第247話 諦めたらそこで試合終了だよ
ガルバレンシア商会には、ライトが作ったそれらが先行して配られた。
表向きには行商を生業とするダーイン公爵家の諜報部隊ゆえに、ガルバレンシア商会が結界車を持っていては不自然に思われることから、彼等の
だからこそ、
その結果、ジェフを筆頭にガルバレンシア商会全員がダーイン公爵家に忠誠を誓った。
アンデッドとの距離感を測れる
そんな貴重な物を優先的に使わせてもらえると知れば、自分達が信用されていると感動してジェフ達が忠誠を誓うのも当然だろう。
また、聖水作成班のエーリッヒは
パーシーが教皇になってからは、ダーインクラブの月見の塔で作られた聖水も多少は市場に出るようになったため、聖水作成班の負担は一時期の地獄よりもマシになった。
それでも、
それはさておき、7月3週目の水曜日にアルバスがライトを訪ねてやって来た。
アルバスはライトと2人で話がしたいというので、応接室にはこの2人以外いない。
「ライト、俺、イルミさんへのプロポーズを成功させたい。成功率が上がるようにアドバイスをくれ」
「そんなことわかり切ってるじゃん。強くなれ。美食を用意しろ。以上」
「シンプルなアドバイスで助かるぜ。けどな、それができたら苦労しない!」
「なんだよアルバス。アドバイスが欲しいって言ったのはアルバスだろ? 文句つけるなよ」
「だってよぉ、噂に聞くイルミさんの活躍だと俺は実力の差をちっとも狭められてねえんだもんよ」
アルバスの言い分に対し、ライトは気になったことを訊ねた。
「強くなることしか心配してないけどさ、美食の方は順調なの?」
「そっちは着実に準備を進めてるぜ。ドゥネイル公爵家の屋敷の
「なるほど。まあ、美食の用意の方が手を付けやすいか」
「そういうことだな。だがよ、強さだけはそう簡単に身に付くもんじゃないだろ?」
「そんなアルバスに追加情報。イルミ姉ちゃんの
「そ、そんなのってあんまりじゃねえか!」
「アルバス!? 【
突然涙を流し始めるアルバスを見て、ライトが驚かないはずがなかった。
精神に負荷がかかり、アルバスがおかしくなってしまったのではないかと心配したライトは驚きつつも【
そのおかげで、アルバスは自然に泣き止むよりもずっと早く泣き止んだ。
しかし、アルバスは静かに悲しんでいた。
「信じられるか? プロポーズを成功させるために必死に頑張ってるってのに、イルミさんがまた強い
「イルミ姉ちゃん達が倒したネームドアンデッドから、凶悪な
「イルミさん達が倒したのってシャーマンだっけ?」
「そうだよ。ついでに言えば、グロアの怨念が元々のシャーマンの意識を乗っ取ったから、シャーマン=グロアを倒したことになるのかな。聞いた話じゃイビルクロスって
「なんてこった。俺、イルミさんに追いつける気がしねえよ。はぁ・・・」
ライトから知らされた情報により、アルバスは肩を大きく落とした。
「諦めたらそこで試合終了だよ」
(このセリフを僕が言うことになるとはね)
そんなことを思いつつ、ライトはアルバスを励ました。
「ライト、そうは言うけど俺がイルミさんよりも強くなれると思うか?」
「諦めない限り可能性はある。逆に訊くけどさ、アルバスはまさかこんなところで諦めるの?」
「・・・諦められるはずないだろ! よっし! やってやんよ! 俺やってやんよ! ライト、今から俺と模擬戦してくれ!」
(励ますつもりが煽っちゃったけど、アルバスが元気になったから結果オーライだな)
アルバスに勢いを付けさせるため、ライトはアルバスを連れて庭へ移動した。
庭に移動したライトの手には、聖鉄製の杖が握られている。
それに対して、アルバスはフリングホルニを握っている。
ライトがカースブレイカーを使えば、フリングホルニを壊してしまう可能性が高い。
それゆえ、ライトは聖鉄製の杖を使うハンデありきの模擬戦である。
模擬戦の審判は、いつの間にかスタンバイしていたアンジェラが引き受けた。
「旦那様、庭を傷つけないように準備をお願いします」
「わかってる。【
自分とアルバスの模擬戦により、折角庭師が手入れをした庭が荒れては困る。
それを重々理解しているライトは、光のドームで地面も含めて覆った。
こうすることで、ライトもアルバスも好きなだけ暴れられる。
「準備が整いました。では、旦那様VSアルバス様、始めて下さい」
「先手はアルバスに譲るよ」
「胸を借りるぜ。【
「【壱式:
アルバスは光り輝くフリングホルニの石突で突きを連続して放つが、ライトはそれを流れる水のように軽やかに躱しつつアルバスと距離を詰める。
「近づけさせねえよ! 【
ライトに近づけさせまいと、アルバスはフリングホルニを構えてその場で回転する。
しかし、ライトがわざわざ斬撃を放つまで待つことはない。
「【肆式:
「のわぁっ!?」
大きく跳躍して頭上から杖を振り下ろして来たライトに対し、アルバスはどうにか【
【
だが、ライトとアルバスのSTRの差が離れていたことにより、ライトは【肆式:
アルバスはどうにか前転してライトの攻撃を躱したが、ライトが追撃しないはずがない。
「【伍式:
ライトが杖を体の正面で曲芸に相応しい速さで回転させると、轟音と共に渦巻く暴風がアルバスを襲った。
暴風のせいで、アルバスは前転から立ち上がったところでバランスを崩して尻餅をついた。
その時には、ライトは既にアルバスと距離を詰めて杖の先端をアルバスの首筋に当てていた。
「そこまでです。旦那様の勝ちとします」
アンジェラが模擬戦の終了を告げると、アルバスはその場に座り込んだ。
「ふぅ。ライトはやっぱり強いな。<法術>なしでこれかよ」
「アンデッド相手だと、基本的に<法術>の方が有効だからそっちを使ってるだけで、僕は<神道夢想流>の使い手だからね」
「そのスキル、後天的に会得したんだろ? すげえよな」
「努力は裏切らないんだよ」
(実はアンジェラにペインロザリオを使わせるための方便だったんだけどね)
<神道夢想流>を会得したきっかけは、
それを
もっとも、ライトは幼くても体を動かせるようになってからはルクスリアの指導を受けていたため、努力していたのは間違いないのだが。
少し休憩した後、アルバスが今度は<格闘術>だけで戦いたいと言ったため、お互いに武器なしで模擬戦を行った。
ライトは<格闘術>を保持していないが、アンジェラ仕込みの身のこなしに前世の知識を活かした柔道や合気道の技術を駆使し、またしてもアルバスに勝ちで終わった。
模擬戦には2回とも負けたが、アルバスは応接室で見せた弱気な態度が嘘のように晴れやかな気分になった。
体を動かしたおかげである。
「あっ、やべえ。姉上から頼まれてたこと忘れてた」
晴れやかな気分から焦った顔になったアルバスに対し、ライトはジト目を向けた。
ジェシカの頼みで自分を訪ねて来たにもかかわらず、自分の用事を優先して模擬戦までやってから思い出したのだからそれも当然だろう。
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