第251話 つまり、どういうことなの?
土曜日、ライトを訪ねてイルミとメアがダーインクラブにやって来た。
イルミがいることから、ライトのサポートのためにヒルダも応接室で同席している。
「プロデューサー、ヒルダ、お忙しいところ時間を割いて下さってありがとうございます」
「今日はメアさんだけなんですね」
「酷いよライト。お姉ちゃんもいるよ?」
「そういう意味じゃない。クローバー全員じゃなくて、メアさんだけなんだねってことだよ」
「そっか」
話の腰を折ったイルミが納得すると、メアは苦笑いして口を開いた。
「イルミには私の護衛として来てもらいました。今日こちらに伺ったのは、
パーシー経由でエーリッヒから持ち歩ける結界の作成依頼を受け、その結果が
エーリッヒは<法術>に頼らない
「オールドマンさんからですか。メアさん、まだ量産できてないから情報の取り扱いには注意して下さいね?」
「勿論です。実は、オールドマンさんがその話をしてくれたのは、
「言われてみれば、確かにそうですね。
「そこで私は考えました。
メアの発言内容にライトは考え込んだ。
今のクローバーは、国内の各領地に巡業するか戦場の後方支援で歌うという2つの役割を担っている。
その役割を全うしているはずだが、もっと人類の役に立てるとはないかどういうことか。
そこまで考えた時、ライトには1つ思いつくことがあった。
「まさか、聖水も作ろうとしてる?」
「おっしゃる通りです。舞台で歌う際に水樽を用意し、
「すごいね。それができれば少ない聖水を元手に多くの聖水を手に入れられるよ」
「ヒルダの言う通りだ。まさか、オールドマンさんはこれを見越してメアさんに
「そうだと思います。オールドマンさんは
ライトとヒルダ、メアがすごいすごいと言っている中、イルミは腕を組んで首を傾げた。
「つまり、どういうことなの?」
(イルミ姉ちゃんの理解力のなさはもはや才能でしょ、これ・・・)
3人がイルミをジト目で見たのは言うまでもない。
だが、ジト目を向け続けてもイルミが理解できる訳ではないので、ヒルダは小さく息を吐いてから説明に回った。
「イルミ、聖水が貴重なのはわかるよね?」
「わかる」
「聖水は聖気が付与された水ってことはわかってる?」
「うん」
「
「ギリギリわかる」
「
「護衛してるもん。わかるよ」
「じゃあ、声に乗せて聖気を周囲に放つことができれば、<聖歌>の効果と合わさって効果が上がるんじゃないかって話よ」
「おぉ、すごい!」
理解力が低いイルミに対し、ヒルダは1つずつ分けて説明した。
そのおかげで、イルミもようやくライト達と同じ衝撃を受けた。
「ヒルダ、お疲れ様。代わりに説明してくれて助かったよ」
「気にしないで。パーティー組んでた時はいつもこんな感じで説明してたし」
ヒルダが頼りになるところをみせたことにより、ライトのヒルダへの好感度が上がった。
もっとも、そんなことをせずともヒルダに対する好感度は尋常じゃないぐらい高いのだが。
「ライト君、ということで
「わかりました。預からせていただきます」
「報酬は舞台1回でどうでしょうか?」
「それで構いませんよ。領民も喜んでくれると思いますから」
ライトとメアの間で商談が成立した。
イルミとメアはこの後ヒルダと一緒に領内でショッピングをすることになり、屋敷から出て行った。
そうしたのは、イルミがライトの邪魔をしないようにヒルダが気を利かせたからだ。
ライトは受け取った
『今日はどうしたのかしら?』
「
『なるほど・・・。考えたわね』
「僕の発案じゃないけどね」
『ふ~ん。まあそれは置いといて、技術的に可能かって話よね?』
「うん。
『私が生きてた時代にもないわ』
「そうだろうけど、僕より
『仕方ないわね。
ライトに頼られて悪い気はしないので、ルクスリアは
その間、ライトも何もしないのは時間が勿体ないから<鑑定>で何か気づけることはないか調べた。
拡声する仕組みに聖気を上乗せできれば、<聖歌>による聖気と上乗せ分の聖気によって用意しておいた水を聖水に変換させられるだろう。
その仕組みを作る糸口を2人がかりで調べている訳だが、今回は長く生きているルクスリアに軍配が上がった。
『整ったわ』
「わかったの、ルー婆?」
『ええ。私の指示する通りに作業して。途中まで分解するから』
「了解」
ルクスリアの指示に従い、ライトは
魔導回路が見えるようになると、ルクスリアは分解を止めさせた。
『このラインを並列にしなさい。片方は元のままにして、もう片方を輪にするの。輪にした魔導回路を粉末状の魔石と聖水のブレンドで作れば、音と聖気が同時に拡散するわ。ただ、
「なるほど。このラインを並列にすることで同時に効果が発揮されるのか。聖気の届く範囲はやむなしでしょ」
技術的な話なので、イルミがこの場にいたら1分と経たずに頭から湯気が出るだろう。
どうすれば良いのかさえ分かれば、
それから1時間後、何度も微調整を繰り返した末にライトは
既に実験も成功し、音と聖気を同時に拡散できるようになったので英霊降臨を解除している。
「旦那様、奥様達が戻られました」
ノックして入室したアンジェラが、自分の知りたい情報をタイミング良く伝えてくれたので、ライトは3人を庭に呼ぶように頼んだ。
改良した
「ライト、もしかしてもうできたの?」
「なんとかね」
「「えっ!?」」
ヒルダが勘付いて訊くと、ライトはバレたかと笑って頷く。
イルミもメアももっと時間のかかるものだと思っていたので、驚かずにはいられなかった。
「言うだけじゃ信じられないでしょうから、メアさんにはここで試しに歌ってもらいます」
「わかりました」
アンジェラに水樽を持ってこさせると、ライトは屋敷全体に【
いきなり大音量が聞こえれば、近隣に迷惑がかかるかもしれないからだ。
全ての準備が整ったため、メアは1人でお気に入りの讃美歌を歌った。
「うん、ばっちりです。ちゃんと聖水になってますよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
メアが歌い終わった後、ライトが用意した水樽全てが聖水になっているのを確認した。
まさかここまで早く事が進むとは思っていなかったため、メアはとても喜んだ。
「そうは言っても、改良が済んでるのはメアさんが持ってるそれだけなので、預かってる
「待ちます待ちます! それぐらい全然待ちますよ!」
「やった! 今日は実家ご飯!」
メアとイルミの喜ぶポイントが違うのだが、それは仕方ないのかもしれない。
翌日、ライトから改良された
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます