第239話 それを言っちゃおしまいだろ
ドヴァリンダイヤに着いたイルミ達は、寄り道することなくヘレンが待つ屋敷に向かった。
現在のドヴァリンダイヤは、ヘレンの息子であるギルバートがドヴァリン公爵に就任している。
しかし、ローランドが教皇になった時はギルバートがまだ幼く、グロアがドヴァリン公爵の地位を継いだためにギルバートに為政者としての経験はなかった。
それゆえ、ギルバートは今、公爵の地位にありながらローランドとヘレンに公爵とはどうあるべきかを学びながら公爵の仕事を行っている。
公爵のOJTだなんて、今まで
さらに、ギルバートがローランドやグロア程の手腕がないと知られ、大陸北部の貴族の勢力争いが過激になっている。
ドヴァリンダイヤの統治だけでも大変なのに、そこにアマイモン辺境伯とのベーダーノブルスの共同統治まで加われば、ギルバートは休む暇もあるまい。
実際、ギルバートだけでは対応できないのでローランドやヘレンも精力的に動いている。
ローランドであれば、ドヴァリン公爵軍やドヴァリンダイヤの教会に属する
ヘレンであれば、外交と内政でギルバートを支えている。
特に、ギルバートがドヴァリンダイヤから出ることも難しいので、他の領地への交渉はヘレンが全て引き受けるぐらい力になっている。
ギルバートのパーティーである”夜明けの守り人”は、ギルバートが公爵に就いて解散となったがパーティーメンバーはギルバートを助けるためにドヴァリンダイヤを拠点とした。
”夜明けの守り人”に所属していた
ちなみに、ミリムはアマイモン辺境伯夫人からの腐教に効果がなく、BL的な影響は受けていない。
ギルバートにとってホッとする豆情報だが、それはまた別の話である。
ミリムは辺境伯家長女であるにもかかわらず、ギルバートと一緒で教会学校にいる時から
結果的に、ドヴァリンダイヤの統治の実情はローランドやヘレンなしではまだまだ立ち行かない状況にある。
前置きが長くなったが、そういった事情から応接室でイルミ達と向かい合っているのはヘレンなのだ。
勿論、ギルバートも同席しているがお飾りに等しい。
「クローバーのみんな、イルミちゃん、アーマもよく来てくれたわね」
「
「何かしら?」
挨拶をして早々、アーマが真剣な顔でそんなことを言い出せばあまり良い知らせは期待できない。
微笑んでいたヘレンは顔を引き締めて先を促した。
「セイントジョーカーからドヴァリンダイヤに来る途中、シャーマンに遭遇しました」
「なんですって!?」
「幸い、
「イルミちゃん、やっぱり強いのね。クローバーを無事に連れて来てくれてありがとう」
「えっへん」
褒められて悪い気はしないため、イルミは胸を張って応じた。
「それで、なんで大陸北部にシャーマンが留まってるの?」
「1月にシャーマンがグロアの怨念を吸収した結果、グロアの怨念がシャーマンの意識を凌駕して乗っ取ったようです。どうやら、グロアはドヴァリン公爵に未練を残していたらしく、大陸北部に留まっているみたいです」
「あの女、まだ私達に迷惑をかけるのね・・・」
「叔母様がアンデッドか・・・」
アーマからの報告を聞き、ヘレンもギルバートも額に手をやった。
グロアがまたしても自分達に迷惑をかけるのかと思うと、頭が痛くなるのも当然だろう。
「心中お察しします。しかし、グロアがネームドアンデッドの体を乗っ取ったのであれば、尚の事呪信旅団に討伐させる訳には参りません」
「そうね。ライト君の話によれば、負の感情の強さが
「その通りです。便宜上シャーマン=グロアとよびますが、これを早急に見つけ、呪信旅団よりも先に倒す必要があります」
「こうしちゃいられないわ。偵察部隊に連絡して、シャーマン=グロアを見つけ出す。ギルバート、すぐに指示を出して来て」
「わかった」
ギルバートは席を立ち、応接室から出て行った。
公爵をパシらせるあたり、もうヘレンがドヴァリン公爵でも良いのではないだろうか。
「それで、シャーマン=グロアを発見した後はどのように戦うことを考えておりますか?」
「シャーマンはオニキススペクター。上位のアンデッドであり、その上ネームドアンデッド。しかもグロアが体を乗っ取った今、生半可な実力の
「クローバーは
「ええ、その通りよ。護衛はギルバートとアーマにお願いするわ。私とミリムは後方から攻撃で、前衛はローランドとイルミちゃんかな」
「わかりました」
「ありがとう。とりあえず、シャーマン=グロアが見つかるまではゆっくりしてちょうだい。イルミちゃん、昼食も用意してるからね」
「お昼!? 待ってました!」
流石はヘレン、
アーマとヘレンが話を進めている間、イルミも真面目に話を聞いていたものの時間が正午を跨ぐとイルミの頭の中は食事で埋め尽くされた。
ヴェータライトがない今、全盛期程の食欲はない。
それでも、
食べることが好きなのはヴェータライトがなくなっても変わらないし、食べた分だけ動いているのだからイルミにとっては必要なことなのだ。
食堂に移動したイルミ達をローランドとミリムが迎え入れた。
そこに、指示を出し終えたギルバートも食堂に集まったから、自然とシャーマン=グロアとの戦術を話し合うランチミーティングになった。
応接室で少し触れた陣形について、1人を除いて詳しく話し合われることとなった。
「イルミ、そんな食べることばかりに集中してないで、話し合いに参加しなくて良いんですか?」
「メア、私は細かいことを考えずにシャーマン=グロアをぶっ飛ばすことだけ考えれば良いの。だから、今は食べる」
「あっ、はい」
言っても聞かないと早々にメアは諦めた。
こんな時、ライトがいてくれればと思うメアを責められる者はいないだろう。
ランチミーティングが終わって食休みに入ると、ローランドがイルミに話しかけた。
「イルミ、カリプソバンカーって
「そうだよ。叔父様は何か新しい
「ペイントゥーユーってのがあったんだが、ヘレンがライトに強化を頼んだら聖鉄製のジャマダハルになって戻って来た」
「
「そうなんだよなぁ。イルミのナグルファルが普通に羨ましいぞ」
「こ、これはライトが私にくれたやつだからね!?」
「別にくれとは言わんよ」
大切そうにナグルファルを抱え込むイルミに対し、ローランドは苦笑いしながら誤解を解いた。
「なんだ、驚かせないでよ」
「悪い悪い。教皇辞めちまったから、ティルフィングもねえし戦力ダウンが否めなくてよ、ついな」
「でも、聖鉄製の大剣を使ってるんでしょ?」
「まあな。聖鉄は聖鉄で良いもんだぜ。デメリットなくアンデッドに効き目があるからな。クローバーの<聖歌>があれば、幽体にもダメージを与えられるし」
ローランドの言い分はもっともである。
アンデッドが蔓延るニブルヘイムにいるならば、誰だって大小問わずデメリットなしに使える強い武器が欲しいだろう。
そう考えると、バフや特殊効果はなくともデメリットもなく、アンデッドに効き目のある聖鉄製の武器は十分に優秀であると言えよう。
「でも、ライトのダーインスレイヴとかって羨ましいんでしょ? 私も羨ましいけど」
「それを言っちゃおしまいだろ」
ダーインスレイヴやグラム、グングニルならば、通常の
ローランドが首を横に振るのも当然である。
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