第246話 ブリリアント!

 翌日の土曜日、ライトは執務室で今日中にやるべき執務を早々に終わらせ、ルクスリアを英霊降臨で呼び出した。


『どうしたのよライト?』


「ちょっと前にも相談したけど、ルー婆に追加で魔法道具マジックアイテムについて訊きたいんだ」


『良いわ。あの時は変わった魔導回路の繋ぎ方を説明させられたわね。何ができたの?』


「これだよ。音響測距儀ソナーって名付けたんだ」


 ライトは机の上に載せていた音響測距儀ソナーを指し、ルクスリアにその機能の説明をした。


『なるほどね。<索敵>の代わりになる魔法道具マジックアイテムって訳か。考えたわね、ライト』


「まあね。これの計測距離は、使う魔石を取り換えれば変えられるようにしてあるよ」


『すごいじゃないの。それで、音響測距儀ソナーなんて新しい魔法道具マジックアイテムを作ったのに、もう他の物を作りたいの?』


「うん。実は、父様から持ち運べる結界を作れないかって言われた。正確には、聖水作成班のオールドマンさんって人の手紙を渡されたんだけど」


『・・・教皇パーシーを使い走りにするなんて、聖水作成班も偉くなったじゃないの』


 ルクスリアが生きていた頃は、そんなことは絶対にあり得なかった。


 それゆえ、ライトから聞いた話にルクスリアは耳を疑った。


「呪信旅団に手紙を奪われたくなかったんだよ。それに、母様がヒルダに会いたがってたからその付き添いの意味もあったんだと思う」


『エリザベスが? 確かに、エリザベスとヒルダは仲が良いものね』


「嫁姑問題が勃発しなくて僕は心底安心してるよ」


『政略結婚でも恋愛結婚でも、嫁姑問題は何かしら起きてしまうものね。エリザベスとヒルダの関係は稀よ。ヒルダがエリザベスを慕ってるから良好な関係になってるけど、そうじゃなければギスギスするのは待ったなしだったでしょうね』


 ルクスリアの言う通りである。


 エリザベスの業炎淑女バーストレディーという二つ名には、彼女の過激さも加味されている。


 ライトの結婚相手がエリザベスと反りの合わない者ならば、間違いなく嫁姑問題が勃発しただろう。


 反りが合ったということも、ライトも自分の結婚相手がヒルダで良かったと思えるポイントなのは言うまでもない。


「ごめん、脱線した。話を戻すと、持ち運べる結界を作れないかって訊かれたんだけど、僕はこの音響測距儀ソナーの仕組みを利用できないかと思うんだ。【祈結界プレイバリア】ってMPの衝撃波みたいに拡散できない?」


『そういうことね。まず、【祈結界プレイバリア】は使えないわね。あの技は、発動してからサイズを変更できないもの』


「ルー婆の知識でも駄目か」


『最後まで話を聞きなさい。ライト、お勉強の時間よ。アンデッドが嫌がるのは何?』


「聖気や澄んだ空気。ただし、後者は不快ぐらいにしか思わないから、逃げ出すレベルじゃないね」


『その通りよ。音響測距儀ソナーがMPの衝撃波を飛ばすなら、持ち運べる結界は聖気を拡散させれば良いのよ。そうすれば、目に見える結界は張れなくとも結界に守られてるのと一緒でしょ?』


「ブリリアント!」


『フフン。これが世界初の賢者ワイズマンの知恵よ。まだまだ私の頭脳も捨てたもんじゃないわね』


 ライトが立ち上がって褒めると、ルクスリアは満更でもなさそうな顔になった。


「じゃあ、聖気をどうやって飛ばせば良いのかもわかるんだよね?」


『魔導回路を粉末状の魔石と聖水のブレンドで作ってみなさい。そうすることで、MPを装置に注げばMPを媒介に聖気が衝撃波として拡散されるはずよ』


「わかった。ちょっと作ってみる。できたらまた呼ぶわ」


 そう言うと、ライトはMPを温存するために英霊降臨を解除した。


 それから1時間後、ライトは試作品を完成させてルクスリアを再び呼び出した。


『もうできたの?』


「できた。元々材料は用意してたしね」


『そんなあっさりと作り上げるなんて大したものね』


「一応、<鑑定>によればちゃんと動作するらしいよ。まだまだ改善点はあるけど」


『説明してちょうだい』


 ルクスリアに頼まれ、ライトは持ち運べる結界の魔法道具マジックアイテムである即時拠点インスタントポータルの説明を始めた。


 といっても、その仕組みはほぼ音響測距儀ソナーと同じである。


 音響測距儀ソナーとの違いは、即時拠点インスタントポータルを使用することによる聖水の消耗だ。


 聖水を媒介として結界を展開する時は、結界が損耗することはない。


 だが、即時拠点インスタントポータルは聖水を聖気に変換して衝撃波のように拡散させる。


 つまり、使えば使う程魔導回路中の聖水が減る。


 使い捨てにすると割り切れば良いのかもしれないが、それではコストパフォーマンスが悪過ぎる。


 勿体ない精神に則って、再利用できるものは再利用すべきということで聖水を必要に応じて魔導回路に注ぎ足す必要がある。


『ライトが気にしてるのは、即時拠点インスタントポータルのサイズと聖水を注ぎ足す必要があること?』


「うん。音響測距儀ソナーもそうだけど、最終的には手のひらサイズにしたいところだよね。聖水も無限じゃないから、注ぎ足さなくて良いようになればベストかな。それと、30分しか効き目がないことかな」


『まさかここまでとはね』


「何が?」


 何がここまでなのかと気になったライトは、ノータイムでルクスリアに訊ねた。


『何ってライトの稀有な才能のことよ。並みの生産者プロダクターなら、即時拠点インスタントポータルを作るのにもっと苦労するはずよ? それなのに、たった1時間で作り上げてまだ改善の余地があるとか言ったら、全国の生産者プロダクターが泣くわ』


「世の中スキルだけじゃないんだよ。ほら、アンジェラとかアンジェラとかアンジェラとか・・・」


『アンジェラしかいないじゃないの。弟子は師匠に似るって言うけど、これはどうなのかしら?』


「それを言うんだったら、ルー婆も僕の師匠な訳だしブーメランじゃない?」


『・・・否定できないわね』


 心当たりがあったようで、ルクスリアは自分の言ったことがブーメランとして戻って来たことを悟った。


 結局、ライトもルクスリアも規格外と言うことでこの話は終わり、ライトは即時拠点インスタントポータルを試すことにした。


 準備をしたら英霊降臨を解除して執務室を出て、ヒルダのいる部屋へと寄った。


「ヒルダ、今から新しい魔法道具マジックアイテムのテストに行くけど一緒に行く?」


「勿論よ」


 ヒルダがライトからの誘いを断るはずがない。


 それゆえ、ヒルダはすぐに支度を整えてライトと一緒に玄関へ移動した。


 玄関に移動したライト達は、既に蜥蜴車リザードカーを準備して待っていたアンジェラと合流してダーインクラブの西門を出て北を目指した。


 セーフティーロードがあるため、北門と南門からしばらく離れてもアンデッドの姿はない。


 アンデッドと遭遇するには、西門か東門から出て北上する必要がある。


 西門を選んだのはヒルダである。


 実家のドゥラスロールハートに近いのは西だから、それも当然の選択と言えよう。


 ダーインクラブから30分程移動すると、遠くの方にアンデッドらしき影が見えて来た。


 ライトが最初に取り出したのは音響測距儀ソナーだ。


 人相手には機能したが、アンデッドには機能しませんでしたでは話にならない。


 <鑑定>の結果によれば、失敗作でないことはわかっている。


 それでも、音響測距儀ソナーの完成を実感するためにはテストが必要だろう。


 使っている魔石も、外で使うために雑魚モブアンデッドのものではなくタキシムのものに替えている。


 ライトはアンジェラに命じて蜥蜴車リザードカーを停車させた。


 ライト達が乗るのは結界車なので、走らせたままだと結界車を嫌がってアンデッドが逃げてしまう。


 だから、蜥蜴車リザードカーを一旦止めてから音響測距儀ソナーを使うのである。


 音響測距儀ソナーを使ってみると、ライトは自分を中心とした半径1㎞のアンデッドの位置を把握した。


 ところが、ここである変化が生じた。


「あれ?」


「ライト、何かあったの?」


「アンデッドがこっちに向かって来てるんだ。MPの衝撃波は微弱なんだけど、それを知覚できるアンデッドがいたみたい」


「そういえば、アンジェラやお義母様も反応してたもんね。レベルの高いアンデッドを刺激しちゃうのかも」


「これは要注意だね。でも、こっちとセットなら大丈夫なはず。ヒルダ、音響測距儀ソナーを持ってて。アンジェラ、万が一接近して来たらグングニルで排除して」


「良いよ」


「かしこまりました」


 音響測距儀ソナーをヒルダに託し、ライトは<道具箱アイテムボックス>から即時拠点インスタントポータルを取り出した。


 即時拠点インスタントポータルを使うと、結界車によって近づけないギリギリの位置までいたアンデッドが逃げ出した。


 そうなった原因は、即時拠点インスタントポータルに使った魔石もタキシムの物だからだ。


 使用した魔石が同じならば、音響測距儀ソナー即時拠点インスタントポータルの効果範囲も同一になるのも当然だろう。


 その後、30分程待機したが、ライト達の半径1㎞以内にアンデッドが近づくことはなかった。


「クロエさん達に音響測距儀ソナーを持たせるなら、即時拠点インスタントポータルも一緒に持たせてあげた方が良さそうだ」


「そうね。セットで渡したらライトへの忠誠が高まると思うわ」


「そっか。それじゃあ、ガルバレンシア商会に配布できるぐらいは両方の魔法道具マジックアイテムを用意しないとね」


 こうしてテストは終わり、ライト達はすぐにダーインクラブへと帰った。

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