第240話 貧弱貧弱ゥ!
翌日、ドヴァリン公爵家の屋敷に偵察部隊の1人が駆け込んで来た。
「シャーマン=グロアを捕捉しました! 奴は今、ドヴァリンダイヤの西門から10分程の場所におります!」
「出撃するわよ!」
ヘレンが一声かけると、出撃メンバーが頷いて屋敷の外に停めてある
ドヴァリン公爵家で1台、イルミとアーマ、クローバーで1台の2台の
西門を出て10分かからない内に、先頭を走る
だが、そこには歓迎されざる第三者パーティーがおり、既に戦闘中だった。
「呪信旅団よ! シャーマン=グロアと交戦してるわ!」
「あいつらは俺がやる! ヘレン達はクローバーの<聖歌>で強化! イルミにはシャーマン=グロアと戦うように言ってくれ!」
それだけ言うと、停止した
すぐにアーマも
ローランドの叫んだ声が大きかったので、わざわざヘレンから指示を受けなくても何をすべきかわかっていたようだ。
クローバーの4人は移動中に歌える準備を済ませていたため、ヘレン達が参戦できるように歌い始めた。
「どけどけどけぇぇぇっ! 【
走って来たことによる運動エネルギーを上乗せしたまま、ローランドはシャーマン=グロアと交戦中の呪信旅団のパーティー目掛けておびただしい数の蹴りをお見舞いする。
その激しさは確かに嵐のようで、横から攻撃を受けた呪信旅団のパーティーの内5人がそれで吹き飛ばされて気絶した。
残る1人は、中心部にぎょろりと光る眼を持つ逆十字の見た目を持つ大剣をローランドと自分の間に差し込み、蹴りの勢いで後方に飛ばされたが致命的なダメージを負わずに済んだ。
呪信旅団とシャーマン=グロアを分断させることに成功したローランドだったが、目の前に立つ男を見て背負っていた大剣を抜いた。
「チッ、少しは骨のある奴がいたと思えばお前か
「出て来んなよ
ローランドが
ローランドがスキンヘッドなのに対し、エイワスは赤く長い髪を後ろで雑に結んでいる。
エイワスという男は、ローランドが在学していた頃に退学になるまではクラスメイトだった者で、今は手に持つ大剣を振るうのに問題ないぐらい筋骨隆々の男だ。
一見おとなしそうに見えて短気であり、カッとなってやった傷害事件は数知れず。
戦闘狂でも戦場では活躍するから、傷害事件も武功で帳消しにされていたのだが、アンデッドの出現が落ち着いた時に起こした傷害事件がきっかけで教会が投獄した。
当然、そんな男がおとなしく牢屋に入るはずもなく、取り押さえようとした衛兵十数名を再起不能にさせ、まだ教皇になる前のローランドが1対1の戦いを制して牢屋に入れられたのだ。
しかし、エイワスも呪信旅団が秘密裏に襲撃した牢獄から脱出していたようで、こうしてローランドの前に姿を現している。
「お前は人を敬うような性格してたか?」
「あぁん? 俺が戦うのにケチをつけねえんだ。おまけに、こんな風に俺に戦う機会をくれるんだから、敬っといて損はねえさ」
「ノーフェイスめ。面倒な奴を仲間にしやがって」
「正直、あのシャーマンとかいうの思ったよりも強くねえから萎えてたし、適当に他の奴等に任せときゃ良いと思ってたが、
睨み合うこと数秒、ローランドとエイワスが互いの大剣を振り下ろした。
どちらも技名を唱えておらず、純粋なSTRの勝負だった訳だが、押し負けて後方に退いたのはローランドだった。
「おいおい、俺を超えるSTRなんていつの間に身に着けた?」
「そりゃこいつのおかげさ」
そう言ったエイワスは、大剣を掲げてみせた。
その時、先程はよく見えていなかったが、大剣を握るエイワスの腕に大剣の柄頭から伸びた管のようなものが刺さっているのをローランドは目にした。
「その管が種ってか」
「そうさ。このイビルクロスは使用者に寄生する大剣でな、俺のSTRは斬った敵の数だけ伸びるんだ」
「寄生するとか気持ち
「大したことねえよ。1日1殺。これを守れなかったら死ぬだけだ」
「最低のデメリットじゃねえか。
「つまんねーこと聞くなよ」
「つまらなくねえよ」
「そうかい・・・。俺はなぁ、飯を食う数だけ毎日この大剣に生贄を捧げてるぜ」
「もう喋んな。死ぬ覚悟だけ決めろ」
「ハッハー! 面白くなってきたぜぇぇぇっ! 【
「【
ローランドとエイワスの間で金属音が鳴り響いた。
STRで負けているローランドは、斬撃を真正面からぶつけずに弾くつもりで放った。
そのおかげで、エイワスの斬撃の向きを逸らすことに成功した。
「チッ、そんなナリして器用な男だぜ」
「見た目は俺もお前も変わらねえだろ」
「ハッ、ちげえねえ! 【
「【
単発では効き目が薄いと判断したのか、エイワスは斬撃を乱発した。
しかし、ローランドも同じ数の斬撃を放って弾くことで、先程と同様に自分に向かって飛んで来たいくつもの斬撃から身を守った。
「カーッ、面倒臭えっ! サクッと斬られやがれ!」
「そこで首を縦に振る訳ねえだろ!」
短気なエイワスは苛立ち、ローランドはツッコんだ。
一部の特殊性癖を持つ者を除き、無抵抗のまま斬られたいとは思わないだろう。
「【
「【
エイワスが前に踏み出しながら回転して横薙ぎが完成するコンマ数秒前に、ローランドの大剣の先端がイビルクロスに命中する。
それでようやくローランドとエイワスの技の威力が互角となり、ローランドとエイワスが互いの攻撃の反動で仰け反る。
だが、ローランドの手からは聖鉄製の大剣が離れてしまった。
自身はイビルクロスが管でつながっているため、武器を手放すようなことはないのでエイワスがローランドを嘲笑う。
「貧弱貧弱ゥ!」
「誰が貧弱だって? 【
そう言った時には、ローランドは体勢を立て直して既にエイワスと距離を詰めており、仰け反ったまま曲がったエイワスの脚を踏み台にして飛び膝蹴りを放つ。
「ブヘェッ!?」
ローランドの膝が顔面にクリーンヒットし、エイワスは盛大に鼻血を噴き出した。
後ろに倒れ込んだエイワスに対し、起き上がるまで待つようなスポーツマンシップなどローランドは持ち合わせていない。
仰向けに倒れるエイワスの体に馬乗りになり、ローランドは両手で執拗にエイワスの顔を殴り始めた。
「【
喋る余裕すら与えることなく殴り続けることで、ローランドはできる限りエイワスのHPを削った。
ところが、エイワスの意識が朦朧としてきた時、エイワスの右腕に寄生したイビルクロスが勝手に動き始めた。
その音に気づいたローランドは慌てて大剣の落ちている所まで飛び退き、どうにかイビルクロスの攻撃を避けた。
エイワスは体の上からローランドが退いたので立ち上がったが、既にエイワスの意識はないようで白目を剥いて涎を垂らしていた。
意識がないのにエイワスが立ち上がった理由は、勿論イビルクロスだ。
いつの間にか、1本だけ刺さっていたはずの管が増殖し、エイワスの右腕を覆い尽くしていた。
「
「生贄ヲ捧ゲヨ」
イビルクロスがエイワスの体をコントロールしているらしく、喋り方が片言になっていた。
「やるっきゃねえか」
「ローランド、援護するわ! 【
イビルクロスとやり合う覚悟を決めた瞬間、後方からヘレンの声が聞こえ、そのすぐ後に雨のように矢がエイワス目掛けて降り注いだ。
イビルクロスがそれらに反応し、次々にそれを撃ち落とす。
それこそ、ヘレンの狙い通りだった。
自分の攻撃に意識が向けば、ローランドが一撃をかませる隙が生じる。
「サンキュー、ヘレン! 喰らえ! 【
個の力で叶わないならば、数で押せば良い話だ。
ヘレンの矢を撃ち落としている最中の斬撃の乱れ撃ちまではイビルクロスも対処しきれなかった。
一撃ずつが重い斬撃をまともに喰らい、エイワスの体はバラバラに斬り分けられた。
宿主が死ねば、イビルクロスもその活動を止めた。
「やれやれ、気持ち悪いもんを斬っちまったぜ」
嫌そうな顔をするローランドだが、無事にエイワスを倒せたことを確認すると急いでヘレン達に合流した。
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