第212話 無茶しやがって・・・
トーレスノブルスの城壁と結界が見えてくると、それを遠巻きに見るタキシムの群れの姿があった。
どのタキシムもトーレスノブルスへの憎しみを隠さず、じっと睨みつけている。
車窓からタキシムの群れを見たライトは、苦笑いしながらセシリーに話しかけた。
「セシリーさん、よくこの包囲網を抜けて来ましたね」
「うん、今思えばかなり無茶だったよ。怖いから御者台で歌ってたんだけど、それが効いたのかも」
「なるほど。<聖歌>ですか。この
「私って実はすごい?」
「勇気だけは認めよう!」
「イルミ姉ちゃんは何様なのさ」
「そうだよ。イルミが協力してくれたのはわかってるけど、聖水作成班になれるかわからなかった私達をアイドルにしてくれたのはプロデューサーだよ?」
「プロデューサーのお姉ちゃんはプロデューサーよりも偉い!」
「「「それはない」」」
イルミが馬鹿なことを言ってのけるので、ライトとヒルダ、セシリーが真顔のまま声を揃えて否定した。
「そんなぁ・・・」
「じゃあ、そのプロデューサーよりもすごい所を見せてもらおうかな。具体的には、視界に映るタキシムを全滅させてみて」
「わかった!」
即答したイルミは、まだ走っている最中の
「行っちゃった。
「イルミだもん。しょうがないよ」
「あの行動力は確かにすごいと思う」
突発的なイルミの行動を見て、ライト達は驚きを隠せなかった。
そんなライト達を置いてけぼりにして、イルミはタキシムの群れの上空に辿り着いた。
「お姉ちゃんの強さを見さらせ! 【
イルミの拳から光が散弾のように放たれ、それがタキシムの群れに向かって激しい雨が如く降り注ぐ。
「大した戦闘センスだよ」
「イルミはあれぐらい簡単にやるのが恐ろしい」
「うわぁ、すご~い」
進路上にいたタキシムを一気に全滅させるイルミの姿に、ライト達は感心せざるを得なかった。
頭上というものは、人類だろうとアンデッドだろうと死角になる。
その死角からタキシムの群れを討ち漏らさぬように、【
アンジェラが
「お疲れ様。【
ライトはイルミの筋肉痛を治すついでに、魔石の回収に都合が良いように周囲の空気を浄化した。
「ライト、お姉ちゃんのすごさをわかってくれた?」
「イルミ姉ちゃんの戦ってる姿は、偶にすごいと思うよ」
「偶には余計だよ、偶には。お姉ちゃんはすごい。言ってみ? お姉ちゃんはすごい」
「イルミ姉ちゃんすごーい」
ヘイカモンと言わんばかりに煽るイルミに対し、ライトは棒読みで応じてみせた。
「むぅ、馬鹿にしてる」
「そんなことないよ。僕はすごい時はすごいってちゃんと言うし」
「えへっ、だよね~」
(やはりチョロい)
ライトの言葉を聞き頬が緩むイルミは、ライトの中でチョロい認定されているが仕方のないことだろう。
魔石の回収が終わると、ライト達は
城壁のすぐ近くまでやって来ると、門の内側から出て来る
その車体の家紋を見て、ライトの表情が険しくなった。
何故なら、車体の家紋はドゥネイル公爵家のものだったからだ。
しかし、ライトの表情はすぐに元に戻った。
ドゥネイル公爵家の
ライトも
ライトの姿を見ると、アルバスは笑顔で駆け寄って来た。
「ライト、久し振りだな!」
「アルバス、元気そうじゃん!」
「いやぁ、そうでもねえんだよ。ここにいるのも父上の指示で、トーレスノブルス周辺に湧いたアンデッドを倒して来いとか、呪信旅団が出たら問答無用で殲滅しろって言われてよぉ・・・」
「なかなかの無茶振りだね。派遣されたのはアルバスだけなの?」
「おう。御者のテレスは護身ぐらいはできるけど、普段はメイドでアンジェラさんみたいなことはできない。実質俺だけでどうにかしろってさ。はぁ」
溜息をつくアルバスから、御者をしているテレスに視線を移したライトだが、テレスの腕には見覚えのあるブレスレットが嵌められていた。
ライトはテレスの正体に気づき、にっこりと笑って声をかけた。
「戦力としてカウントされてないそうですよ、ジェシカさん?」
「え゛?」
まさか自分の姉がいるはずがないと思い、アルバスは変な声を出してしまった。
御者台から立ち上がったテレスがブレスレットを外すと、外見がジェシカのものへと変わったため、アルバスの口は顎が外れそうなぐらい開いた。
「誰が戦力外ですか、この愚弟が」
「げっ、姉上!?」
「大体、私がテレスに化けてたことぐらいわかりなさい。どうしてライト君が気づけて愚弟が気づけないんですか?」
「いやっ、それは・・・」
「私がテレスのふりをしてるからといって、メイドに接するような態度をするから我慢するのが大変でしたよ」
拳を震わせながらジェシカがそう言うと、アルバスは恐怖のあまりライトの影に隠れた。
「ライト、頼む! 姉上を何とかしてくれ!」
(ジェシカさんがメイドに変装するから悪いと思うんだけど、変装した理由もあるだろうからなぁ・・・)
ジェシカが変装していた理由に見当がついていたので、ライトは一方的にアルバスの味方をする訳にはいかなかった。
だから、姉弟喧嘩というよりはお仕置きに近いものが始まる前に、話して良さそうなところまで答え合わせをすることで話題を逸らすことにした。
「ジェシカさんも考えがあってのことなんだよ。というか、そのメイドさんと違うところがあったんじゃない?」
「姉上は擬態するのが上手いんだ! ライトがいるから上品ぶってるけど、ライトがいない時なんてマジで鬼畜なんだぞ!?」
「愚弟・・・。言い残すことはそれだけですか?」
目の笑っていない笑みを浮かべるジェシカを見て、アルバスが体をブルッと震わせた。
(無茶しやがって・・・)
本人を目の前に言ったらお仕置き待ったなしの内容を連発するアルバスに対し、ライトは心の中で敬礼した。
まだ死んでねーよとツッコむ余裕はアルバスにはなく、割と本気でビビっていた。
そんなアルバスに天使が舞い降りた。
「ライト、まだ~? お姉ちゃんお腹空いた~」
「イルミさん!」
アルバスはジェシカのお仕置きに怯えていた表情から一転して、満面の笑みでイルミに駆け寄った。
「あっ、アルバス君。元気そうだね」
「はい! めちゃめちゃ元気です! 元気=俺みたいなところありますから!」
(嘘を言うんじゃない、嘘を)
ライトがツッコまなかったのは、
ところが、
「何言ってるんですか。愚弟は家だと口数少なくて根暗ですよ。どこが元気なんですか?」
(おぉ・・・。ジェシカさんに慈悲はなかったか)
家でのアルバスの様子を暴露するジェシカにライトは戦慄した。
だが、アルバスはジェシカに屈しなかった。
イルミの前では
「姉上こそライトの前でズバズバ言って良いのか? ライトが引いてるぜ。親友の俺にはわかる」
「・・・そうですか、そうですか。良いでしょう。姉より優れた弟は存在しないと教えてあげます」
「ジェシカさん、良いこと言った!」
「嘘だろイルミさん!?」
(イルミ姉ちゃん止してやれよ。アルバスが折角頑張ろうとしてるのに無自覚にジェシカさんに加勢しちゃ駄目だってば)
姉より優れた弟は存在しないという言葉の響きが気に入ったらしく、イルミがコロッとジェシカの味方っぽくなるとアルバスは軽く泣きそうになった。
流石にアルバスが不憫に思えたので、ライトは手を差し伸べることにした。
「イルミ姉ちゃん、姉と弟のどっちが優れてるかよりお腹が空いてるんじゃなかったっけ?」
「そうだった。ライト、お腹空いたからトーレスノブルスに入ろうよ。牛が待ってる」
「いや、牛肉料理ご馳走になる前提なの?」
「だったら良いなと思ってる。セシリーに頼めば牛肉食べれるかな?」
「どうだろうね。訊いてみれば?」
「そうする!」
イルミはその手があったと素早く
「ジェシカさん、状況のすり合わせをしたいので、一緒にトーレスノブルスに行きませんか?」
「わかりました。愚弟、御者を代わりなさい。今日はそれで勘弁してあげます」
そう言ってジェシカも自分の乗って来た
「心の友よ! 俺は信じてたぜ!」
「ブフッ、そんな映画版の時だけ仲の良い奴みたいな言い方しないで良いってば」
ジャイ〇ン映画版の原理をうっかり口にしてしまうぐらい、アルバスの言葉がライトのツボに入った。
その後、日が沈み始めた頃にライトとアルバスが乗るそれぞれの
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