第245話 んー、争いは終わったと思う。俺がガツンと言ったから
金曜日、パーシーがライトを訪ねて来た。
エリザベスもパーシーについて来たが、彼女はヒルダと別室でお茶を飲んでいる。
それゆえ、応接室にはライトとパーシーに加え、用があった時のためにアンジェラがいる。
「父様、カリプソバンカーとナグルファルの調子はいかがですか?」
「ばっちりだね。サイズの微調整もライトが紹介してくれたシュミット工房でできだから、存分に使わせてもらってるよ。いやぁ、
「僕から話を振っといてなんですが、ちゃんとデスクワークもして下さいね?」
「わかってるって。でも、大陸北部の統一のために現地に行くと戦うことが多いんだよ」
「まだ勢力争いが続いてるんですか?」
「んー、争いは終わったと思う。俺がガツンと言ったから」
「・・・なんて言ったんですか?」
ガツンとの内容が気になり、聞きたいような聞きたくないような悩ましい気持ちを抑えられずに訊ねた。
「そりゃ、大陸北部の貴族を集めた前でカリプソバンカー使って地面に大穴空けたんだよ」
「父様、それはガツンと言ったじゃなくて、ガツンとやったと言うべきです」
「いや、ちゃんとその後にくだらない争いをするなって言ったんだ」
「パフォーマンスの威力があり過ぎたせいで、彼らが父様に怯えてるだけではありませんか?」
「それだけじゃない。彼らの前で俺はローランドと模擬戦をやったんだ。引き分けで終わっちゃったけど、良い試合だった」
「もしかしなくても、父様は
ライトがジト目を向けると、パーシーは慌てて両手を前に出した。
「だが待ってほしい。あの模擬戦のおかげで、チマチマ小競り合いしてる彼等は今まで舐めた真似してすみませんでしたって謝ってくれたんだ。説得できてるだろ?」
「父様も大概脳筋ですよね。物理的な力で勢力争いを終わらせるんですから」
「まあまあ。細かいことを気にしたら負けだよ。大事なのは、大陸北部がしょうもない争いを止めたことだ。違うかい?」
「そうですね。さて、雑談が長くなってしまいましたが、本題に入ってもらえませんか?」
「ライトは切り替え早いね。まあ、その方が俺としても助かるけどさ」
スパッと雑談を終わらせると、ライトはパーシーに本題に入るように頼んだ。
パーシーとしても、これ以上掘り下げられるような内容がなかったので、本題に入るために荷物の中から書類を取り出した。
「父様、その手紙はなんですか?」
「聖水作成班のエーリッヒから、ライトに渡してほしいって頼まれたんだ。中身が中身だから、他の人に任せられなくて俺が持って来た」
「わかりました。拝見させていただきます」
エーリッヒから託された手紙と言われ、聖水関連であることは間違いないと判断したライトはパーシーからそれを受け取って目を通し始めた。
(オールドマンさん、思ったよりも元気そうだ)
目を通し終えたライトは、エーリッヒが過労で倒れていないようで安心した。
手紙に書かれているのは、聖水の新たな使い道に関する提案だった。
ダーインクラブで貴族や商会、有力な
具体的には、
言い出しっぺのエーリッヒは、なけなしの聖水を使ってあれこれと実験した記録まで記していたが、残念ながらどれもこれだと言える成果を挙げられなかったらしい。
ライトの<法術>に頼る結果となって申し訳ないと詫びる言葉が添えられていた。
エーリッヒの手紙の内容が公になれば、できるかもわからない技術を求めてダーインクラブに貴族や結界車を持たない商人、
パーシーがこの手紙を持って来たのは、必要な措置だと言えよう。
「ライト、エーリッヒの提案は実現可能か?」
「結界車を完成させるにあたって、持ち運べる結界ができないか僕も考えなかった訳ではありません。しかし、持ち運べる結界はできなくもありませんが、完成させても欠陥品になってしまうので作りませんでした」
「どういうことかな?」
「父様、ダーインクラブの結界と結界車の共通点はわかりますか?」
「んー、陣を刻んでそこに聖水を張ったことか?」
「それも合ってますが、僕が言いたいのはそこではありません。結界は刻んだ陣の広さからサイズを調整できないことです」
「あぁ、確かに」
ライトが張る結界は、伸縮自在という訳にはいかない。
一度陣を刻んでしまえば、そのサイズから伸縮自在に変更させられないのである。
もっとも、貴族の各領地も結界車も結界のサイズを変える必要がないものだ。
だからこそ、ライトは今まで結界の使用を限定していた。
「オールドマンさんの意図を考慮すると、現行の結界を小型化しただけでは
「それはビジュアル的にどうなんだ?」
結界の陣を刻んだ板を抱えて移動する者をイメージしたら、それが現実的ではなかったためパーシーは苦笑いした。
「<
「<
パーシーが首を傾げると、ライトはアンジェラの方を振り返った。
「アンジェラ、<
「かしこまりました」
ライトの命令を受け、アンジェラは透明な手を創り出してテーブルの上に置かれたライトのコップを持ち上げた。
それを見たパーシーは納得した。
「なるほど。アンジェラにはそれがあったか。でも、<
「その通りです。使える者が限られる結界は欠陥品です。そういう事情から、僕は持ち運べる結界の作成を断念しました」
「ライト、どうにかならないのかい? 贅沢かもしれないけど、結界を使い捨てるとかで対応できたりしないか? それか、聖気の出力を上げるとか」
「僕の本職は
「もしかして、何か思いついたとか?」
ライトが一瞬黙り込んだ後、いけそうな雰囲気を醸し出したためパーシーはライトに期待した。
「まだ仮説の段階です。しかし、ヒントになる物を作ったばかりでしてね。こちらを見て下さい」
そう言うと、ライトは<
「なんだいそれは?」
「
「ライト、
「ルー婆に協力してもらいましたが、それ以外は自分で作れました」
「俺の息子が万能な件について」
「私も若様が
パーシーが目を丸くすると、アンジェラも首を縦に振って同調した。
ライトは驚くパーシーに対して
「なにこれすごい。リビングでお茶してるのはリジーとヒルダちゃんか。すごい量のMPだ」
パーシーが感心していると、応接室のドアをノックする音が聞こえた。
「入るわよ」
応接室に入って来たのはエリザベスとヒルダだった。
「リジー、これすごくないか? ライトが作った
「ヒルダちゃんから聞いたわ。丁度その話をしてたら、MPの衝撃波を感じたの。だから実物を見に来たのよ」
「お義母様ったらすごいんですよ。昨日のアンジェラ並みに反応してました」
そんな彼女がいきなりMPによる衝撃波をぶつけられれば、反応しない訳がないのである。
「ライトったら本当に優秀ね。もしかして、聖水を生み出す
(母様、何故わかるんだ?)
全く関係ない
しかし、ホーリーポットの存在はライトとヒルダ、アンジェラ以外には秘密にしているため、ライトはポーカーフェイスを貫いた。
ヒルダやアンジェラも同様である。
「そんな物があれば、この世界は変わってしまいますね」
「そうね。でも、ライトなら作れても不思議じゃないと思うの。既にこの世界にあちこち手を加えてるんだから、それぐらいやれそうだわ」
(母様から高評価なのは嬉しいことだけど、ホーリーポットのこと話せないよなぁ)
その後、ライトは持ち運べる結界に話題を転換し、どうにかホーリーポットの存在を隠し通した。
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