静かにキレていた。


 その仕返しが【地獄炎ヘルインフェルノ】な訳だが、痛覚が麻痺しているアンデッドとはいえ全身が燃やされれば異常な状態であることはわかる。


 身に着けていた装備は炭化して消え、レツに残っているのは黒ずんだ灰色の肉体だけだった。


「復活! 【輝手刀シャイニングハンドナイフ】」


 イルミが元気よく戦線に復帰し、落下中のレツに輝く斬撃を放った。


「イルミ、大丈夫なのかい?」


「大丈夫! <超回復>のおかげでもう戦える!」


 ヤールングレイプルを装備したことで、イルミは新たに<超回復>を会得した。


 <超回復>はライトも<生命樹セフィロト>を会得する前は保有していたスキルで、肉弾戦特化のイルミにとっては必要不可欠なスキルだった。


 このスキルを会得したことにより、イルミは【隕石拳メテオフィスト】に弾き飛ばされた時に受けたダメージを回復した。


 イルミの【輝手刀シャイニングハンドナイフ】を受け、落下ダメージを上回るダメージを負ったレツは俯せになった状態から立ち上がった。


「我、鉄壁なり」


「他にも喋れたんだ」


「大して変わらないでしょ」


 ”我、不敗なり”しか今まで喋らなかったのが、いきなり別の言葉を口にしたのでイルミがそれに反応した。


 そんなイルミに対して、パーシーは冷静にツッコミを入れる。


「鉄壁ならば熔かすのみよ。【炎腕フレイムアーム】」


「我、鉄壁なり。【拳撃乱射フィストガトリング】」


 エリザベスが技名を唱えると、腕を模った炎がレツを拘束しようと伸びた。


 しかし、レツは慌てずに拳を繰り返し突き出し、その拳圧で炎をかき消した。


「やっぱりこの程度じゃ駄目ね。パーシー、イルミ、レツを空に打ち上げてくれる? そうしないと周囲を燃やさないように配慮しなきゃいけないから、どうしても火力が落ちてしまうの」


「「了解」」


 山火事にしたくないという自制心から、エリザベスはレツが地上にいる時に大技を放てない。


 それゆえ、パーシーとイルミに山火事にならないように大技を使うべく、レツを空に打ち上げるように頼んだ。


 パーシーもイルミも、エリザベスのネックを解消するのに異論はなかったので頷いた。


 今度はレツから動き始めた。


「我、鉄壁なり! 【脚刀レッグナイフ】」


 エリザベスを狙い、レツは蹴りから斬撃を放った。


「リジーはやらせない! 【脚刀レッグナイフ】」


 その場に金属音が鳴り響き、パーシーとレツの放つ斬撃が衝突と同時に消えた。


 レツがエリザベスを狙って攻撃を仕掛けている隙に、イルミはレツと距離を詰めていた。


 イルミを邪魔に思ったレツが、やられる前にやってやれと咄嗟に拳を前に突き出す。


 ところが、イルミは飛び前転の要領でレツの拳を避け、地面に両腕が付いた瞬間に前転をキャンセルして次の技につなげる。


「【輝踏槌シャイニングスタンプ】」


 豪快に両脚を揃えて上に伸ばすと、それがレツの顎に命中してその体を空中へと突き飛ばした。


「イルミ、よくやったわ! 【連鎖爆発チェインエクスプロージョン】」


 イルミのアシストのおかげで、エリザベスは思う存分に攻撃ができるチャンスを手に入れた。


 それゆえ、そのチャンスを逃すことなくレツを連鎖する爆発の餌食にした。


 警戒していたエリザベスの攻撃をまともに受けてしまい、レツは少なくないダメージを負った。


 レツはムクリと起き上がると、瘴気を全身から放った。


「我、不敗なり!」


「すごい瘴気だね! 【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


「我、鉄壁なり!」


「あれ、効いてない!?」


 瘴気を放ち続けたまま動かないレツに対し、イルミがここぞとばかりに攻撃を叩きこんだがレツは微動だにしなかった。


「我、最強なり!」


「な、何これ!?」


 その瞬間、放たれていた瘴気が一転してレツの体に取り込まれてレツの体に変化を齎した。


 端的に言えば、レツの体がワンサイズ大きくなったのだ。


 巨大化したとまでは言わないが、サイズが大きくなったレツの体には太い血管のような物がピクピクと浮かび上がり、目は真っ赤に染まっていた。


「我、最強なり! 【拳砲フィストキャノン】」


「あれはヤバいぞ! 【拳撃乱射フィストガトリング】」


「【炎腕フレイムアーム】」


「【聖拳ホーリーフィスト】」


 戦闘序盤で放った一撃とは比べ物にならない攻撃を放ったものだから、パーシーを筆頭にレツの攻撃の威力を削ぐべく各々が技を発動した。


「3人でやっと相殺とか、なんてパワーアップをしてくれるんだよまったく」


「パーシー、弱音は厳禁よ」


「そうだよ父様。多分、後がなくなったからああなったんだろうし、あの状態をどうにかすれば勝てるよ」


「そうだったね。じゃあ、仕切り直しということで」


 パーシーがそう言った瞬間、レツの背後から声が聞こえた。


「俺、参上!」


 レツだけが横をチラッと向いたがその方向には誰もおらず、レツの背後にいたアルバスが攻撃のモーションに入っていた。


「【輝啄木鳥シャイニングウッドペッカー】」


 奇襲されたレツはすぐに後ろを振り返り、アルバスに反撃しようとした。


 だが、その隙をイルミが見逃しはしなかった。


「【輝昇撃シャイニングアッパー】」


「ナイスよ、イルミ! 【連鎖爆発チェインエクスプロージョン】」


 体が大きくなったせいで、レツの体は【輝踏槌シャイニングスタンプ】を受けた時ぐらいまでしか上がらなかった。


 【地獄炎ヘルインフェルノ】を使うには高度が足りないが、それでも【連鎖爆発チェインエクスプロージョン】を使うには十分だったのでエリザベスは追撃した。


 レツが追撃されている内に、アルバスはイルミ達に合流した。


「こんにちは、イルミさん!」


「アルバス君、なんでここに?」


魔法道具マジックアイテムのテストで来たんですけど、派手な戦闘音が聞こえたので様子を見に来たんです」


 そこに、パーシーが割って入った。


「さっきレツが余所見したのは、その魔法道具マジックアイテムのおかげかい?」


「教皇様、こんにちは! その通りです! デコイっていう使い捨てなんです!」


 イルミに結婚を申し込みたいアルバスは、パーシーに対して背筋を伸ばして答えた。


「大した魔法道具マジックアイテムだ」


「いえ、これもライトの知恵を借りて改良したものです」


「・・・やれやれ。この場にいなくともライトの貢献度は高いね」


 拡声器マイクの改良に続き、ライトがデコイの製作にまで関わっていると聞き、パーシーはここにいないライトに感謝した。


「アルバス君、俺達の見込みではあと一息でレツを倒せる。力を貸してくれるかい?」


「喜んで!」


「頼もしいね」


 パーシーやエリザベス、イルミの前でアピールチャンスがあるならば、アルバスが逃す訳がない。


 アルバスはパーシーの申し出を快諾した。


「我、最強なり!」


 それだけ言うと、レツは大きく跳躍した。


「気を付けろ! 【隕石拳メテオフィスト】が来る!」


「我、最強なり! 【隕石拳メテオフィスト】」


「なんじゃこりゃぁ!?」


 レツが再び上空から地上に向け、ひたすらに拳を振るった。


 その無数の拳が先程よりも巨大な拳を模り始め、レツが重力によって地面に落下するのと同時に巨大な拳が地面へと振り下ろされる。


 初見のアルバスが驚くのも無理もない。


「【地獄炎ヘルインフェルノ】」


 周りへの被害がどうとか四の五の言っていられない状況になり、エリザベスは巨大な拳に向かって灼熱の業火をぶつけた。


「やらなきゃやられる! 【拳砲フィストキャノン】」


「俺だって! 【聖断ホーリーサイズ】」


 パーシーとアルバスがエリザベスに続き、自らが使える渾身の一撃を発動した。


 そこまでやれば、受けたダメージが馬鹿にならない今のレツの技にも綻びが生じる。


「イルミ、とどめは任せる!」


「やりなさい、イルミ!」


「イルミさん、ビシッと決めて下さい!」


「喰らえ、私の鉄拳! 【聖壊ホーリークラッシュ】」


 スカイウォーカーの効果を発動し、レツと同じ高さまで駆け上がったイルミが、真正面から全力でレツをぶん殴った。


 イルミの攻撃をまともに喰らったことで、レツはHPが全損するとともに体が弾け飛んだ。


 レツの体の破片が光の粒子となって消えると、その代わりにドロップアイテムが現れた。


 地上にスタッと着地したイルミに駆け寄ったパーシー達に対し、ラストアタックを決めたイルミは叫んだ。


「ライト~、筋肉痛治して~!」


 やはり、イルミのとどめはどうしても締まらないらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る