第238話 話の途中ですがアンデッドです
6月3週目の金曜日、イルミはクローバーの護衛として
この派遣だが、ヘレンからパーシーに要請があってのことだった。
現在、大陸北部ではドヴァリン公爵家とアマイモン辺境伯家が協力し、呪信旅団とネームドアンデッドを競うように討伐している。
そこに、漁夫の利を得ようとその他の大陸北部の貴族も参戦するが、これはまともにやればネームドアンデッドにやられるであろうことは間違いない。
護国会議で提供されたリストに載っているネームドアンデッドは、今日を迎えるまでに大陸北部に残り1体となった。
ネームドアンデッドを倒せば、基本的に
それゆえ、パーシーにクローバーを派遣してほしいと頼んだ。
ネームドアンデッドとの戦闘にクローバーが駆り出されるようになったのは、彼女達の<聖歌>が【
特に、幽体のアンデッドを相手にする時は、<聖歌>を使えるクローバーがいるのといないのでは戦力に大幅な差が生じてしまう。
そして、大陸北部で現在確認されている最後のネームドアンデッドは、クローバーの力を借りた方が良い幽体のアンデッドだ。
そのネームドアンデッドの名はシャーマンという。
種類はオニキススペクターであり、普段は黒っぽい渦のような形状だが、地上に残留する強い怨念の主の力を吸い上げて自分の力にする厄介なアンデッドである。
シャーマンは元々、1ヶ所に留まるようなネームドアンデッドではない。
常に強い怨念を求め、ニブルヘイムのあちこちを彷徨う習性があった。
しかし、今年の2月頃から大陸北部に長く留まっていることから、それ以前に吸い上げた怨念が大陸北部にシャーマンを導いたのだろう。
強化されたシャーマンの討伐にクローバーが必要なのはわかるが、イルミだけでクローバー4人を守り切れるかはわからない。
だから、今回の派遣に関して言えばイルミに加えてもう1人護衛が追加されている。
「アーマさん、ドヴァリンダイヤまであとどれぐらい?」
「あと1時間弱で着きますよ、
そう、アーマ・ヴェサリウスである。
教皇の地位がローランドからパーシーに移っても、アーマはセイントジョーカーの教会で重宝されていた。
護衛もできれば教師もできるので、アーマには活躍の場が多いのだ。
普段の巡業や派遣ならば、イルミが御者台で御者を担う。
だが、今日はアーマが御者でイルミは車内にいる。
車内ではクローバーの4人が眠ってしまっており、イルミも護衛でなければ寝ていただろう。
アーマに今話しかけたのだって、眠くならないように気を紛らわせるためだったりする。
「1時間弱かぁ。護衛って寝てられないから大変だよね」
「
「そうそう。ライトがいると、つい安心して寝ちゃうんだよね~」
イルミがライトを頼りにしていることは、アーマもよく知っている。
ライトがここにいない今、自分の護衛としての役割に責任をもって起きていられるようにしているイルミはアーマには成長したように見えた。
アーマは微笑んでイルミのことを褒めようと思ったのだが、前方に遭遇したくない存在が視界に映った。
「話の途中ですがアンデッドです」
「何もしてないと眠くなるから丁度良いよ」
アーマが
「あの形、もしやシャーマンではありませんか?」
「そうかも。結界車には近寄れないだろうけど、遭遇したのに見逃すってのもどうかと思うんだ」
「私と
「逆に素通りできると思ってるの?」
「・・・無理ですね。ですが、戦うにしても手に負えなければ離脱するべきです」
「わかってるよ。倒せそうなら倒す。それだけだよ」
「わかりました」
イルミの意見をアーマが承諾した。
すると、イルミは車内に戻ってクローバーの4人を起こした。
「みんな起きて~。シャーマンが現れたよ~」
「んんっ、シャーマンですか? ってシャーマン!? 今回のターゲットじゃないですか!」
いち早く目を覚ましたメアは、一度流した情報の重大さに気づいて意識が覚醒した。
メアもイルミと一緒にセシリーとネム、ニコを起こす。
寝起きにシャーマンと遭遇したと聞けば、焦らない者がいなかったのは言うまでもない。
クローバー全員が起きたら、イルミは再び車外に出た。
「アーマさん、私がメインで戦うから4人を守って。アーマさんが幽体に攻撃するなら、4人の歌が必要でしょ?」
「わかりました。
「了解」
それぞれの役割を決めると、イルミは早速シャーマンに向かって進んだ。
その間に、メア達4人が<聖歌>の準備を終えてアーマの武器を強化し始めた。
背後から<聖歌>で歌われる”神のみぞ知る”を聞きつつ、イルミはシャーマンの前に立った。
歌とイルミの接近に気づくと、シャーマンが黒い渦状の体からとある姿に変身した。
「あっ、裏切りおばさん」
「誰ガ裏切リオバサンダァァァッ!」
シャーマンが変身した姿は、スカルケルベロスを創造した代わりに寿命を喰い尽くされて死んだ時のグロアのものだった。
アンデッドになってしまったせいで、片言な喋り方になってしまっているが、見た目も声もグロアに違いない。
ヒルダが口にした裏切りおばさんと言うフレーズは、イルミの記憶にも残っていたらしい。
うっかり口にしたイルミに対し、シャーマンがキレた。
どうやら、シャーマンは1月に死んだグロアの怨念を吸い上げた結果、パワーアップするどころか意識を乗っ取られたようだ。
今のシャーマンは、シャーマン=グロアと呼ぶべき存在なのだろう。
戦闘に関して言えばグロアは三流だが、怨念だけは一流だと言うことが明らかになった。
「裏切りおばさん、化けて出て来るなんて大した悪党ぶりだね」
「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス! 私ヲ裏切リオバサント呼ブナァァァッ!」
「【
マジギレしたシャーマン=グロアが瘴気を圧縮し、イルミに向かって<
しかし、イルミは聖気を右腕に纏わせたまま手刀を放ち、圧縮された瘴気を散らせた。
カリプソバンカーはイルミにしっかり馴染んでいるようで、大技を使わずともシャーマン=グロアの<
「生意気ナ小娘メ、コレデモ喰ラエ!」
シャーマン=グロアは右手を前にかざし、今度は<
瘴気を圧縮した<
「甘いよ! 【
イルミに向かって放たれた火は、聖気を纏った拳から連続で放たれる光弾によってイルミに届かずに消えた。
「ナンナノヨ、コノ小娘ハ!」
シャーマン=グロアがそう言うと、地面から瘴気まみれの岩がイルミに向かって生えていく。
「効かないよ! 【
「グァァァッ!?」
岩どころか自分にまで届く攻撃を受けたせいで、シャーマン=グロアは大きく仰け反った。
霊体とはいえ、イルミは<聖闘術>を会得しているから、【
遠距離戦を得意とするシャーマン=グロアにとって、自分の攻撃を打ち破ってそのまま反撃するイルミは大陸北部の有象無象と比べて天敵だった。
「覚エテナサイ!」
それだけ言うと、シャーマン=グロアは逃げ出した。
「あっ、逃げるな! 【
イルミが逃げるシャーマン=グロアに攻撃を仕掛けるも、その逃げ足は並外れたものだったせいで取り逃がしてしまった。
後先考えなければ、スカイウォーカーの効果を発動して追うこともできたが、今の自分はクローバーの護衛である。
それを理解しているからこそ、イルミはシャーマン=グロアに対して深追いしなかった。
いつまでも突っ立っていても仕方ないので、イルミはクローバーとアーマの待つ結界車まで戻った。
「ただいま~。逃げられちゃった」
「いえ、1人でシャーマンを撃退するとは流石は
「そうだよイルミ! すごかったよ!」
「「うんうん」」
「無理は禁物ですよ、イルミ。それよりも、私達もドヴァリンダイヤに急ぎましょう。
メアの言う通りだったので、イルミ達は
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